第25話 ドラゴン酒場

 その空間は大きい。そう天井は東京ドームの3倍はある。岩があちこちにあり、大きな鍾乳洞の様でもあり、多くのネズミの様な生き物が蠢いていた。ネズミといってもライオンくらいの大きさをしているが、音に敏感で臆病。こちらが手を出しても相手にもせず、どこかに行く様な内気な生物だ。それがそこの穴倉みたいなところに何千と蠢いている。一匹一匹が出す音は知れているが、それだけの数がいると大概うるさく感じる。が、ドラゴンが姿を表すとその音がピタッとしなくなる。そうしてドラゴンが食い残したものや、落としたものを食って生きている命なのだ。


 だが、ドラゴンは気まぐれでよく火を吹く。喧嘩でブワッ。腕自慢で何匹かが火の量や強さを競って火を吐き比べをする。また、酒に酔ってクシャミをする様に火を吹くのだ。ネズミ達は逃げればいいのだが、大きな音がすると体を硬直させて固まってしまう。そんな彼らの上には火が降り注がれるのだ。ドラゴンにもよるが一晩で大半のネズミが焼け死ぬことがある。だとしてもその死体は新参者のネズミ達に食われてなくなり、ドラゴンのお掃除により捨てられる。だからか知らないが、非常に臭い場所だ。俺にはそう感じられた。


 だが、俺にとってこの場所は情報収集の貴重な場所であり、食料の確保可能な数少ない場所であった。危険地帯には違いなかったが。


 ようやくこのドラゴン達の住まう場所のことがわかってきた。ここはドラゴンの村でカチャ村。彼らの言葉で発音するとウグイ・ウグイ・ガガガガとでもなるだろうか。人の発声力では表現し難い。意味は美しく生きる物が住まう場所だ。あんな悪辣な黒いドラゴンが住んでいるのにとは思っても彼らにとっての愛すべき住まう場所なのであった。

 

 ドラゴンたちの話を統合すると村長に当たるドラゴンはオルガ。意味は最高とか高位となる。オルガは八聖龍を除けばドラゴンの世界の最高位を意味するドグマを授けられたドラゴンだ。そして、この村には次席のドラゴンが二匹いるらしかった。青いドラゴンのラディウスと赤いドラゴンのディオスだ。オルガはラディウスを買っているのだが、ディオスにとってはそれが気に入らないらしく、事あるごとに争う姿勢を見せつけるらしかった。村のドラゴン達にはどちらが強いかは判らないが、好きなのはラディウスらしかった。次の村長はラディウスが良いと多くのドラゴンが話していた。


 ディオスには友人は少ない。多くのドラゴンを力でねじ伏せる所があり、みんな逆らわないが、嫌われている。どうもあの黒いドラゴングエルはディオスの数少ない親派らしく、皆に煙たがれている様だった。


 俺は酒場を出て、ラディウスの家に行こうと考えていた。ドラゴン達の話から推察するに、多くの情報がラディウスの所には集まってくる様なので、父や母の手掛かりを掴めたらと考えてのことだった。


 その日、俺が体にまとっていたマントを一匹のネズミが咥え、酒場の溝を走った。アッと言う間の出来事で、奴を捕まえようとした時、「あっ、あいつだ」と言う声がした。声の主は黒いドラゴンのグエルだった。

「奴め、こんな所にいやがったのか」

どうも俺の臭いを敏感に嗅ぎつけたらしく、その声は殺気に満ちていた。すぐに俺はそこから慌てて逃げ出した。それは正解だった。もう少し遅ければあのネズミ達と同じ運命にあっていただろう。元の場所に戻ると全てが焼けていた。今まで見た事がないくらいの焼け方で、酷い物だった。他のドラゴンとは比べ物にならないくらいの炎を吐き出したんだろう。酒場の壁から穴に至るまで焼けただれていた。置いてあった荷物は灰となり、諦めてラディウスの家に向かった。

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