ノエンの星剣

夕浦ミラ

星見の魔女

魔女は星を見上げる

 えぇん、えぇん....と泣き声がきこえてきます。キリンデはまだ小さな子どもなのですからこんな夜に深い森の中に一人でいたら当たり前かもしれません。けれどキリンデは1人で旅をしなければなりません。さぁ涙を拭いて立ち上がって月の光を探すのです。

 キリンデがふと顔をあげると草木の向こうから小さな淡い光がこちらヘ向かって来ます。その光がランタンの光でそれを持つ白い手と黒い人影が見えたときキリンデは立ち上がり手を胸の所でくんで不安そうにその人影を見つめます。

 ひたひたとやってくる足音は人のものではありません。その人影はやがて三角に尖った帽子と鴉の羽で出来たドレス姿となり、その姿を見たキリンデはきっとわたしは魔女に捕まって目玉や小指を取られてスープの具にされてしまうんだとまた泣きそうになってしまいました。しかしあらわれたのは真っ黒な犬で体中に白い棒が何本も突き刺さり目は色を失った真っ黒な穴となっており、それを見たキリンデは腰を抜かして尻餅をついてしまいました。

 うぅぅ、と唸る黒犬の後ろから年老いたしわがれ声がこういいます。

 「あんた、その光を止めな。月の眷属共がやってくるよ」

そう言われて、キリンデは背中に背負っている宝剣が光っていることに気づきました。背中から外して宝剣を手に取ると光は消えてしまいました。するとランタンの光に隠れていた人影が姿をあらわしました。ランタンを持つ手は青ざめて裾からはみ出す裸足の足先もまた同じです。 

 「今日は満月だから儀式の邪魔をすると奴らにさらわれちまうよ」

 「あなたは魔女なの?」

 「人に尋ねるときはまず自分が名乗ってか

 らじゃあないのかい」

 キリンデは黙ってしまいました。魔女に名乗ってはいけないと教わっていたからです。

 「やれやれ、やっぱり人間は礼儀知らずだ

 ねぇ。まぁ、魔女にも名前はないんだか

 ら構いやしないよ」

 そう言うと、魔女は空を見上げます。するとそれまで空をおおっていた木々たちが二人の上の枝をどけてくれたのです。そして白い月の光が二人を照らすと、姿を現した魔女の顔を見てキリンデは驚きました。声とは逆に魔女はとても若い姿をしていたのです。さらさらとした月の光を浴びながら夜空を見上げる魔女の美しさにキリンデは吸い込まれるようにただ見つめていました。

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