第16話 グレーグからの手紙

 ヤー、アキオ。これを読んでいるという事は俺は死んでいる。

お前は俺の息子だ。俺の教えをお前ほど忠実に学んだ者はいないだろう。

お前が夜遅くまで何度も繰り返し練習していたのを知っている。最近ではお前を息子だと思える様になってきた。


 俺は外人部隊で大佐をしていた。多くの敵を倒してきたがアキオ、君ほど手強い奴はいなかった。研究所で俺の配置を破り、あそこまで来るとは信じられなかったよ。


また、一年前とは違い逞しくなった。俺が教える事はあとひとつだ。


それはどんな奴も、つまり親でも殺さなければならぬ時は、その時を逃さず行動しろという事さ。これは大切な心構えだ。甘い俺は裏切られたんだ。


 あれはアフリカでの作戦だった。俺の父とも教師とも思える恩人が裏切ったんだ。最悪だった。だが分かった時点で奴を殺しておけば大勢の部下を死なせないで済ませたものを。俺が躊躇した隙に奴に逃げられ、部隊は全滅。俺はたった二人の部下を連れて逃げ帰った。


 あれは大きな代償だった。

君にはそんなことが無いように教えておく。俺の命を使って。


お前の事だ。そんな事をしなくてもとか、死ねば何も残らない、とか思うだろうな。だがな、経験は何事にも勝るものなのだ。今に分かる。


はっきり言おう。お前が俺を殺さなくとも、もうすぐ死んでしまう予定だったんだ。一年前のことだアフリカでの失敗から上層部は俺を解雇しやがった。仕方なく家に帰ったよ。だが、その頃やけに体の不調があったので健康診断を受けるとガンが発見されたんだ。医者の言うには「あと半年です、上手くいって一年かなあ」だと。


 家族がいる、俺が言うのもなんだが可愛い娘が一人いる。それで金が要ったのさ。何か大金を稼げる仕事を探していると昔の仲間が俺に連絡をくれたんだ。


なんと人一人殺して600万ドル支払う条件だった。俺はすぐに飛びついた。笑ってくれ、俺の集めた部下はそれなりに世界一だったんだ。

 

だが、君は捕まらなかった。凄い事なんだぜ。


だから俺の死は気にするな。俺は喜んでいる。アキオ、君に殺されて。俺の命には意味があったと。


 さて、これで最後の授業は終了だ。


貸し金庫の番号だが、この中にはトマス・マクレインとジェフ・グレイザーの依頼の言葉を録音したものが入っている。もし帰れたら使ってくれ。君の帰還を願ってるよ。


それに俺の証言としての遺言書を残しておく。バッグの中に入れてある。


君がこの世界で生き別れになっているご両親に出会える事を願っているよ。


「さようなら」とは言わない。「さあ、行ってこい」と言わせて貰おう。


最愛の息子、アキオに。        グレーグ・ドラコから

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る