第15話 最後の授業

 心を落ち着かせて辺りを見渡せば岩陰にグレーグの姿を確認した。

「そんな所にいたの。何かあったのかい」

俺の問いかけにグレーグは謎の微笑みを見せ、ただ何も言わなかった。安心した俺はグレーグに背を向けて獲物を見せた。


 その時背中の方からあの嫌な感じがした。

「まさか、グレーグが」

心の中では葛藤が続く。が、そんな悠長な感覚では無い。俺は「バッ」と、前に飛んだ。屈み込んだ体制から後ろを見ると、グレーグがナイフを俺の背中があった辺りを刺していた。

「流石だなあ。やはり一撃ではやれないか。教え過ぎたかな」

「何のつもりだ。こんな事をして、意味なんかないじゃ無いか」

「フフフフ。ある。あるんだ」

グレーグは拳銃を取り出し、狙いをつけると撃って来た。俺は慌てて飛び出し、草むらに逃げ込んだ。


「お前と俺は敵味方だ。何を勘違いしてたんだ。仲良くなれるとでも考えていたか。バカめ。羊め。狼様が狩ってやる。痛く無い様にしてやるよ。アキオ。お返事は、どうしました」

グレーグは隙もなく振る舞う。付け入る隙を与えず俺を探し始めた。

「アキオ。言っておいただろう。自分の得物は持っておけと」

俺は自分の失態に嫌悪した。だが奴は少しづつ俺に近づいて来る。


「もうダメだ」と観念した時。右後方の草が揺れた。

「バキュッ」と拳銃が火をふいた。血の匂いが立ち込める。

「アッハハハ。バカな奴」

グレーグは血の匂いを追い掛けてゆく。


その隙に何か武器を探して見るが何も見つからない。住居には何も残されていない。

「グレーグにやられた」 

もうはや体力勝負となっていた。グレーグの隙をつき、倒すしか無いと覚悟した。だがどうやって、奴の方が断然有利なこの状況。この時グレーグの知らない事を考えた。今いるところから右にもう少し行くと溝がある。その先には穴が空いている。

 

 石を草むらに気付かれぬ様に投げる。この技は敵に気付かれずその注意を意図する方向に向けるもので何度も練習させられた。少しの草の揺れを見逃さずグレーグは銃を撃った。


 だがそこにはイボイノシシに似た動物がいた。俺たちはこいつをよく食べていた。ものすごく臆病なくせに死にかけると逃げないでこちらに向かって来る習性があった。俺は何度も狩でやられかけたことがある。ある意味手を出す時にはよく考えて狩らないと、逃げてどこかで倒れてるか、殺しても自分が傷つくことがある奴だ。グレーグに怯えて草の中でじっとしていたが弾が当り死の恐怖に狂い、グレーグに向かって突進して来た。


グレーグは3発撃った。が命中しようが御構い無しで突進して来る。ぶつかるとグレーグを跳ね飛ばし、少し走って絶命した様だった。


 俺はゆっくりと間合いを取りながら近ずいた。


グレーグはもう虫の息だった。何もできずに横たわっていた。

「フッ、愚かだと思っているのだろう。あんな物にやられるとはな。俺も老いたものだ。この俺がこんな最後を迎えるとは」


「なