第94話 帰還
「もう行くのか?そうか。そうだったな。千年などあっという間であった。その方との出会いは分かっておったが、楽しい千年んであった。この別れも分かってはおるが、辛いものだと心が感じる。未来が見えるものは苦しむことが多い」
そう言ってキョロシは玉座に腰を下ろした。
「あなた様は私を助けて下さいました。恩返しも何も出来ないまま、ここを去るのは心苦しいのですが、お許し下さい」
「カオリ・マクレイン。そう名乗っておったな。今は大巫女カオリナ。お前は息子の母である。お前がいなければ奴も無く。この場所にもくる事はなく。世界は滅んでおったのだ」
「・・・・・」
「そう驚く事もない。世界には理が厳然と存在する。その理の一つの歯車に過ぎないのだよ。私もお前も。そう言う事なのだ。行きなさい」
キョロシはそう言うと目を閉じ黙った。知らぬ者が見ると黄金のドラゴン像がそこにある様に見える。
カオリがキョロシとの最後の別れを終えて、王宮を後にした。クルドの背にアキオ、カオリ、ミランダ、ソレアが乗り、約束の地に飛び去った。
オババはキョロシに呼ばれ、その前に立っていた。
「お呼びでしょうか」
「お前を今日からカオリナと呼ぶことにしようと思う。良いな」
「ハハッ!キョロシ様。巫女として励みます」
「さて、カオリナよ。なぜその様な姿をしておるのか」
「はい?なぜと仰られましても。いつもの姿でございます」
「ふぬ〜。お前はどうしてクルドに若くして欲しいと頼まなかった」
「えっ!その様な願い聞き届けて頂けるとは思いもよりませんでした」
「まあ。今度頼めば良い」
御座を後にした二代目カオリナとなったオババは、アキオとクルドが再度ここに来るように願掛けをする様になってしまった。
飛んでいたクルドはある所で止まった。
「ここだろう」
「クルド、どうだろうか。降りて調べて見るよ」
多くの草が多い茂り、俺たちが生きてきた証はないように思えた。が、歩いていると1メートルの石碑があった。墓碑銘はグレーグ。それを見た俺はつい涙が流れた。
「グレーグ。あんた、俺を待っていてくれたのか」
クルドに手を振り、ここで合っていると伝えた。
「アキオ。あれを見てよ」
クルドの言う方向を見ると、そこの空間がやけにゆがんでいる。丁度人一人分入れるほどの大きさで、渦が巻いてる様にも見える。
「これはどうしたものか」
母親には普通の空間にしか見えないが、俺の見え方を絵に描いて説明すると、多分空間が小康状態に保たれている様だと言う。
「これは電磁波が収束してる筈。だから今、この空間は閉じようとしてる」
「だったらもう開かないのかい」
「アキオ。大丈夫。キョロシは言っていた。あの場所に帰れると。キョロシの言葉は絶対です」
母親のキョロシへの信頼は絶大で、俺はそんなものかと納得した。
ミランダとソレアは二人して食事を用意してくれた。
「お母様。これをどうぞ」
「これもどうぞ」
二人はえらく母に尽くしている。横で見ていて気恥ずかしい俺。
「あなた達はアキオの妻でしたね」
「はい。そうです」
二人は嬉しそうに答えていた。
そんな時間が過ぎて行く。何時間立っただろうか。クルドと二人眺めていると、稲光が時折見えて来る。
「そろそろだね。アキオ」
「その様だね」
先ほどの空間は歪みが母の目でも見える程大きくなって来た。
「そろそろ行くか」
母親の手を握り、クルドに二人を歪んだ空間に放り込んでくれる様に頼んだ。
「ミランダ、ソレアまっていてくれ。終われば帰って来る。帰って来なければ死んだものと思い諦めてくれ」
「待つの。諦めるの。どっち?」
「えっ!俺、これから命がけで飛び込むんですけど」
「どっちなの。ハッキリしてよ」
二人に攻められ困惑する俺。クルドは言う。
「アキオは帰って来るよ。冒険は終わらない」
俺たちはクルドに空間に入れてもらった。
光の窓が見えた。その窓にだんだん近づき、鏡にぶつかった様に思えたとき、あの実験施設の中央管理室に母と二人立っていた。
俺が壁抜けをやって逃げて、そんなに時間が立っていない様であった。中央管理室の端の所で携帯電話で話す男が一人立っていた。奴の後ろから声をかける。
「や!ジェフ・グレイザー久しぶり」
「お!お前は」
振り返り、俺を見て動揺を隠せないジェフ。携帯を持つ手が震える。そして、俺の後ろに目をやり、仰天をする。
「カオリ・マクレイン。生きていたのか。帰って来たんだね」
震えながら腰が砕け座り込むジェフ。もう何も言えず、震えている。どうしたものか何も話さない。
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