第42話 勇者様は美女がお好き

困った事に事はおかしな方向に進んで行く。ミランダはオババの言葉を神の神託のように受け取り、剣を抜きかける。俺は止めるのに必死で周りから見てると痴話喧嘩見えるらしく皆に笑われる始末だ。

「勇者様。お熱いですな。いつ嫁になさいました」

オババが聞くので言ってやった。

「さっき山の上で貰ったんだ。嫌だったんだけどな」

「それは重畳。そのような嫁中々手に入るものではございません。さればでござる。あなたの子供は一族の源流にして長としての地位が与えられている事にお気付きか。お喜びなされ」


 声を落として諭すようにオババが話す。

「なぜ、このような事に首を突っ込みなさるのですか。あの者も嫁にしようとされるのですかな。あれは生け贄。神託を受ける身代わりです。儀式の邪魔立てをするとは、いやはや。お命が縮まりますぞ」

「オババ、俺も死にたくないんだが。俺が死ねば、もっと困る者が近くにいる。もしそれが暴れ出してみろ黒龍様どころでは済まないぜ。どうする?」

「ヘッ!今なんと」

オババの目が点になっている。

「呼ぼうか。呼ばないでおこうか。どうする」

「アッ、ハッ、ハッ、ハッ。・・・・・・、結構でございます」

オババは頭を下げ、皆に宣言した。

「この女、ゲルクは許された。今より後、何人も手を出す事を許さぬものとする。ゲルクよ。行くがよい。兄のソドクよ。連れてゆけ。許そう」


「勇者様、ありがとういございます。これはお礼です」

ソドクは自分の持つ大きな盾を俺に捧げて妹とその場を離れて行った。持つには重たい盾なので俺は困ってしまった。

「で、勇者様。これから何処へ征かれます」

「この先の大きな湖に行くつもりなのだ」

「おう、サジル湖ですな。確かあそこには恐ろしい化け物が住んでいると言われております。退治するおつもりですか」

「いや、そんなことが目的ではないんだが」

「ふ〜ん。そうですか」

オババは何やら考えている様子であったが、何かを閃いたらしくニヤリと笑った。あの顔をした時は警戒しなくてはと思い、ここを早く離れようとミランダに言っていたら俺に聞こえるようにグンに言う。

「早くあの娘を連れて来い。生贄にするのだ」


 しばらくすると鎖で繋がれた女を一人引き出してきた。髪は黒く少しカールしている。体も浅黒く筋肉モリモリだ。マッチョ娘を生贄にすると宣言した。この娘は力があるのだろう、五人の男が引き出し、オババの前にひれ伏せさせられた。かなり強引に地面に押し付けられたので、顔が怒りに引きつり、歯を食いしばりながら「殺してやる」と罵った。

「あれはソレア。アイラ族のソレア。アイラ族一の戦士。私の知る限り負けるような者ではない。どうしてあんな姿になったのか」

ミランダは不思議だと言ってオババに聞いた。

「何でもこの村との諍いで縄をかけられたと聞いている。捕まった以上どうされてもいた仕方ないことじゃぁ。なあ、勇者様」

そう言ってニコリと笑うオババを見て「ハハ〜ん。これが取引の材料か」と思っていたら、案の定オババが言う。

「どうです。殺すには惜しい娘だとは思いませんか」

ソレアの顔を俺の方に向け、またニコリと笑う。俺は困惑する。ミランダだけでも厄介を感じているのにどうしたものかと考えてしまう。だが、ここで素朴な疑問が湧き上がってきた。それは何故、生贄の儀式をするのかと言うことだった。


「オババ、少し聞きたい事がある。いいかな?」

「何ですかな」

「生贄の儀式はどうしてやる事になったのか。生贄の条件は?」

「まず生娘である事。神に愛される美人である事。健康であることの三つですな。それと大巫女様の病気平癒が目的です。この儀式が」

「ちょっと待った。さっき神託を受けるための生贄と言わなかったか?それっておかしくない」

「いえいえ、別におかしくはございません。神託を受けて大巫女様を助ける方法を聞くのでございます」

「ふ〜ん。そうなんだ。少しヘンテコに感じるがそれじゃあしかないか。ミランダ、さあ、行こう。もうここには用は無いだろう。オババ、世話になった」

するとオババは慌てて俺の手を握った。

「待て待て、この娘を生贄にするんだぞ。いいのか」

「仕方ないんだろう。オババの仕事を邪魔しても悪いからサヨナラするよ」

「さっきの娘はダメで、この娘はいいのか」

「イヤ、さっきもどうでも良かったんだよ。ミランダがどうしてもって言うから」

そう言うとオババは何かブツブツ言いはじめ、自分の計略が破綻したのを憎らしく思っている様であった。


「どうだろうか、勇者様。お願いがあるんじゃが。この娘、お主にやろうではないか。如何かな。なかなかの器量好し、役に立とうほどにそばに置きなされ。決して損な申し出ではないと思うが」

「このミランダだけでも手に余るのにお断り申し上げる」

「何と勿体ない事を申す事じゃぁ。仕方ない。生贄として儀式の場に連れてゆくか」

何と言うババアか。俺の顔を眺めつつ、俺の出方を待っている。

「俺に何をさせたいのかハッキリ言ってくれないか。困るよ、話が先に進まない」

「先に娘を貰うと言ってからでないと言えないのじゃぁ」

「それって、難しいお願いをするから先に承諾してよねって言ってるんと同じだよ。それは御免蒙る。それに俺は女が欲しいと言った事無いよねぇ」

「じゃが、右と左にせがまれてそれも良いものじゃとワシは思ったがなあ」

「俺は大切な用事を達成しなければならぬ身。変な用事は受けられないんだ」

「どうしてもダメなのか」

「聞くのが先だ。受けられる事と受けられぬ事がある」

するとオババは腕を組み、悩んでいる様だったが俺がこの場を離れようとした時、決心した様であった。

「わかった。お話ししようぞ。ただし、他言無用に頼みます」

俺とオババは天幕に二人で入り、話をする事になった。



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