第40話 捕まってしまった

 さあ、出発しようとすると、ガウトがやって来て少し嬉しそうに話しかける。俺はどうしてかなって思ったが、多くの人を押し付けた形になっているので無下にも出来ず話を聞くことにした。

「アキオ様。あなたはもう一人で行く事は出来ません。どうかお連れください」

「何を連れて行くんだい。早く行きたいんだが」

「困ります。どうかお連れ下さい」

ガウトは声を落として、俺の耳元で囁く。

「お願いしますよ。ダメって言わないでね。置いておかれるともう困るんです。扱いが大変で。性格はいいんですよ。まあそれなりに。少し気が強いのは仕方がないんだけれど。そこは辛抱して下さい。料理も出来るだろうし、裁縫だって出来ると思います。だから後生だから、お願いしますよ」

そう言うとガウトはミランダを連れて来た。


「ダメだって。ダメ」

俺は精一杯に言葉にして言った。だが、ガウトは冷静に事務的に答えた。

「もう決まった事なんです。あなたがミランダを助けた事で決まったんです」

「何、もういっぺん言ってくれる。訳が分からないんだけど」

ガウトは首を振り、ごねないで下さいとばかりに言う。

「虹一族の女は助けられた男に尽くすように定められているんです。妻となり、一生離れず添い遂げるのです。もし置いて行かれたら自らの命を絶つのが掟なのです。お願いします。聞き届けられなければ村で暴れて死んでやると言い放っておりまして。ミランダはああ見えて強いんです。虹一族の中でも恐ろしく融通が利かず、我儘で知られておりまして、一族一の魔法の使い手で我らに敵う者がおりません。きっと全員殺されてしまうと皆が震えております」

「でも皆さん、助けに来たんでしょう。違います?」

「アキオ様。ミランダの縄を切ったでしょう。それであなたが夫に決まったのです」

「じゃあ、俺が切らなかったら君が切っていたんだよね」

「いえ。私には恋人がおりますので、絶対に切らなかったと思います」

「誰か切りたい奴はいなかったのかい?」

「多分・・・・・・」

ガウトは首を縦に降った。その心痛な顔から推察して「NO」の表現なんだと思った。

「捕まっていた誰か、女性に縄を切ってもらうようにみんなで話し合っていたんです。虹の村と我らの村は友人の付き合いでして、だからミランダの事はよく知っています。それだけにですね」

もう俺の言うことなど聞く耳を持ってないんだと思い知らされた。結局要らない子のミランダの処分を俺にあてがい、自分たちは楽をしようとしてるんだと思い知らされる事となった。この融通の聞かない女を連れて行くのには勇気と忍耐が必要ですよと言われているようなものだった。


 俺の前に立つミランダはエルフの様な可憐な姿をしており、もし、銀座で出会ったていたならこんな問題も起きなかったろう。

「あなたの妻になってあげます。縄なんか切ってもらうつもりは無かったけれど、あなたが一番最初に切ったんだから仕方ないでしょう。連れて行きなさい」

「嫌だね。誰が連れて行くかね。地べたを這って追いかけて来ればいい。諦めたらそれでもいいぜ。いなくても俺は問題にもしない。勝手にしろ」

「そんな。なぜ」

「いいか。俺と一緒に行きたかったら、それなりの態度を示せ。俺に従え。妻になってあげるだと、ふざけるな。妻にして下さいだろう。お前、昨日の晩俺に負けたのを覚えていないのか。どうなんだ」

「わかってるわよ。でも」

「でももクソもない。俺たちはもう行く。早く決めろ」

ミランダは下を向き両の手を握りしめていた。その手がワナワナと揺れている。こいつ悔しいんだな、こりゃ、言わないつもりだと安心してクルドに乗り出発しようとした。

「%&$#"・・・・・・」

「何か言ったのか」

「言ったわよ。奥さんにして下さいって」

「聞こえなかったぞ、もっと大きな声で言え」

「奥さんにして下さい」

ミランダは大きな声で怒鳴った。顔は真っ赤になり、涙目で俺を見つめていた。

「フッ〜」

ため息が出る。俺はドラゴンの村で死刑になる身なのに嫁を連れて行くのか。夫の命令だガウトの村にいろと言いかけた時、ガウトが「おめでとう」とミランダに言い、クルドに乗せてしまった。俺は言う言葉を失った。この俺が困惑する中ガウトが耳打ちする。

「花嫁はちゃんとドラゴンに乗せました。早く行っちゃって下さい。花嫁が待ってますよ」

ガウトに促され、クルドに俺も乗り旅立つことになってしまった。これからどうなるのやら、不安だけが頭をよぎる展開になってしまった。東に飛び立つ我々をみんなが手を振って見送ってくれたのには何故か感動した。




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