第44話 カール4世

 クルドに乗り3人は湖のほとりについた。夜も迫っていたので野営をして朝を待つ事にした。火を焚き飯を作るのは、女二人がすぐに仕度を済ませた。楽チンと思いたいところだが何故か二人は目が恐ろしく真剣だ。俺と目があうとニコッと笑う。そんなギャップにゾクっとする。

「焚き火の前においでください」

ソレアは食事を用意して待っている。ミランダは水を用意して待っている。俺は二人の間に座る事に。

「えらいこっちゃ。二人の火種が俺かよ。高校生の時、女という女にシカトされていたのに、美女二人に奪い合いの対象になれるとは、夢にも思わぬ事になった。しかし、これはこれで疲れるなぁ。オババの言う右と左は俺には大変だよ。ウフッってわけにはいかないなあ」

心の中で思いが溢れて、ため息が出る。


 クルドは俺たちのことなど知らんフリで、すぐ横で寝そべっている。焚き火がユラユラとする中、何かが火の向こうで動くのが見えた。

「うん。何、あれは」

俺が口にするとソレアはゲルニカでございましょうと答えた。

「私もそうと思うが、奴らは武具を着込み、剣に槍を持っている様だが」

「ミランダ殿、俺の国では奴らの干物が珍味なのだ。親父などは「今日はソチがないとは悲しい、酒が美味くない」と言い、母ソニアに買いに行かせるくらいなのだ。奴らが来てくれた。これは俺が、料理して旦那様に食べて頂ける様に神様がお与になった好機なんだと思い、舌なめずりをして待っていたのだ。今日はソチにはなるまいが、明日になら一夜干しくらいになってくれるだろう」

「そうかソレア殿、どちらが多く獲るか勝負しよう」


 二人は各々業物を持って身構える。すると焚き火の前に現れたゲルニカは五千ほどの集団であった。

「ほほう。これはこれは。手頃な数だ。ミランダ殿。こちらからそこまでは俺の領分。どれだけ逃さず獲るか勝負といこう」

「あい分かった」

二人の女はゲルニカを食材としか見ておらず、人とは考えてもいない。だが俺は一応武具を着込み、武器を手に持ち集団でやってくるからには知性があるものと認識していた。


 背丈は1メートルぐらいでミランダやソレアに比べて小さい。甲冑を着込み、剣を持つ奴らは何故か怯えている様に見えた。「ゴ~キィ、ゴ~キィ。グッ、グッ、グッ」と鳴いているのを聞いているとカエルを思い浮かばせる。ゲルニカの集団から一匹が前に進み出て、大きな声を発した。「カカカカ。キャク、ゲッ、ゲッ」などと鳴く。俺は言っている言葉がわかるので、ミランダやソレアに翻訳してやった。

「お前たちはもうすでに包囲されている。どこにも逃げ場はない。降伏するなら命まで取ることはない」と、言ってるよ。

この言葉を聞いたソレアは激怒した。

「前に出たお前。少しばかり大きいからって偉そうに。舐めるなよ。俺に勝てるとでも思っているのか。俺の大切なお方にお前を食べて頂く、ありがたくその身を捧げろ」

ソレアが、一歩踏み出すとゲルニカは二歩下がった。多くのゲルニカが足音を一斉に鳴らしたので大きい音がした。その足音を聞き、後ろのゲルニカは逃げ出した。どうも臆病な者たちだ。ソレアやミランダの様な獰猛な女達からすれば、やはり獲物の域を出ない様だった。一瞬たじろいだ隙にソレアが飛び出し、一匹だけ前に出ていた一回り大きい奴を生け捕った。

「ふ、不覚。朕が虜になるとは」と泣いたが、ソレアには「クワッ、クワッ、クッ、クウクッ」としか聞こえない。

ソレアはそいつの首を鷲掴みにしてゆっくりと焚き火の前に連れて来た。

「旦那様、一番のご馳走をお作りいたしましょう。こいつは旨そうです。足らなかったら、まだまだたくさんおりますのでいかようにも料理できます。ミランダ殿との勝負は私の勝ちです」

「何い、これから幾らでも狩れる。矢をい掛けたら一本の矢に幾らのゲルニカが刺さっているか、見てみるか。そいつはあなたに任せたのよ」

「は〜ん。そうでしたか。これはありがとうございます。それでは俺が如何程狩れるか見ていて頂こう」


 この二人の会話を俺が通訳して聞いたゲルニカの王は泣き出した。

「やめてくれ。朕の身一つで許してはくれぬか。他の者たちには手を出さないでくれ。朕はゲルニオール・デオ・カール4世なるぞ。息子に遺言を伝えさせてくれぬか」

俺に頼んで来た。それでソレアに遺言を伝えさせてやれと言う。

「そうか遺言か。覚悟を決めたとは殊勝な。許そう」

ソレアはそう言うとロープでカール4世をくくり、さあ行けとゲルニカ達の前に行かせた。大臣を呼ぶと息子に伝えよと「ケロ、ケロ、ケロ」と悲しげに鳴いていた。

「もういいだろう。そろそろ火がいこった。旦那様、か〜るく焼くのがお好みですか。それともしっかり焼きましょうか」

火の前に縄でくくられた大きなカエルはうな垂れて、悲しげに涙を流していた。周りに立ち尽くす家来たちはただ黙って見てるだけであった。


「どうした、王様。もっと堂々としなくても良いのか」

俺が声をかけると怒りに狂う声を出し、俺に噛みつかんばかりに跳ね起きた。

「バカめ。旦那様に対して失礼な奴。こうなれば股裂にして半身づつしっかり焼いてやる。覚悟せい」

カール4世の紐を持つソレアがギュッと引っ張ると、彼は地面に大きく倒れこみ引きずられる事となった。

「ミランダ殿、あなたが右の足をお持ちなさい。俺が左を持ち、両方から一気に引っ張って引き裂きましょうぞ。どちらの両分が大きか、勝負しようではありませんんか」

これに答えてミランダがカール4世の右足に手をかけると、カール4世はオイオイと泣き始めた。



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