第37話 夜の訪問者

 寝る為焚き火に当たりながら周りを見渡す。何かがおかしい。目には見えないが何かがいる様に感じる。何者かに監視されている様な、見つめられている様な、視線を感じる。高校生の時に感じたあの感覚だ。忘れもしない、そうだ女の蔑み、嫌悪、いや、これは憎悪の視線だろう。だが、人影は見えない。

「クルド。何か近くにいないか。人の様な、訳が分からないが、あの村で感じた視線を感じるんだ」

「アキオ。君の右後ろにいるよ」

「そうか。そんな気がしていたんだ。ありがとう。気をつけるよ」

「何しに来たのかな」

「多分食い物を探しに来たんだろう。食う物盗ったら何処かに行っちゃうんだろうけどね」

そう言って俺は火を背に受ける体勢で横になった。見ていたら盗みにくいだろうと思い、食べ物のある方に背を向けて横になったんだが、背中に感じる雰囲気は殺気に変わり、ビリビリとして来た。

「こりゃ〜ぁ。ひょっとすると俺の命を狙って来たのかな」

思いながら待つのは酷く疲れる。いつ来るのか、もう来るのかと、思っていると、ビクッとキツイのが来た。前に一回、また一回と回転し、後ろを見ると、ナイフを振りかざす人影を見た。


 グレーグ直伝の体術でナイフ持つ手を掴み、後ろに回り込み首筋に手を入れ締め上げた。背丈は俺ぐらいあったが割と華奢な体格で、やはり奇襲でしか相手を倒せない奴だったんだと俺は思った。が、首筋も締め上げるには細く、女の様に思えた。「女なのか?」と、思い左手で胸を探ると華奢な割に大きい胸がそこにあった。これには俺が驚いた。

「お前は女なのか。俺は恨まれる覚えはないぞ」


「この泥棒め。一族を殺し、一族の長の印と勇者の証を奪った極悪人め。虹一族は必ずお前に復讐してやる」

ナイフを持った手を振りかざそうとするので、ナイフを払い落とし、木に後ろ手にくくり付けた。フードを剥ぎ取り、被っていたマントも脱がせた。髪の毛は栗色に見えた。よく見ると北欧神話に出て来るエルフの様だった。胸も大きく美しいスタイルの可愛い女だった。


「君は何者だい。俺になんの恨みで襲いかかる」

「フン。この泥棒が。人殺しが」

「俺はアキオ。君は何て名だい」

「・・・・・・」

「答えないのかい。さっき虹一族とかなんとか言ってたろう。あの村は虹一族の村だったんだ。それで君は虹一族。だよねぇ」

「・・・・・・」

「この剣と弓を盗んだと言っていたが、困ったなぁ。この剣と弓は何かの手がかりになるかもと思い持って来たんだ。ごめんよ。一緒に埋めたほうが良かったのかな。これは君に返すよ」

「この人殺しが」

「もう俺たちが着いた時には皆死んでいたんだ。君だ見たのは俺が剣を手にした所からだろう。村人は黒コゲで炭になっていたよ」


 女は目をつむり、口をぎゅっと引き締め、横を向き、口惜しそうにしていた。

「あ〜ぁ。女って自分の意見が正しいと思う時、あんな態度をとるんだよな。聞き分けのない嫌な女だよ」

つい出る独り言に一人苦笑する。昔を思い出させてくれるなと言いたかった。

グウッ、何か音がした。周りを見ると何もいない。

「まだ誰か隠れているのか」

問い詰めても女は頬を赤らめるだけで答えない。どうも彼女の腹の虫が泣いている様だった。


「これを食え。剣も弓も持って行け。俺に構うな。ここから立ち去れ」

そう言い渡し、女を解き放し、何処かへ行けと追い立てた。物凄く不服そうに振る舞う女が、剣を携え弓を背負い恨めしそうに横目で俺を流し目し闇の中に消えて行った。辺りにはもう人の気配は無く、俺は安心して横になった。


 次の朝は早く起き辺りを見回り、クルドと朝食を摂り、出発の準備にかかる。食料を準備しなくてはならないので俺は色々と荷造りに忙しかった。クルドは朝からクポラの実を食べ続けていた。

「オイッ、クルド。そんなに食って大丈夫なのか」

「ああ、平気さ。まだ食べれるぞ。ここのクポラの実全部食べたいくらいだ」


 こんな大食らいな奴だったとは知らなかった。先が思いやられる。そう思いつつも荷造りを急ぐ俺だった。

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