第93話 凱旋
アイコム雪原に引き返すと大きな穴が空いていた。
「ディオスは逃げ出した。奴と決着をつけよう。クルド。探し出し追い詰めるんだ」
「でも右目を潰したんだよね」
「そうさ。だが、奴の事だ。このままではすまないはずだ。今奴を逃せば、次はきっと苦しい戦いになる。早く探し出そう」
クルドと辺りを飛び回るがディオスは出てこない。
「奴め、何処に行ったんだろう」
「もう逃げたんじゃないの」
「いや、奴の事だきっと何かを待っているのか、それとも隠れているんだ。あいつがここからそんなに早く移動できるはずがない」
「僕を見れば絶対出てくると思ったのに。どうしたんだろう」
「きっとダッシュガヤの奴だ。あいつが止めているんだ」
「ディオスの悪口を言ってやれば」
「やめておいた方がいい。奴は出てこないさ。どんなにバカにされても出るに出れない時があるものさ。奴はその理を知ったんだ。嫌な奴と組ましたものだ。だが一つだけ探さなかった所があったな」
「どこだい」
「グエルを屠った所だ」
「行ってみようか」
二人はグエルに最大業火フルバスターを食らわせた所にやって来た。辺りは何もない様に見える。だが、アキオには何かが気にくわない。
「降りよう。きっと何かが見つかる」
アキオの指示で降り立ったクルドはこれはおかしいと感じた。
「アキオ。行こう。早く」
「どうしたクルド」
「おかしい。何かが違う。でもわからない。だからもう一度やろうと思う」
クルドは空高く駆け上がると同じ場所に最大業火フルバスターをもう一度降らせた。大きな爆発音。山は溶けなくなった。そこには溶岩の様にドロドロになった岩石があるだけであった。だが、爆発に紛れて逃げ出す赤いドラゴンが一匹、東の空に飛び去るのをクルドたちは見逃した。
「アキオ、居なかったねえ」
「そうだな。今度はどんな手でくるのか。心配だな」
二人にとって今回の戦いに不満が残るが、いつまでもここに残る訳にもいかないので中つ国に引き返す事にした。中つ国の中央広場は多くの国民が待って居た。二人が到着した時、大歓声が立ち上がった。多くの者が手を振ってくれ、中つ国の全てが沸き立って居る様だった。
広場から王宮の門をくぐると多くの武将たちや文官たちが整列していた。
「大聖龍と共に!光あり。栄あり。繁栄あり」
そこに居る全ての者が合唱した。俺は閉口した。トボトボと階段をクルドと登り、王宮の入り口に入って行った。誰もが俺たちの態度を不思議がった。
正面の門のところにソレアとミランダは少し不機嫌に立って居た。
「やあ、暫く。元気してた?」
この言葉が彼女たちの怒りに火をつけた様だった。
「何を言うかと思えば。そんな事は誰でも言います」
「誠、ソレア殿の言う通り。私たちは妻なのです。言葉が違います」
俺が「えっ」と思い、言葉を口に出来ないくらいに二人に追い込まれていると、横から口を挟むものが現れた。
「ミランダ様。ソレア様。もうおやめください。アキオ様が困っておられます」
二人を黙らせられる奴がいるのかと驚いていると、こちらを向きこう切り出した。
「初めてお目にかかります。私はここ中つ国の首席大臣のバルバでございます。ようこそ中つ国においで下さいました。あなた様はクルド様のため一刻も早く大聖龍キョロシ様にお会いされたいことと思います。されどここは一つ私どもに付いて来て頂きたい」
そう言って俺を奥に案内をしようとする。バルバは小声で俺の耳元で囁いた。
「お二人の身なりに少しは気づいてお上げなさいませ。あなたがこられるのはキョロシ様から聞き及んでおりましたので、お二人の今日の姿には並々ならぬ気合が入っております」
「ハハハハ。そう言えば少し違う様だね」
ミランダ、ソレアの二人を見て、ハニカミながら話しかけた。
「今日は綺麗だね。どうしたんだい」
「俺も綺麗に見えるか」
「私も綺麗でしょう」
二人の機嫌が直ったみたいで一安心。バルバにさらに労いの言葉をと催促され。
「ありがとう。助かったよ」
それしか言えなかったが、二人は何故か舞い上がって居た。
俺が通された部屋にはオババが待って居た。クルドも入れる大きな部屋であった。
「さあ、お待ち申しておりました。こちらに」
オババに手招きされ、奥に入って行く。
巫女が一体何人いるのか数えることが出来ぬほど立っている。
