第28話 策謀者

 この世界には不幸を創り出し、その罪を思う相手に擦りつける様な奴がいる。高校時代の渡辺の様に。俺の時には誰に助けを求めなくても傷つく事はなかった。困った事は、周りの熱い視線に追い立てられて、安住の地を追い立てられたくらいだった。だが、腹黒い奴が考えるとより酷くなる。そんな罠が用意されてるとは露知らず、呑気に過ごしていたのはクルドであった。訳あって俺が知ったことから事態は究極に悪い方向に向かってしまう。そして、今から思えば、クルドと俺の冒険の始まりを意味した。あれがなければクルドの旅立ちも無く、クルドは何時迄もあの部屋で寝そべって居ただろうと思う。俺の生涯の友となり、この世界の救世主として聖なるドラゴンとして名を馳せることなどなかっただろう。


「お母さん、また変な虫みたいな奴がウロウロしてるよ」

クルドは最近俺の姿がよく目につくみたいで部屋から出る事が多くなっていた。

「ふん。やっとニート卒業かい。クルド。元気にやれよ。明日には俺はここから出てゆく。元気でな」

食料も集めたし、多くの情報も聞けた。ここにきた甲斐はあった。荷物は多くて三つ出来たので、こっそりと持ち出してこの村の西の出口に隠しておく事にした。最後の荷物を隠しての帰り道、丁度大きい道路を渡ればラディウスの家に直ぐの所で黒いドラゴンのグエルを見かけた。慌てて穴の中に隠れて息を殺してじっとしていた。足音が近ずいて来る。心臓はバクバクと大きい音を立てる。奴に聞こえはしないかと余計に高鳴る心音に脂汗がたらりと流れ、あのネズミの様に動かずじっとするしかない状況だった。だが、穴の前で奴が立ち止まった。俺はもうダメなのかと心が凍りついた。


「ディオスさん。調べて来ました。やっぱり無くなっています。誰が盗ったんですかねえ。あんな物。ただ、儀式には絶対に必要な物ですから儀式の管理者達は大慌てです」

「そうか。困ったもんだな。ラディウスのやつはいないし、長老の爺さんも困っているだろうさ。俺の所に何か言って来るだろう」

「でも、さっき、近くの畑で作業してたアオウテヤは、おかしな事を言ってました」

「おかしな事。何だそれは。ラディウスさん所のクルドを近くの丘で見かけたと。あいつは引きこもりで外なんか歩く筈がないんですがねえ」

「そうだったか。これは良い事だ。ラディウスを困らせて泣かせてやろう」

「何をするつもりですか」

「クルドを犯人として吊るし上げ、罪人に仕立て上げるのさ。これでラディウスの涙を見られる。さあ、長老オルガ爺さんのところに行こう」

二匹はそのまま何処かに行ってしまった。俺は恐る恐る穴から出て、道路を渡り、ラディウスの家に急いだ。


 家に着いて装備を確認して、明日に備えた。今日の穴の中での立ち聞きをラディウスに教えてやりたいが、どうしたものかと悩む所であった。その内、家の中が騒がしくなって来た。長老オルガがやって来たのだ。

「これはこれは長老様。まだ主人は帰っておりませんが。お急ぎでしたら帰り次第に伺わせますが」

「うん。そうじゃなぁ。まずはクルドを呼んでくれんか」

フェンネルがクルドを呼びに行く。オルガは大きく溜息をついた。俺には予想出来ていたがオルガに物言うことは流石にはばかられた。


「クルドや。お前サリューの実を知っている甲斐」

「いや。知らない」

「お前がサリューの木の近くに居たことは分かっているんだ。何かしたのかい」

「何もしてないよ。何も」

「今日はどうして居たんだ」

「家から出て丘の上に行って。それから空を見ていた」

「それだけかい」

「そうだよ」

「ふ〜ん。分かった。ありがとう。フェンネルや。ラディウスが帰って来たら、わしの所に寄こしてくれ」

オルガは帰り際に悲しそうにクルドを見て、溜息をついた。


 その日の遅くにラディウスは帰って来た。連絡を聞いて急いでオルガの元に出向いたラディウスではあったが、家に帰って来たその顔を見た妻のフェンネルが驚いた。

「あなた。どうしましたの」

「あぁ。クルドにサリューの実盗難の嫌疑がかけられているんだ。そんな事は絶対に無いとは言ったんだが。長老オルガ様はこれもまた定めだとおっしゃられて」

「どうなりますの」

「明日の朝に罪の証がなければ罪が確定する」

「そんな。罪なき者に罪を着せるとおしゃいますか」

「俺も言った。弁明の時間が短すぎると。だが、明日が期日だとオルガ様は譲られず」

「罪が確定するとクルドはどうなります」

「角折の刑となる」

「酷すぎる。一生半端者として生きてゆかねばならないとは」

「どうも今回の事はディオスから出ているらしい」

「何ですって。許せないわ」

「すまない。俺が出ていたせいで。こんな事になるなんて」


 とうのクルドはどこ吹く風で部屋で寝ていた。朝になり家の居間に呼び出され、多くのドラゴンが集まっているので驚くクルドであった。

「クルドよ、ここに」

長老オルガが呼ぶ。周りの異様な雰囲気に戸惑いながらも前に進みでるクルド。涙を流す両親の顔を見て驚くクルド。オルガは多くのドラゴンを前にして言った。

「皆の衆。このクルドの無実を信じる者。または無実の証を持つ者はいないか。おるなら出て来てくれ」

この呼びかけに誰も答えず。あたりは静まり返っていた。


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