第19話 追われて

 ギンはずっと走り続けていた。俺はただ背に跨り、前を見ていた。


何時間が経っただろうか。草原から森のような見慣れぬ風景に変わり、俺は観光客のように周りの風景を眺めていた。それで疑問が湧いて来た。

「おい、ギン。何処まで行くんだ」

「走る。言った。走る」

その時俺はちゃんとした指示をしなくちゃ、ギンが変な行動をすることを知った。誠実で疑う事を知らないギンは幼稚園児程度の判断力しか無いと思い知らされた。


「何処に行く」

「走る。前に」


どうも逃げる時に言った「走れ」が全てだったようだ。

「フッ〜」

俺のため息が漏れる。


「ここで少し止まれ」

「ダメ。危険」

やはり周りに多くの障害物があるとギンの危険センサーが反応するらしい。

ギンはまだ走り続けている。何処まで行くのかと見ていると汚い水溜りの前で止まった。


「飲む」

「いいよ」

ギンが水を飲む間、俺は周りを警戒しながら荷物の確認をしていた。大変なことがわかる。リックに穴が開き、大切なグレーグの遺言書を入れたバッグがなくなっていた。それと水の入った水筒と食料の全てが無くなっており、これからの旅路の暗澹たる思いがこみ上げて来た。


「困った。どうしたものか」

そう思いながら俺も水を飲もうとすると、何かがいる。俺たちを見ているのが伝わって来る。嫌な雰囲気が出て来た。


リックを背負い、銃を構えながら、ギンに言う。

「おい、ギン。もう行くぞ。早くしろ」

ギンはすぐに俺を乗せて走り始めた。


「そっちじゃ無い。あの山に向かえ」

ギンは右手に見える山に向かって走り始めた。

バキッ、バキッ。木の砕ける音がする。何の音かとギンの後ろをみると、大きなオウムのような鳥がおって来る。この鳥の口が大きく噛み付かれるとギンなんかは体半分ぐらいなくなると思えるほど大きく見えた。羽の色は緑、尾羽や羽の先は赤や青の色が付いて降り、見るぶんには綺麗だと思える。


こいつは飛ばないようだ。俺たちを走って追ってくる。ただ銀よりも大きいが走る速さはさほど出ない。ギンはすぐに走って逃げ切れた。


「これで大丈夫。ここまで追ってこないだろう」と、俺は思っていた。けれど、ギンは走り続け、目の前の山を目指していた。

「もう止まって大丈夫だろう」

そう言ってもギンは走り続けていた。


「グワジ居る。沢山居る」

さっきのグワジなるトリがもっと居るとギンは感じて居るのだろう、必死に走り続けて居る。山の中腹に辿り着きギンはようやく止まった。


「もう大丈夫なのか」

「居る」

どうも警戒が必要なようだが、俺にはわからない。ギンに、任せて背に揺られて居るだけだった。


 ふと見ると湧き水が見える。さっき飲みそびれたから水を飲むと言えば、ギンは言う。

「ダメ。痛くなる」

どうも腹を壊すらしかった。それでもあまりに透明で飲めそうに思えるので、木の実の水入れに綺麗な水を入れた。三つばかり作り腰にくくりつけた。


 ギンが歩き始めて30分ぐらいだろうか立ち止まった。

「グワジ」と言う。

俺には解らないが双眼鏡で見ると点にしか見えない物がグワジだった。

向こうは風上だ、まだこちらに気づいていない。崖を登ろうと考え見ると、崖沿いに道が見えた。その道を通り、逃れることにした。右手を崖に走り始めた。


「グワッ」と声がすると崖の上からグワジが降りて来た。

ギンは慌てて立ち止まるが、このグワジの声で多くの他のグワジが引き寄せられ集まってくる。


「こりゃ、早く行った方がいいなあ」

「ダメ、前、いけない」


ライフルで狙いつけて撃つとして何処が一番効果的か迷っていたが、後ろから三羽のグワジがやってくる。迷ってる時間はない。頭、首を狙うも全く効果なし。ダメなのか、心に不安が走る。

「いいか、絶対に諦めるな。諦めた時にゲームは終わる。お前の負けが決まるんだ。諦めるな。何か解決方法はある。逃げる手もある。勝負を焦るな」

グレーグがいつも口うるさく言っていた。


俺は思い直して目を狙った。

両目を失いグワジはあらぬ方向に走って行った。


「さあ、前に走れ、ギン」

ギンは走る。だが追っかけて来るグワジは6羽に増えていた。


ギンの速度にグワジは勝てない。これで逃げ切れる、楽勝だと思っていた。ギンも逃げ切れると感じていたに違いない。が、そんなに世間は甘くなかった。


右折れして道を進んで行くと目の前、三十メートルばかりの崖に出くわす。上り口もなくそこら中に骨らしき物がちらほら見える。


「こりゃ〜やられたなあ。ここは奴らの狩場だったようだ。ヅル賢い奴らめ」


見ると崖の窪みが見える。

「ギンあそこにいけ」

窪みは骨が散乱して居る。

「チッ。ここは骨を捨てる場所かよ」

「アキオ。アキオ、どうなる」


グワジは俺たちの周りを囲む。当然餌の確保完了とでも言いたげな態度だ。

「ギン、俺がやられたら、何処へでも行け」

そう言うと右端のやつの左目を撃ち抜く。そして、左端の右目を撃った。両端のグワジは俺たちを見ようと首をより内側の入れる。すると隣のグワジとぶつかり喧嘩になった。

大口を開けて中央のグワジが襲って来た。腰につけた水の入った水入れを二つほど投げ入れてやった。その隣のグワジには顔に投げつけ、たじろいだ隙に右目を撃ち抜き、左もと思いライフルを構えた時、グワジが羽を逆立て「グワッ。グワッ」と唸り始めた。


「ゴワグ」

ギンが言う。

「ゴワグって何だ」

「食うもの」


その言葉を聞いて居ると、グワジが大きく羽を逆立て体を低くしてたかと思うと、バッと大きく跳ね、自分を大きく見せようとした。まさにその時崖の上から大きな影が降りて来た。一瞬、グワジの姿が消えた。


「ギエ〜」と聞こえたかと思うと赤い血が降って来た。上をみると黒い影があった。目の前に大きな足が現れた。大きなチラノサウルスに見えた。体全体は青みがかった緑、背中はゴジラみたいに突起が出ていて、虹色に輝いていた。


三匹現れた。これは撃退できる大きさではない。手持ちの武器はロケット弾が2発だけだ。辺りを見回すと大きな岩が左の崖の中ほどに見える。


「ギン、あの場所に行け」

「行けない」

「今行かないと食われる」


ギンにまたがり、走り始める。一匹のゴワグが右から噛みつこうと口を大きく開けて近ずく、ロケット弾を大きな口に打ち込む。爆発とともに頭が吹っ飛び、転がった。その間にゴワグの前を素早くギンは通り抜け、言われた場所にたどり着いた。


急いでロケット弾を装着、次の発射を準備した。


仲間が倒されたのを見た二匹は、左右に別れて俺たちを食わんと唸り声をあげた。

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