月の街

流通街ールーテ・トゥエルー

1 荷馬車にて

流通街道の地平線まで続く長いまっすぐの道をガタゴトと走る荷馬車が上り坂を登りきるとリンゴが入った樽の中からひょっこりと顔を出したキリンデは滑らかな金髪の頭にちょこんとのっけた木彫り人形のスコーロと共に辺りをキョロキョロと見まわしました。

「今どの辺りだろうね?スコーっちゃん」

そう呼ばれたスコーロはキリンデの髪に掴まりながら辺りを見まわしました。

「キリンデ!町が見えるよ」

 キリンデたちは今、ルーテ・トゥエルに向かって流通街道を進んでいるところです。ルーテ・トゥエルはラドベル近郊にある宿場町で大都市であるラドベルで商売をするために多くの商人がルーテ・トゥエルに集まります。流通街道にはこのような町がいくつもありキリンデたちが乗った馬車はルーテ・トゥエルのひとつ手前にあるアケノンというラドベルを見渡せる丘の上の町に着くところでした。

 金髪を風になびかせながら馬車の進む方を見るとまず馬車の手綱を握るおじさんの背中が見えました。キリンデはおじさんが後ろを振り向かないか注意しながら景色を見てみるとまず町の入り口から続く大通りに沿ってレンガ造りの家々が建ち並び、その背景にはどこまでも続く青い大空と大きな入道雲、そして太陽の光がサンサンと降り注ぎの農作物に恵みを与え、人々はのんびりと幸せに過ごしているようでした。キリンデが太陽に手を透かしてみるとポカポカしてきて光の眩しさも心地よくなってうとうとしてきたとき「どーう、どーう」と聞こえてきて、どうやら馬車が止まるようです。キリンデは急いで樽の中に引っ込み蓋を閉めました。

 馬車は町の手前の道端に停まっている荷馬車の横に停まりました。停まっていた荷馬車のそばで陽気な小太りの男性が手を振っています。

「よう旦那、どこからだい?」

と小太りな男性が声をかけると、荷馬車のおじさんも返事をしました。

「フリースだ。あんたは?」

「おれはここさ、この町さ。ところであんたの荷は満載のようだが、どうだい?少し分けてもらいたいんだが」

「あんたがどこで売るのか知らないが、これはラドベルで売るんだぞ」

「ああもちろん、ラドベルと同じレートを出すさ。...ふふん、南の方にある不毛の土地で売ればここより高く売れる、詳しくは秘密だけどな」

そう言って男は馬車の後ろにまわって品定めをしだしました。

「秘密にしなくても誰もそんなに土地にいきたくはないさ」

そう返して、おじさんも馬車から降りて荷物に向かいました。キリンデはおじさんに無断で馬車に忍び込んでいたので迫る危機を感じていました。

(早く出なくちゃ)

キリンデが蓋を開けようと押し上げると小太りの男性が樽に腰掛けてしまいキリンデは樽から出れなくなってしまいました。キリンデの力ではどんなに押しても蓋は動きません。

(どうしよ、スコーっちゃん!どうしよ、スコーっちゃん!)

(お、落ち着いてキリンデ。とりあえず様子を見よう)

小太りの男性はキリンデの入った樽に腰掛けたまま、おじさんと話し続けています。売値に不満のようです。

「この先、ハートグラドーの森を抜けるなら、旦那。気を付けな、盗賊がいるからな。奴ら森にいるくせに人から盗むしか食いぶちを得る手段を知らねぇ」

「それは怖いが、安く売る気はないぞ」

「あぁ、そんなつもりはねぇ。...とにかく見せてもらおうか」

そう言って小太りの男性は樽から腰を上げ蓋を開けようとしました。キリンデは驚いて頭を上げてしまい、蓋に頭をぶつけてしまいました。ゴツンっという音が樽からして二人の男は樽を凝視しています。キリンデは口を手でふさいで息を潜めてきっと見つからないように祈りました。しかし樽の蓋が徐々に開けられていき隙間から差す光が大きくなっていき緊張でリンゴのように赤くなったキリンデの頬っぺたを照らしました。

(あぁ、見つかっちゃうぅ...)

もうだめだと思ったときキリンデは妙案を思い付きました。





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