第38話 鬼の一行

 クルドと伴に東を目指す。クルドにはゆっくりと飛んでくれる様に頼んであった。一つ山を越えたところで100人ばかりの一行が森の中を歩いて行くのが見える。良く見ると昨日のあの女もいる様だった。その一行の統率者は鬼の様な奴らだった。背丈は2メートルを超え、肩幅が広くゴリラの様に見えたが、衣服を着ているので人であると思えた。3人が先頭を行き、最後尾は五人いる。列の両横には5人づつ配置し進んで行く。女子供が並んで歩いているが、良く見るとロープで手を繋がれ追い立てられている。これは普通ではないと感じた俺はクルドに言ってこの一行を追っかけた。


 山の頂上付近に到着し、尾根づたいに移動するつもりなのは予測の範囲内だ。どこで休みを取るだろうかと見ていると、尾根の手前で草を刈り、女や子供たちを逃さぬ様に木に縛り付け、休む準備を始めた。森蔭にクルドと降り立った俺はゆっくりと近付き、様子を伺った。鬼達は誰にも邪魔されない様に5名で円陣を組み、13人は捕まえた者を逃さぬ様にその周りに配置していた。近ずくと一人が俺に剣を突き出し脅してきた。

「オイッ。にいちゃん。ここはお前らみたいなやつがきて良い所じゃない。さっさとあっちに行きな。邪魔だ」

「この人達はどうしたんですか」

「こいつらは売り物だ。欲しかったら売ってやるよ。あれはどうよ。あの木にくくりつけてある奴。中々の上玉だろう。ちょっと気が強くて大変だろうが、上手く仕込めば、うっふふふ。分かるだろう。ちょっと値が張るが値打ちはあるよ」

「いくらなんですか」

「そうだなぁ。値段は親方が決めなさるんだが。金貨10枚ぐらいかな。嫌ならやめときな。この山の向こうに女郎屋があるんでそこに売るつもりなのさ。気に入ったなら早く女郎屋に行って客になることさ。さあ、分かったらさっさと行きな」

「ふ〜ん。無理矢理捕まえて売るのかい。それはひどいじゃないか。彼の娘は昨日会ったが、自由だったぜ」

「何い、お前はあのアマの何んだい。ただの知り合いかい。それならそれで不逞野郎だ。お〜い。みんな。こいつはあの女の知り合いだとさ。こいつも取っ捕まえて売ってしまおうぜ」


 俺の周りに18人が集まり、剣や槍を突き出した。

「オイッ。てめえ、覚悟しな。暴れると手足の一本ぐらいではすまないぜ。あの女にはエライ目にあわされているんだ。捕まえてとっちめてやる」

「こらやめねえか。この人は堂々とやって来て、話しかけて来てるんだ。最初から喧嘩腰じゃぁ話にならない。なあ、兄ちゃん。そうだろう」

「親方。そんな事言ってたら」

「お前、逆らうのか。金を払ってくれりゃあ大切なお客様だ。大切にしなくっちゃ。にいちゃん。そう思うだろう」

鬼は二人で怒り役となだめ役を演じて、どちらも目で合図をし合う。


「それでどうだい。あの女のお陰で10人ほど逃げてしまってね。俺たちはほとほと困っていたところさ。金貨20枚ってとこかな」

「それはどういう事ですか」

「ああ。金貨を20枚払ってくれたらあの女をあんたに渡してやろうという事だよ。安い買いもんだよな。俺たちとやり合うのはやめておいた方が良いと思うがね。こっちは18人、あんたたったの一人だ。勝てるかい?」

「・・・・・・」

「黙っていちゃあ。わからねぇ。何とかいいな」

「親方。そんなに強く言っちゃあ。ダメですよ」

「そうか。そうだろうよ。俺たちを見て怖く無い奴なんていないからよ。北はカミイヤから南はホドクまで俺たちを知らない奴らなんていないだろうからな」

「ごめん。俺は知らない」

「何い、知らないだと。泣く子も黙る百鬼組だぜ」

「ふ〜ん。そうなんだ。そんなに強いのかい」

「そりゃ強いさ。俺たち鬼族は、人なんか100人ぐらいいても一人で全部やってしまうさ。つまりはお前は勝てないと言う事さ」

「ドラゴンなら10人ぐらいで倒せるかい」

「ドラゴン?ドラゴンはちょっとなあ。会った事ないから、どうだろうか」

「いや、親方。やれるでしょう。やってやりましょうよ」

「そうだな。やってやる」


 何故かそれからドラゴンのことを言うのなら出してみろと言い出し、俺を突き殺してやるとか、鬼の角は怖いぞ〜とか、何かとうるさく言うのでクルドを呼び出し、話を進める事にした。


「オイッ。本物のドラゴンじゃないか。卑怯じゃないか。たった一人だと思わしといて。急に出すなんて」

「だって出せって言ってたじゃない。だから呼んだんだよ。戦うんだよね」

「・・・・・・」

「黙ってちゃあ、わからないよ。何とか言わなくちゃ」

「くっそう。負けだ負けだ。俺たちの負けだ。女を連れてけ。ふん。卑怯者が」

「悪いなぁ。全員連れてくね」

「なんて性悪野郎だ。最初からそれが狙いか。覚えておけ!この仕返しは必ずしてやる」


 鬼の親方はアキオの指示に従い全員を渋々解放した。彼らは座り込んでふて腐れていた。

「クッソ〜。あいつは悪党だ。俺たちよりもな」

「親方仕方ないすっよ。ドラゴンを使役してるんですよ。俺たちなんかプッですよ。命あっての物種ですから。あきらめましょう」

「ガス。お前もたまにはいいこと言うじゃないか」

「ヘいっ。お手当の方よろしくお願いします」

「諦めろ。命あっての物種だ」



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