俺にミランダ、ソレア、クルド。並んで進んで行くと、目の前に大きな黄金に輝くドラゴンが現れた。その姿を見たクルドは「ほ〜」と一言言葉を発した。だがドラゴンの前に小さな輿が置いてあり、何人もの巫女が世話をして居た。俺たちが現れるとその全てが側から離れ、後ろの下がった。
「大聖龍、キョロシ様とお見受け致します。ここにおりますはクルド。正き道を歩むものなれば聖印をお授け下さいます様にお願い申し上げます」
アキオが言葉を発したその時、輿の中から声がした。
「アキオ。アキオ。お前なのかい」
その声は小さく、か細い。もう今にも死にそうに感じるさせるものだった。だが、アキオには懐かしい響きがあった。
「勇者アキオ。いや、竜の戦士アキオ。今こそお前の願いが叶う時。一つの願いはこれで成就したものと知れ」
キョロシは初めて言葉を発した。
「クルドよ。お前には聖印を授けてやろう。これを受け心静かに過ごせる者は中々居らん。お前にこの苦しみが耐えられるかどうかは判らない。だが、お前が求め、お前が授けるに値するものである事は、我には分かっておる。この苦しみ受けるか」
クルドは悩みながらも聖印を受ける事を選んだ。クルドは痛いのか、苦しいのかと、思っていたが何ともなかった。
「お前は今は何も見えまい。これは仕方のない事。だが、見えると苦しむ事もある。知らない方が良いこともあるのだ。これからは、この世の定めを見定める者として生きてゆくのだ。心してゆけ!」
アキオは輿の中に案内され、輿の中に横たわる人を見た。薄いベールの様な天幕の中に中に横たわるその姿は老婆の様に見える。
「さあ、勇者様。こちらです。あなたをこの一千年お待ちでした」
「オババ、一千年?何故、そんなに長く」
「さっさ。お早く」
アキオはオババに手を掴まれて、その老婆の枕辺に連れられた。アキオは見る。安らかに眠るがごとく静かな顔を。
「母さん!こんな所に居たのかい」
「あぁ〜。アキオ。キョロシに告げられた事は真実だった。これで私は何も思い残す事はない」
「母さん」
アキオは母の手を握り、涙を流した。
「母さん。父さんはどうなったんだい?何処にいるの」
「あの人の事は知らないの。あの時、ドラゴンが私たちの前に現れて、と言うか、私達がこの世界に開けた穴から、いや、違うわ、突然開いた穴に落ち込んだという方が正しい。ドラゴンは苦しんだと思うの。我々を吹っ飛ばしただけの力のあるドラゴン。苦しんで居ると思う。我々の研究がこの世界の安定を台無しにしたと今は考えているの」
「母さん。どうすれば、そのドラゴンを救ってやれる。何とかしてやらなくっちゃあ、ならないだろう」
「そうね。でも、私の命の火は、もうすぐ消えてしまう。それにあの場所に帰り着かなければ何も出来ない」
「どうすればいいのか。ここに来てわからなくなった。今までは勢いで前に進む事だけを考えていれば良かった。どうすれば」
アキオは輿から出て、立ち尽くす。それを見ていたクルドは静かに言った。
「アキオ。どうしたいんだい」
「クルド。もう良いんだ。おかげで母とも会えた。父の行方は分からずじまいだが、一応これでよしとするしかない」
「そうかな〜。アキオ。君のお母さんは多分助かるよ。それに君の行く所にまで僕が連れて行ってやろう。君が今まで尽くしてくれたのにこれは恩返しさ」
「ハハハハ。でもあそこに俺が帰ったらもう帰ってこないかも知れないぜ」
「そんな事はないと思う。だって君は竜の戦士なんだから。苦しむドラゴンを助ける為、君は行ってくれるんだろう」
「そんなに俺を君は信頼してくれるのかい。こんな俺を」
「何を言うんだい。君はあのへそ曲がりのガジガルを友人にした。怪物と変わり果てたバクラをドラゴンの心を取り戻させた。この事は他のものには出来なかった。大切な友人を裏切る事など出来るかい?」
「ありがとう。でも」
「僕たちの前にはもっと苦しみが待って居る。この苦しみに君は耐えれるだろうか」
「ああ。見えたんだね。クルド」
クルドは顔を輿の中に入れた。しばらくして、輿から顔を出した。それから部屋を後にした。後に残った俺やミランダ、ソレアは顔を見合わせ、何が起こったか分からなかった。
オババは薬を持って輿の中に入っていった。
「あっ!あっ!」
余りに大きい声がするので三人がビックリして輿の中に入ると、そこには空港で別れた時の母がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます