第71話 白い神聖龍

 クルドは触手を蠢かすこの手の植物の事は知らなかった。だが自分の足に絡みついてきた物を嫌っていたクルドは、アキオの言う指示以上に焼く意欲に沸いていた。山の上は消し去られ、岩盤の中に蠢く根の部分もキッチリ燃やし続ける事を厭わなかった。その為山の上部は無くなり、大きな穴が空き、周りの岩石も溶岩の様に溶け出す始末で、火山の爆発の後にも見える景色がそこに残った。


 大岩を溶かしてみると、大きな氷の塊を掴む様に植物の根が絡みついている。これはこの植物の本体かと思っていたが、この中に光る存在がいることが見えた。

「クルド。さあ、早くこの根を燃やしてしまおう。これが最後だ。けど力を入れすぎるなよ。周りだけを焼くんだぞ」

「アキオ。任してくれ。だいたいの見当は付いている」

クルドはマイルドにボワっと火を吐き、少しづつ焼いて行く。とうとう最後まで焼き切り、大きな氷の塊が出て来た。焼け落ちた根が氷の水に浸かると動き出す。「クルド。あれを見ろ。あれではダメだ。全て焼き切るまで焼こう」

クルドは焼け落ちた全ての物をもう一度焼き切った。だが山の頂上には元の植物の根や触手が残っている。クルドが近ずくと根や触手が伸びてくる。放っておけば何の変化もない。だが、クルドは燃やしてやると息巻いていた。

「クルド。こいつは今殺す時じゃない。きっと別の使い道がある。それまでここに置いておこう」


 コギリは氷の水を母親に飲ませてやりたいと思っており、手ですくおうとした。

「やめておけ。そんな事をしなくても良い。もう少し待て」

「どうしてアキオ様」

「あれを見てごらん。あの氷の中を」

コギリが見ると氷の中に白いドラゴンと女の子が一人いた。

「これは白神様に違いないと思うよ。だからこの水をもらうより、頼んで見る事だ。そして、この山の復活を宣言して貰うことこそお前の役目だぞ」


「コギリよ。俺はクルドと梺に戻り、お前の母をここに連れて来ようと思う。俺たちが戻る前にお目覚めになれば、お前が白神様に最初の一言をかけるのだ」

「アキオ様。なんといえば良いのか」

「そうだな。先ず大切なのは、挨拶。おはようございますかな。それから今までの経緯。お前が聞いて見て来た事を話す。嘘偽りなき真実をな。そして、ここのところが大切な事だ。村を守り導き給えとお願いしろ。白神様がお認めになれば、お前の願い一つ、一つ頼めば良いではないか。まあ、先ずは友達になる。その友達に頼むのだ、決して悪いようにはしないものだ。人もドラゴンも同じだと思う」

頷くコギリを残し、俺たちは村に帰って来た。


 俺が村に着いた時ミランダとソレアは涙を流して抱きついて来た。村でのことを話す二人を遮り、早くカイラを呼ぶ様に指示する。呼び出されたカイラはコギリがいないのを見て、泣き崩れた。


「コギリは無事だ。今、白神様の目覚めに立ち会っている。お前も早く参ろう。ミランダ、ソレア行こう。白神様に会おうではないか」

四人を乗せたクルドは白神様と呼ばれるドラゴンの氷の塊のあった所に降り立った。大きな氷の塊が割れており、孵化した卵の殻が残っている様にも見える状況にコギリが心配になった。


「お〜い。コギリ。どこにいる」

呼びかけていると、返事があった。声のする方に歩いてゆくと、白いドラゴンが岩の上に座っていた。その傍にはさっき氷の中に見かけた女の子がいた。コギリは俺にちゃんと言われた通りのことを白神様に告げたと報告した。

「それで首尾はどうだった」

「守護してくださるとお約束を頂いた」

「それは良かった」

「あの子はレビン。白神様の巫女。俺は守護者」

「ふ〜ん。そりゃ〜良かったじゃないか。頑張れよ」

俺はコギリの肩を叩いてやり、その勇気を褒めてやった。


 カイラは白神様の前に平伏し、巫女の言上を申し述べた。これを受け、レビンは白神様の言葉をカイラに伝えた。俺は言う事が分かるので黙って見ていると、急にこちらを見てお前は誰だと問いかけて来た。レビンが言葉を告げようとするのを遮り、この山の魔物を退治したドラゴンの友人だと伝えた。


「ふ〜ん。竜の戦士か。見るのは久しぶりだ」

「クルドに会っていただきたい。これであいつの旅も終わる」

「それで良いのかね」

「終わりはいつでもやって来る。俺は拒まない」

「そうか。それでは会おう」


クルドは白神様事、クルシュナゴーンと面会が叶い、八聖龍の一人と出会う事ができた。これで俺の行くところはクルドの村だと思っていたら、クルシュナゴーンに聞かれた。

「お前の功績に対して三つの質問を許そう。何を質問しても真実を持って答えよう」

「う〜ん。三つか?何を聞こうかな」

「なんでも良いぞ」

俺は迷っていた。母の居場所、父の居場所。こいつに聞けば分かるだろう。だが、どうしてもここに来た理由の一つを解明しなければならない思いがあった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る