4 森の隠れ家
森のなかの隠れ家でキリンデは盗賊の一味といっしょにささやかなパーティーを楽しんでいます。隠れ家の小屋は狭いので小屋のそばでイスや地べたに座って焚き火を囲んでいます。
「ほら嬢ちゃん、これ食べな」
そう言って、盗賊の一味の太ったおやじのビリーがキリンデに缶詰めの封を切ってよこしてくれました。キリンデはすでに盗賊たちと最初の挨拶を済ませていてお互いの名前は知っているのです。キリンデは一人一人の名前などもう覚えていないでしょうが名前を共有し合うというのはとても大切なことで、キリンデはもうこの人たちとは打ち解けた気になっていました。もっともキリンデは誰とでもすぐ打ち解けた気になってしまいますが、それでも盗賊たちは突然あらわれた珍客にたいしての警戒は薄れ、食べ物を前にしてヨダレを垂らして喜んでいる赤い服の幼女が自称旅人の迷子と思うようになっていました。
キリンデがもらった缶詰めはグリーンピースが入っていてもう味が付いているようでキリンデは美味しそうな匂いをかいで唾が出てきてもう食べると思ったときスプーンもフォークも無いことに気づきました。
「ねぇ、これどう食べるの?」
すると気さくで酔っぱらいのフラップが、
「そりゃおめえ、こうすんだろ」
と言い、自分の缶詰めを掴んで封を切って顎をちょいと上げるとまるでグラスの酒を飲み干すかのように缶詰めの中身を口の中に流し込んでしまいました。キリンデは呆気にとられてみんなの注目も気にせず一粒ずつ指で摘まんで食べていましたがちょっと塩味のある味付けに胃袋を刺激されて口のなかに沢山ほおばりたい欲求が我慢できなくなりました。そしてついに缶を両手で掴んで浴びるように口へ運びました。しかし、キリンデは缶切りの鋭利な切り口で舌を傷つけてしまいました。
「イテェに!ひはほひっはひ」
「おいおい、大丈夫かよ」
「あぁもう、こぼしちまいやがって」
「どれどれ、見せてみろ」
そう言って、リーダー格のチャコールの帽子のフレディ(ラドベル周辺地域では女性に付ける名前なのでみんなリーダーやボスと呼んでいる)が呼んだのでキリンデはてててと駆けて行くと痛そうに舌先をペロッと出して見せました。フレディは傷口を診ると右手をいつも肩にかけているポーチの中に入れてナニヤラするといきなりキリンデの舌を掴みました。キリンデは驚いてジタバタしています。
「いー!いーー!!」
「ジタバタするなよ、引っこ抜くぞ」
フレディはキリンデの舌を指で掴み親指の腹で傷口を優しく撫でています。その指は滑らかで不思議な温かさがありキリンデはその心地よい感覚に身を委ねて大人なりました。
「血は止まったな」
「わぁ、ホントに、しゃべれるに」
「出た、ボスの怪しい黒魔術」
ジールという黒髪で顔半分を隠した背中の曲がった男が低い声でそう言いました。
「たたの軟膏さ、あまり舐めたりするな、あと今夜はもう食べるなよ」
キリンデはガックリ膝を落としました。
「そんな、そんなのイヤに、おなかへっているに!、食べたいに!、悲しいに‥」
「まっ、自業自得だな」
「おやっ、お嬢ちゃん。もう食べれないのかい。これから肉焼くのに」
「え!?」
「ありゃりゃ、食後のケーキまであったのに。食べれないのかい」
「え!?えぇに!?」
みんなキリンデの大袈裟な悲しみがり方が気に入ったらしくいじわるにしています。
「ひどい、ひどいに!どうしてこうなるに!ただ沢山食べたいだけのいい子だったのに」
キリンデが号泣してわめくのでさすがにみんな引いてきました。
「まぁ、とりあえず今日は寝て明日食えよ」
「あの切り口が悪かったに、わたしのせいではなかったに。切り方が下手だったに‥」
「あんだと」
「わたしはまた小さい子どもに!ならあんな切り口に気づかないことはあるに、よくあるに、前にもあったに。だから大人の人にはもっとバリアフリーを考えて欲しかったに。そうすればこんな悲劇は起こらなかったに、防げたのに‥」
キリンデが大声で叫んだり地団駄踏んで涙を流しながらて悲しむので男たちは面食らってしまいました。
「この嬢ちゃん苦労してんだなぁ、こんなにおかしくなっちまって」
「「に」ってなんなんだ?」
「て言うか、ばりあふーりーってなんなんだ?どこの言葉だよ」
みんながそれぞれの考えをめぐらせているなか、1人馬車の中に隠れていた木彫り人形のスコーロは荷台の奥に刻まれた見知らぬ魔方陣を見つけていました‥。
ノエンの星剣 夕浦ミラ @Uramira
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