第27話 問題児

 このラディウスの家には少々問題があった。ラディウスには妻と二人の子供がいるのだが、兄のクルドが引きこもりの問題児なのだ。妹のエクデルは反対に優等生で多くのドラゴンをして褒め称えられる存在であった。妻であり彼らの母であるフェンネルはクルドを心配していたが、ラディウスは放っておけと言うだけで問題にもしなかった。


 このクルドという奴がもうぐうたらで、俺から見てもダメなドラゴンに思えてくる。銅像の様に動かないのだ。確かに目は開いているのだが反応がないのだ。あれはクルドの近くにある木の実を取ろうとして奴の近くの岩に登って居た時だ。誤って奴の鼻先に落ちた俺を見ても何も反応もしなかった。だが、奴はどこか気になる所があった。なぜだろうと思い返してみると、ボヤ〜と空中を眺めている姿は高校時代の俺に似てるからであろうか。少し親近感を覚える。


 居間の岩穴に隠れてラディウスの話を聴いていると最近何かが動き出したと話していた。

「あなた、クルドのことも考えてください。学校も行かず、家の中に閉じ籠り、一日中何かを眺めている。何を見てるかを訊いても応えることすらせず、そのまま。どうしたら良いのかしら」

「フェンネル。気にしなくて良い。もう、クルドの時間が動き出したんだよ。そして、その事はこの村の全てを変えてしまう。世界は激しく変化する。変わらないものなんてこの世には無いんだよ。ただし、クルドとの別れがある事を覚悟しておきなさい。居なくなれば寂しくなるだろうからね」

「旅立ちの時ですか」

「そんな生易しいものでは無いだろうがね」

「ではどういったことに」

「まだ分からないさ。明日は早い。もう寝よう」

「また何処かへ」

「そうなんだ。ディオスでは問題を引き起しかねないからとオルガ様に言われて、ガゲンタまで行く事になってね」

「まあ、ガゲンタまで、遠いですのに。大変ですこと」

「まあ仕方ないことさ。我ら神聖龍の立場からすれば。オルガ様の悩みも尽きないんだよ」

「そうですか。またあなたが行かれるのですね」

「ディオスも大人になってくれると良いのだが。自分の力に酔い、理屈も約束も全てを亡きものにする態度は許されないんだ。自らに禍をもたらす事を思い巡らせれば良いんだが」


 俺は考えさせられた。この村が激しく変化するという事は、ここに居ては大変な事に巻き込まれるという事だと認識した。それで早い目にここから退散する事にした。それで、食料を集め始め、最低でも3週間分を集める決心をした。それでクルドの食べ物をちょくちょく失敬して溜め込んでいった。そんなある日のこと、クルドが起き上がり部屋を出て、母親に話をした。フェンネルは大喜びであった。声も弾んでラディウスに話をした。

「クルドが私に話しかけたんですよ。あれはなあに、って。よく見かけるけどなんだろう、って」

「そうか。クルドが」

「どうしました。何か心配事ですか」

「う〜ん。まだ先かなと、思って居たんだが。案外と早く旅立ちの時はやってくるのかも知れないなぁ。こればかりはどうにも出来ないようだなぁ」

「あなた、そんなに大変な事が起こるの」

「分からない。ただ、あの子はここに居られなくなる事は確かだろう」

「どうしましょう」

「心配ないと思うよ。八聖龍の加護があるだろうから」


 近くで聞いて居た俺はこの時「親バカだ」としか思わなかった。この俺が運命の歯車の中にしっかりはめ込まれていることも知らず、関わりがない様に考えていたのである。まあ流れの中にいる者は、流されぬ様にと必死で泳いでいるだけだ。わかる事には限りがあると知る事だ。ただ勇気をその胸に抱き、飛び出すことだ。そうして生き延びた者は勇者と呼ばれるのだろう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る