第43話 願い

「これから話すことは他言無用に願いますじゃ。さっき言った儀式はあなたの様な勇者様を呼び出す儀式。もう死んでしまったあなたでもこの世界に呼び戻し、薬草を取りに行って貰う事を頼むつもりでした。ですから勇者様、あなたがあの場所に現れた時点でもう願いは聞き届けられたのです」

「勝手な言い草だ。俺は受けるとは返事してないぜ」

「まあ、そう言わずに聞いて下さい。ある山の頂に咲く白い花が要るのです。もう何人も送り出しましたが、誰一人として帰って来ないのです。それで私に神託を受けよと命が下りましてな。今回の次第となりました。是非とも受けて欲しい」


 聞けばソレアとその一行は騙されて捕まったらしく、男12人が牢につながれており、俺が聞き届けなくば全て殺すとオババは言う。悩む所だがオババの申し出を受ける事にした。

「それで、男12人は全て解放してくれるんだろうな。あの娘も一緒だぞ」

「はい、分かっております」

「それと、この件は大切な用事が終わってからでないと手をつけることは出来ないんだ。それでも良いのか」

「はい、よろしくお願いします」

「ふ〜ん。分かった。解放する限りは身を守る武器と旅に必要な食料を渡してやってくれ」

「心得ました」


 男12人と先ほどのソレアは縄を解かれ、武器に食料を渡されていた。男たちは一様に安堵の顔つきに喜びの表情が現れていたが、ソレアは大変な剣幕で俺を睨んだ。

「お前は俺の誇りを傷つけた。許さない」

ソレアは剣に手をかけると俺に斬りかからんと息巻いた。

「やめるのだ。ソレア」

間に入り止めたのはソレアの父親であった。

「このお方は我らに武器と食料を下された。お前も生贄の儀式から解放して下さったんだ。お礼を申し上げろ」

「親父、何を言う。さっき巫女の婆さんにこんなもの要らないと言っていたんだ。俺の顔を見てもプイッと横を見やがって。悔しい。殺してやる。生贄になった方がましだ」

ソレアは剣を抜くと置いてあったソドクの盾を掴み、俺に挑もうと掛け声も高らかに押し寄せた。その時俺の前に立ちはだかったのがミランダだった。両者は睨み合いになり、どうなるかと周りの者たちは声も出さずに見ていた。

「ソレユイ、ココ、レイ。ソレユイ、ココ、レイ」

ミランダは人差し指を額にかざし、呪文を唱えた。ソレアは眠るかの様に意識が落ちてゆき、体がユラユラとふらついた時、ミランダは剣で相手の剣を叩き落とし、盾を跳ね除け首筋に剣をつけた。これでミランダの勝利が確定した。

「ソレア、お前の負けだ」

父親に言われ悔しがるソレア。余りの悔しさにソレアは男の様に股を広げて座り込んだ。俺の目の前で。目のやり場に困る俺は知らん顔してミランダに声をかけた。

「さあ、行こうか。早く行かないとクルドに叱られる」


俺たちが立ち去ろうとすると、ソレアの父親のガテヤが俺の肩を掴み引き止めた。

「見たでしょう」

「何を?」

「ソレアのあそこを」

「見てません。何も」

「あなたはいい方だ。が、嘘が下手だ。あそこに立っていたら見える筈だ」

「いや、何も見てません」

困った事にガテヤはソレアにお前の夫はこの男に決まったと言った。この言葉にソレアは怒り、俺は困惑する。ガテヤは俺を脅す。

「あなたのお気に沿わないかも知れませんが、ソレアはあなたを殺さねば自由になれないのです。黙って貰う事ですな。死にたくはないんでしょう」

「でも俺が死ねば怒り狂うドラゴンがいるのいだけれど。君たちどうする」

「あなたは嘘が下手だ」


仕方なくクルドを呼ぶ事にした。クルドが森の木々の上に顔を出し、鳴き声を発すると全ての人が平伏した。たった一人を除いて。

「あなたを倒せる者などいない。あなたこそ私の夫」

ソレアは俺に抱きつき、従順と服従を誓うのであった。これからの旅を思うと、右と左に悩まされる事になりそうだった。オババは俺の方を見てニヤリと笑った。

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