第26話 優しいドラゴン

 ラディウスの家は植物が多く生え、隠れる場所もある。住みやすい家であった。何度か見つかりながらも、見逃してくれている様だった。食料も少しくらい取っても問題にしないでおいてくれた。どうしてか解らなかったが嬉しい事だった。話し口も穏やかでこの村の2番目の権力者とは思えぬほど、円満な人柄ならぬ龍柄だった。


 このラディウスが度々出張に出て行くのには訳があった。それはこの世界が不安定になっているからであり、理由も原因も不明で、ほころびのある箇所を如何にかこうにか繕っている様な毎日なのである。だが、疲れたなどとは決して言えない立場にある事は自覚している。神聖龍の自覚なくしてこれらの仕事は出来やしないのであった。多くの者達はこの世の楽しみや歓びを求めて生きている様なものだが、ラディウスは己が勤めを果たすために自分の道を歩んでいる様な感があった。


 ディオスは多くのドラゴンが不安がっている事を問題にしなかった。それは自分の弱さが原因だと決めつけていた。だから交渉の場では力が全てであった。脅して言うことを聞かねば叩き潰す。それは強い力を持つ者の当然の権利の様に考えていた。そのため何処に行っても問題が一時的には沈静化するのではあるが、ちょっとしたキッカケが元で大爆発する事の方が多かった。そして、ディオスはその全てを滅して当たり前の様に考えていた。


 神聖龍は世界の安寧を創り上げる存在だと考えられていたのだが、多くの命を奪い、世界が不安定化させるディオスを排除してほしいと願う者は多かった。オルガは黙して何も語らず、運命の柱の動くのを待ち続けた。そう、この世界の不安の原因とは思えはしなかったが、新しく生まれ出ずる希望にとっての成長に欠かせぬ要因になる事は分かっていたからだ。だが、ディオスはそうとは知らず、自分は期待されていると思っていた。この思い違いが騒動を引き起こし、多くの命を巻き込みながら、うねりながら渦として成長していく。俺はその渦に飲み込まれ、愛する者や親友と出会いこの世界を駆け抜けることになるのであった。

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