第24話 脱出

 暗い洞窟の一つの窪みの中に押し込められた。ドラゴンに夜明けにお前をどうするか決めると言われ、もう終わりだと心の中でつぶやく俺。だが、「終わりだと諦めたらそこで本当に終わりだ。最後まで諦めるな」と言われ続けた言葉が脳裏に木霊する。

「早く、行動に移れ!黙ってサッサとしろ。1秒前でもセーフだ。0コンマ一秒でもセーフだ。いいか、生き延びろ。最後は誰でも死んじまう。勝負に負けた時は諦めろ。ゲームセットの声がかかるまでは何かしろ」

 背中から訓練の時にかけられた声が聞こえるようだった。窪みの壁を隅々まで叩き回り音の違う所を探しまわった。どうも2箇所だけ違った音がしたので掘ることにした。右横に掘ると同じ様な穴の中に出た。下に向かう穴を掘ったがやはり同じ様な穴にでた。

「どうもダメぽいな」

思いは複雑だ。希望は絶望に変わりつつあった。

「諦めるな。違いを探せ。感じろ。考えるな。思考は助けるときもあるが、追い詰められると否定的な考えに支配されることがある。感じろ」

 グレーグに言われ続けてここまでやって来た。が、どうだい何もない。思いつつも万策尽きたと考えた時だった。上の穴の空気の匂いとここの空気が少しばかり違うことに気がついた。それでクンクンと嗅ぎ回った。それでわかった事は一番奥に小さな穴があり、そこから空気が入って来るようだった。そうなれば逃げ出せるか、やられるかの二択だ。懸命に穴を掘り続け、やっとの事で岩と岩の間が見えて来た。どうもその間から空気が出て来てるみたいだった。なんとか土をかきだせば通れそうに思えた。

 何時間たっただろうか。やっとの事で大きな空間が目の前に現れた。身体がやっと通るかどうかの大きさの穴が岩と岩の間に生まれた。それを掘り進む。

「こりゃあ、脱獄犯は大変だなあ」

心の中でつぶやく。見つからないかと気遣う気持ちと、早くしないとダメになると追い込まれた心の焦りを体感して、心を落ち着かせながら土を懸命に掘っていた。やっと外に出られたようだった。

 そこは俺が腰をかがめてやっと通れるくらいの空間が続いていた。臭いからして下水の様なものかと考えられた。左右に分かれていて右手の方は嫌な雰囲気がする。左の方は上の方が10メートルほど空いていて、上から見れば丸分かりの状態だ。が、嫌な気分がない。

「今、良いと思えば、躊躇するな。したら幸運が逃げるぞ。ダメなら引き返せ」

グレーグは言う。

「戦場で生き残るには自分の幸運を信じることも必要だ。決して傲慢ではなく、自信を持て。注意深くあれ」

俺は自分の強運を信じて走った。命を賭けた10メートル走だった。

「どうだったかだって。今、俺が話してるんだから勝ったに決まってるだろう」


 俺が向こうの穴に滑り込んだ時、奴のうなり声が響いて来た。後どうなったかは俺は知らない。えらく地面が揺れていたのは確かだった。目の前の穴をどんどん進み、早くあの場所からおさらばしたくて必死だった。そう思いながらも進み続けるとある場所から向こうに進もうとすると嫌な気分が引き起こる。それで穴の中にじっとしていると目の前の天井がガラガラと引き剥がされて行く。奴が剥がしている様だった。戻ろうと後ろをみると、後ろも引き剥がされて上から丸見えだ。ここも引き剥がされると震えていたら、大きい声がした。

「グエルさん、なんて事してるんですか。この後始末ちゃんとしてくれるんですよね。聞いています?」

「元に戻せばいいんだろう。戻すよ。フンッ」

「あなた。この前もそう言ってしなかったわよ」

「今度はきっちりさせてもらうよ」

このやり取りを聞いているうちに俺は前に進もうと考えたが、嫌な気分が消えないのでやめておいた。その代わりに小さな窪みが目についたのでその中に体を入れ、土や泥を上から被り、周りと同じ様にカモフラージュして隠れた。

だが、奴は他の場所に行ってしまった。足音が遠ざかる。胸を撫で下ろし人心地ついている暇はなかった。すぐに起き上がると向こうの穴に向かって滑り込んだ。


 俺は最大の危機を乗り切った。きっとグレーグも褒めてくれると思う。穴を進み続けた俺は大きな不思議な空間に出くわした。

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