第29話 大失敗

 誰も知らん顔だ。一匹のドラゴンでさえ何も言わず、見てるだけだった。俺には小学校の時、みんなに犯人扱いされた事があった。俺ではなかったが、いじめっ子の斎藤が俺が犯人だと言い始め、周りは誰も俺の味方にはなろうとしなかった。悔しかったぜ。悲しかったぜ。クルドの姿は、あの時の俺を思い出させた。胸が熱くなり、何とかしてやりたくて、居ても立っても居られなくなっていた。

「そうか、誰も何も言わないか。それではクルドは角折の刑とする」

そうオルガが宣言すると、多くのドラゴンが「おぉ〜!」と感嘆の声をあげた。


オルガはクルドの頭を掴み、今まさに角を折らんとする時、俺は穴から走り出てオルガに言った。

「サリューの実は俺が奪ったぞ。この俺がな。黒いドラゴンのグエルに連れてこられたこの俺が、復讐の為、殺されかけた仕返しの為、奪ってやったんだ」

「お前は何だ」

「俺はアキオ。人だ。覚えておけ」

そう言うと、直ぐに穴に滑り込み逃げようとした。ラディウスが火を吐き、その炎が俺を包んだが、なぜか俺は無事だった。村の西の出口に急ぎ、隠してあった荷物を持つと一目散に西の方角に走り出した。


 荷物を背負い、何も考えず走っていた。だが、俺はある事に気付いた。今後ドラゴンに出会えばどうなるんだろうかと。あのオルガに喧嘩を打ったんだ。きっと怒っているだろう。もう追っ手がやって来るんだろうか。見つかれば殺される。見つからないように隠れながら行かねばならない。大変煩わしい事になってしまった事に気付き、落ち込んでしまった。だが、ボヤボヤしてたら捕まってしまう。懸命に走りに走った。今回の事は大失敗だと思い始めた。


 お尋ね者が街から街へ。どこに行っても人相書きが街角に貼り出されている。追い詰められ、苦しむお尋ね者。賞金稼ぎが追いかける。物語で見ている分には面白いが、事の弾みで自分がそうなってしまったら、もうお手上げだ。奴らはこの世界の最大の支配者。俺なんかよりも行動半径も大きいし、力だって強い。直ぐに捕まり殺されるんだろうな。

「クッソー。あの黒い野郎にだけは殺られたく無い」

そうは言っても何も変わらず、失敗を悔やみつつただ走り続けるのであった。

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