第17話 たった一人

グレーグの倒した獲物を焼き、食った。

遺体は1メートルばかりの岩の前に埋めて、岩にはグレーグの名前を刻みつけた。


その日は荷物を整理して、持てるようにした。食料と水が大変だった。全部で80キロはあったと思う。グレーグの鍛錬がなければ今の自分はないと感謝していた。

 

 朝、双子の太陽が昇る。あの恐竜が歩いて行った方角に行く事に決めていた。少し坂になっていたが登り切ると目の前、大草原が広がっていた。


目につくのはこの世界にきて初めて目にしたあの恐竜であった。百頭以上が草を食っていた。それも500メートルくらいの大きさで、最初に会った奴より大きいい。きっと子供だったんだろうと考えさせられた。


 太陽の強い陽射しを遮りながら周りを見渡せば、南東の方角から銀色に輝く恐竜が群でこちらの方にやって来た。背丈は2メートルぐらいで二本足で歩行している。前足は長いが折りたたんで走っている様だった。顔は縦長で馬の様だ。


よく見るとその群の後ろからついて来るものがある。緑色をしている。すぐにバックから双眼鏡を取り出し、見ると草の様だった。滑る様に前に進むのだが、ものすごく早い。前を走る銀色の恐竜を触手を伸ばしてからめ取り、食っている様だった。


群の後ろの速度が遅い奴や走り疲れた者は食われていく。弱肉強食の掟を実感させられた。腹一杯になったものから移動をやめる様であった。


 この植物に興味を持ち、俺は調べるために近ずいて行く。あの大きい恐竜は小さな植物や銀色の恐竜が命のやり取りをしていようが問題にもせず悠々とお食事を楽しんでいる様だ。だが旨くないんだろうこの草は口にしない様だ。ただ、移動するときに踏みつけ、傷つける事を気にする気持ちも持ち合わせていないようだ。二、三踏み潰された物があるのだが、流石わ植物、潰されても動いている。そこは近寄らずに避けて通って行く。


どうも腹一杯のこの植物は獲物を取ろうとはせず、腹に入った獲物を消化する事に専念するようだった。


俺は研究所で拾った黒い鱗のようなものをいつも肌身離さず身につけている。その力のお陰で色々と命拾いしてきた。不思議な力を持っている。その力が今回も働いて、俺に食われた奴の言葉を知らせる。


「苦しい。出せ。苦しい」

どうも植物の袋の中から声がする。それで植物の立ち並ぶ中で一番袋が大きくて、ぶよぶよしているものを選んでナイフを刺してみた。だが、ナイフは刺さるが袋を破るのには短くて穴があくことはない。


そこでプラスチック爆弾をナイフの傷に差し込み、爆破した。「バゴン」と大きく響き、穴が開き、袋の中身が流れ出してきた。銀色の恐竜が5匹出てきた。あたり一面消化液で溢れかえり周りの植物は、根が溶けるのを嫌がってそこの場所が大きく広がった。


見ていると出てきた銀色の恐竜の内一匹は動かない。生きているのは四匹であった。慌てて走り出している。


 四匹は向う見える岩山に向かって走り出している。その中の一匹が戻って来て俺の手にかみつく。どうも自分に乗れと言ってるようなので背に跨ると山を目指して走り始めた。だがその方向に進むのは嫌な感じがしてダメだ。周りを見るとさっきいた所が安全に思えた。


「おいっ。止まれ。そちらに行くな。戻れ」

強く言うと。そいつは立ち止まり、戻り始めた。何とか無事に袋が破れた植物のたもとに着くと俺は植物の根の上に上がった。銀色の恐竜も付いて来た。


 山の方に走り出していた三匹は捕まり食われたようであった。


「お前、正しい。俺を助けた。クバンカ潰す。走る」

俺に話しかけて来た恐竜はこの植物をクバンカと呼んでいるらしい。

「クバンカは食えば動かないのか」

「クバンカ来る。走る。走る。クバンカいない」


「どうも逃げるだけで後どうなるか知る必要も無いのか」と妙に納得したことを覚えている。

「何処に行くのか」

「行く。走る。草ある。たくさん。産むもの。たくさん」

「ふ〜ん。何処かに行く予定だったわけだ」


「お前は俺のような生き物を見たことがあるか」

「見た。小さい。食うもの」

「わかった。そこに連れって行ってくれ」


「・・・・・・」

「ダメか」

「食う。いや。逃げる」

「お前を食わない。だから連れて行け」

「行く」

「そうか。お前の安全は俺が守る」

「ここ。出る。どうする」

「どうしよう」

俺はどうしようか迷っていた。


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