第23話 黒いドラゴン

 次の日、朝から村人のどよめきが聞こえて来た。

「ああっ。あれか」

「あれだ、あれだ」


多くの村人が騒ぎ始めた。おババがやって来た。

「勇者様。黒龍様が来られたようでございます。お出ましを」

「分かった」

「さっ。こちらに」


 おババは俺を連れ立って谷の祭殿に案内した。俺は全ての武器と機械を身に付けて上からマントを被りおババについて行った。

 

谷の祭殿は谷に流れる小川の上に祭祀が、立てる岩が一つある切りでただの谷川と言う所だった。

「えらく殺風景だな。こんなものか」

「お告げを頂くのに不必要な物は要らんのじゃて。さあ、跪いて下され」


おババは岩の上に立ち何かをつぶやき始めた。歌の様な音の流れが途切れたと思った次の瞬間、大きな黒い影が羽音と共に目の前の大きな祭壇の岩の上に降り立った。


 黒いドラゴンであった。羽が生えて、ツノが二本あった。黒い色でゴワグよりも大きくてとても退治できる代物ではないことは明らかだった。


「こりゃあ、ダメだなあ。俺の武器では埒が明かない」下げた頭から上目使いで見た俺は抵抗を諦めた。


「俺の大切な可愛い者たちが死んでいた。大切にしていた玉が割れていた。このことで言う事はないか」

「黒龍様。大切にしておられた玉が割れました事、誠に残念なことと存じます」

「それだけか。お前たちにあの大岩を落とす力がない事は理解している。が、なぜ可愛い者たちが死んでいるのか」

「我らにどうする事もできるわけがなく、ただただ残念に存じます」

「やはりそうか。だがな、俺は腹立たしいのだ。この気持ちは解るまい。どうしてやろうか」

「どうかお心をお鎮めください」

「いや、できぬ。できぬ相談だ。いっその事この村を燃やし尽くしてくれようか」

「何をおっしゃいます。おやめください」

「ふん。お前たちなど放っておけば知らぬ間に増えてくる。殺そうが誰も咎めだてせぬよ」


 黒いドラゴンは腹を立てているのだろうが、困った事に自分の言葉に酔い痴れている様だった。

「あのう、少しいいかな」

「なんだお前は。言葉が分かるのか。まあいい。言ってみろ」

「黒龍様。あなたの言う可愛いもの達が死ぬと言うことは寿命が尽きたと言う事なのでは。それに玉も割れることもありましょう。この世界の理です」

「何が言いたい」

「この世界は弱肉強食の中にあり、弱かったら生き残れないのでは」

「奴らが弱かったとでも言うのか」

「あなたよりも弱かったでしょう」

「小癪な言い回し」

少し黒いドラゴンが黙ったので上手く行くと踏んでいたのだが、頭を右から左に向け、ゴロゴロと喉を鳴らしたと思ったら、急に言い放った。

「こいつを貰って行く。この村には何もせずにおこう」

オババは平身低頭をし、歓喜の声をあげていた。

「ありがとうございます。黒龍様」


俺はどうなっても良いのかい。そう思ってオババを見ていると、大きな手が伸びてきて俺を掴み上げた。横にいたオババは、もう足元に見える。そう思い、黒龍を見上げると奴の視線とピタッとあった。そうした中ドラゴンは飛び立った。オババを見ているといつまでも掴まれた俺を眺めている様だった。


 ドラゴンの手の中で下を眺めていると、山を五つほど数えたが後はどうでもよくなった。これからどうなるのか、予想は悪い方に傾き、心の中では泣いていた。空と陸の境を見ながら、ボンヤリとこのドラゴンに殺される自分を思い描いていた。そうしていると急に降り始め、闇の中に降り立った。そこは大きな洞窟であまり良い臭いはしなかった。奴は俺を掴み中に入った。

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