encounter03


 掴みかかりたかったが、相手は神ということを思い出し、思いとどまった。


「さあな。それは影響が現れるまで判らん。だが喜べ。おまえは神に近づくのだ。人にはできないことができるようになり、死後は、おまえが望めば神の席に座ることも可能になったのだ」


 俺に対して恩恵を与えたのだと言いたいようで、それまでよりも偉そうな口調。

 どんどん湧いてくる怒りと不安で、何と言い返していいのか判らない。


「それにな? おまえが望むならヘラの愛人にもなれるぞ。……ちょっとだけヤキモチ妬きだが……姿は美しいままだし、賢い女だぞ? どうだ(我の代りに面倒見てはくれぬか……)」


 おい! 最後に小さな声で本音言いやがったな。

 きちんと聞えたぞ!


 ゼウスの妻ヘラと言えば、とても嫉妬深いことで有名じゃねぇかよ。

 ああ、そうか……ゼウスは浮気性。

 ヘラに俺をあてがって、自分はまだ遊びたいのか?

 あれ? ゼウスはテューポーンとの戦いで去勢されたんじゃなかったか?

 もしそうだったら……。

 ギリシャ神話にもいろんな解釈があるからどれが本当か判らない。


「いえ、ヘラ様の愛人など滅相もない! (そんな怖いことできるか! )」

「そ、そうか……ま、気が変わったらいつでも言うがいい (確かに怖いかもな……)」

「そんなことより、俺が半神半人になったというのは本当ですか? 」

「ああ、それは事実だ。神の血イーコールを飲める栄誉を賜る者など滅多に居ないのだ。光栄に思うが良い」


 光栄に思うが良いって言われてもだ。

 俺には俺の生活がある。

 神の血イーコールを飲んで半神半人になり、どのように俺が変わるのかも判らないのに、光栄に思うも何もない。


「いや、そうじゃなくてですね。俺はこれからどうやって生きていけばいいんです」

「ん? おまえの望むように生きれば良い。ただ、ギガースの復活を阻止する手伝いはして貰うぞ」

「そんなことどうやって……」

「今は判らん。ギガースの復活の気配は感じられるが、どこで復活しようとしているのかも判らんのだからな」

「そんなこと偉そうに言わないで欲しい。せめて、場所や状態くらいは調べてくださいよ……対処法もですよ? 」

「ああ、もちろんだ。それはこちらで調べる。今までは、ギガース退治に使えそうな人間がいなかったから、そこまで考えていなかったのだ」

「……はあ……もういいです。できることは協力しますから……クロノス様の解放の件宜しくお願いします」


 どうせここで何を言っても、状況は変わらない。

 それに、やはり相手は神だ。

 俺に抵抗できるはずもないんだよ。


「ああ、クロノスは解放するし、おまえを手伝わせよう。自由になりたいのなら、おまえの手伝いをしろと伝えろ。あと、新たな情報わかり次第おまえに伝える。それでいいな? 」

「いいな? じゃないんですよ。こっちに拒否権はないんでしょう? 」

「察しがいいな。賢い人間は好きだぞ。では我も忙しいのでな。さらばだ、また会おう」


 暗がりの中、姿は薄れていき、そして消えていなくなった。

 これからどうしたらいいのかとため息をつき、ゼウスが居た場所を力なく見つめていた。


 ――しょうがない。クロノスに報告してホテルへ戻り、さっさと寝よう。

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