第39話 鬼の親方はニギニギが大好き

 虹の一族だと言ってた女の縄を切り、剣と弓を渡してやったがあまり嬉しそうでなかった。何故か悔しそうだった。だが、この多くの人達をこれからどうしたものかと考えていたら、武装した50人ばかりの集団が山道を登って来た。その集団の中から一人が進み出て、盾を剣で叩いて闘う意志を示し、女子供を解放するように声をあげた。その戦闘集団の代表と話を始めたのは虹一族の女だった。


「あなたが皆を助けてくれましたか。ありがとうございます」

「あなた方は?」

「私共は昨晩、ミランダに妹たちを助けて貰い。慌てて後を追いかけて来たものです。ガウトと申します。ここから西の方に村があります。遅くなれば助けられないことは分かっておりました。鬼たちの進早さに追い付けず、どうしたものかと」

「それは良かった。皆さんはこの人達を助けてくれますか。お願いします。旅の途中でしたのでどうしたものかと考えていた所でした。助かります」


 奴隷として売られようとしていた100人ばかりの者達はガウト達に預けて先に進むことにした。さて、鬼の親方はふて腐れていた。

「親方。すまないねぇ。ちょっと聞きたい事があるんだ。良いかな」

「ふんっ。なんですかい」

むすっとして取り付く暇も無い雰囲気に手を焼くも仕方ないかと諦める。それで、腹でも空いてるんじゃ無いかと思い、焼いたゴロの実を右手に握らせた。

「コイツァ。ダノンじゃないか。頂けるんで。ありがとうさんで」

何か勘違いしてるんだろうがまあ良い。話が円滑に進ならそれはそれで良い事だと思っていた。

「何が聞きたいいんですか。旦那」

こいつは効き目抜群だなと思い尋ねた。

「あんたら百鬼組は顔が広いんだろう。ドラゴンの好きな木の実の話は聞かないか。何でも美味しいとか、大きいとか、そんな話は知らないかなぁ」

すると、鬼の親方は右手を出して、掌をニギニギとさせ、顔を上に向けた。

「分かった。これだろう」

ゴロの実を握らせると、にんまり笑い話し始めた。

「確か、ここから東に山五つ超えたところに大きな湖があるんです。まあ行って見りゃあわかる事ですが、湖の辺りに大きな木がありましてね。確かドラゴンが守ってると言い伝わっております。が。・・・・・・」


 「うん?」どうしたんだと思って親方を見ると、右手がまたニギニギしている。

「フッ」と笑いながらその手にまた握らせると話し始めた。

「その湖には木の実を取りにきたドラゴンを食う怪物がいてパクッと食いますんで。お気をつけなさい。あなたのドラゴンなんか、小さい方ですから。気をつける事だ。わたしはその昔、親父と一緒にその湖のほとりで一夜を明かしましたが明け方近くにドラゴンが飛んできて木の実を採ったところを見ていました。喜んでいたと思いますよ。誰って?ドラゴンですよ。実を咥えるところまでは見ていました。次の瞬間湖から大きな影が飛び出たと思ったらもう居なかったんですよ。つまり食われたんです。あの恐ろしいドラゴンが食われる。親父に言われましたよ。何事も上には上がいてるものだと。最後まで気を抜くなともね」

「何が守ってるんだ」


 手を見るとニギニギしてるんで、これからは別料金なんだと思い、またゴロの実を握らせると話はじめた。

「これは話だけですが、見たことはないんです。わたしがいた所からは遠かったので、これは親父からの受け売りですがね。木の前に大きなドラゴンがいて、実を採りにやって来たドラゴンに条件を出すと聞いています」

「条件とは」

「それは知りません。行けばわかるでしょう。ただ、湖の上は危険だと覚悟なさい。そう言うことです」

鬼達はゴロの実を見て嬉しそうだった。


 解放されて喜んでいる女や子供にドラゴンの話を聞いてみた。

「誰かドラゴンの話を聞いたことはないか」

皆んな目を伏せ、首を振り、すまなさそうにしている。

「まあ。そんなに簡単にドラゴンの情報は転がってないよなぁ」と思いつつ、その場を離れようとした時、一人の男の子が「あの〜」と声をあげた。


「なんだい。何か知ってるのかい」

「オラの家は水晶の谷の近くだったんだ。代々勇気を示すために水晶の谷に行くんだ。だけれど、100年前からそこに住むドラゴン様が狂い、暴れ始めて多くの村が無くなってしまった。一年ほど前オラのにいちゃんが谷に行ったんだ。けど少しして地震があって、村で生き残ったのはオラだけ。他の者は地面に吸い込まれ、いなくなった。恐ろしかったがオラは逃げ出し、三日三晩歩きつめて何もわからなくなり、気がつけば手をくくられ、この中にいたんだ」

「それで水晶の谷ってどの辺にあるんだ?」

「わからない。だって逃げて逃げて、やっと助かったんだよ。場所なんかわからないよ」

「それもそうか。親方、この子はどこで拾ったんだ」


 鬼の親方は気まずそうに言う。

「拾ったって、旦那、そんな言い方ダメですぜ。俺たちは金で買取、高値で売る。正々堂々の商人です。あの女は盗賊みたいなもんですから仕方ないと思ってくださいな。その子の拾った所ですか」

手を出し、ニギニギする。

「いや〜。悪かった。これだな。分かった。分かった」


「そいつは、ここから南に行くと大きな湖があります。が、その湖は南北に細長いのです。その・・・・・・」

「分かったよ。これだろう」

「実はその湖周辺の村は、昔は15ほどありましたが今はもうありません。湖に沈んだり、山津波に呑まれたりして無くなりました。こいつは最後の村の生き残りだとすれば、コウザト村の出でしょう。コウザト村は南の端にありましたよ、確か」

「水晶の谷はどこにあるんだ」

「それは知りません。あの坊主に聞いて下さい。私どもはもう行きます。今回の旅は大損害だ。嫁に怒られるだろうなあ」

鬼達は北に向かって行ってしまった。


 子供に聞くと、村から北の方角に高い山があり、その麓の何処かにあると言うものだった。子供すぎて儀式まで時間があったため教えて貰えなかったらしかった。


ドラゴンの情報は思わぬ形で得られた。

「クルド。これで行く場所は東に決定だ。山五つ越えたところの湖だそうだ。急ごう。遅れを取れば大変な事になる。クルド、これが終われば俺の要件が先だよ。分かってるかい」

「ああ。同意する。約束だからな」

「頼むよ。それが終われば今度は南に行くんだ」

「分かったのかい」

「ああ、だいたいね。さあ、急ごう」



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