3 馬車強奪
キリンデは林の中を男を追って流通街道とは反対側の道まで来ました。足跡を探しながら木に頭をぶつけたり、ヘビを踏んでしまったり、キリンデの髪型の「へ」の字の部分をサルに掴まれて持っていかれそうになったりして、キリンデは満身創痍でしたが林の中に隠れる男を見つけるとすぐに元気を取り戻しました。
「いた!いたよ、スコーっちゃん。え!2人いるに」
「様子がおかしいね」
そこにはキリンデが追ってきた男ともう1人の男がいて、2人とも首から鼻までバンダナで隠していて道の側の木の裏に隠れていて目の前の道を何かが通るのを待っているようです。
「これはまずいよ、キリンデ。隠れた方がいいよ」
「う、うん」
キリンデは草むらにしゃがんで草の間から様子を見守りました。
しばらくして遠くの道に馬車の影が見えてきてこちらに向かってくるようです。すると道の向こうの木の裏から酒瓶を持った男があらわれて道の真ん中に寝転がったのです。馬車は驚いて止まり馭者が寝転がった男に怒鳴っています。すると、木の影から数人のバンダナで顔を隠して銃を持った男たちがあらわれて馬車を囲みました。地面に寝転がった男も起き上がると馭者に拳銃を向けてまるで大人が子供を諭すような口調で言いました。
「へい、何もあんたの命が欲しい訳じゃねえ。手を上げて大人しくしていれば、ラドベルの憲兵隊が来るころには俺たちはいなくなってるし、あんたらには保険がおりるんだからよ」
そう言った男だけは顔を隠しておらずチャコールの帽子の広く巻き上がったつばを人指し指で弾いて不敵な笑みを浮かべています。
「わ、わかった。撃つな、撃つなよ」
馭者は怯えて手を上げました。
「よし、それでいい。お前ら!さっさとやることやっちまいな」
そう言われて、手下たちは馬車に近づくと馭者を引きずり降ろし馬車を走らせはじめました。馭者は起き上がると慌て馬車を追いかけました。
「ま、待ってくれ、おればどう帰ればいいんだ」
「道ってのは町に続いているもんだ。足を使うんだな」
そう言い残して、チャコールの帽子の男は馬車に飛び乗り仲間の手に掴まり馭者に手を振り去りました。馭者は立ち尽くして馬車が行くのを見ていましたが、馭者の目には馬車の荷台の下に引っ付く小さな人影が見えていました。
強盗の一味は馬車を町からはずれた森のなかの彼らの隠れ家となっている小さい小屋に停めました。その小屋はもう使われていないボロボロの木造で数人が寝泊まりするにしても狭いところでした。
「よーし、お前ら、今回もよくやった」
男たちは馬車から降りると積み荷を調べはじめました。
「情報通りだぜ、ボス。食料、缶詰、乾物。おぉ、酒もあるぜ」
男たちは自分たちの成果に喜び合いました。
「久しぶりにまともな食事が食えるぜ」
「酒があるのか、今日はパーティーだな」
「やったに~、わたしも混ぜて欲しいに」
...。静まりかえる男たち。
「今の声誰だ?」
「「に」ってなんだ?」
「なんだ、お前は!」
男たちの1人に見つかってキリンデは服の背中を掴まれて皆の前に連れ出されてしまいました。突然の珍入者に、「迷子か?」とか「どうやって来た?」とか「憲兵隊のスパイか?」など皆それぞれに考えを巡らせているとキリンデが林の中で出会った男がキリンデに気づきました?、
「お前はあの時の!」
「あ、立ち...」
男に口を押さえられ後を遮られたキリンデはモガモガともがきながら男の手を噛んで抜け出すと馬車の荷台に飛び乗り高らかに宣言しました。
「わたしはおなかがペコペコに、いっぱい食べるまでここをどかないに。こういうのトリック・オア・トリートって言うに!」
突然のキリンデの登場に男たちは面食らっています。
「トリック・オア・トリートってなんだ?」
「また「に」って言ってたよな」
「ショーンが連れて来たのかよ」
「どうするんだ、リーダー」
リーダーと呼ばれたチャコールの帽子の男が帽子を深くかぶり直しながら言いました。
「この場所を知られたんだ、このまま帰すわけにはいかねぇからなぁ、しばらくガキの面倒をみるしかないな」
そして、やれやれと肩をすくめながら馬車の荷台に陣取る赤い服の少女を眺めるのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます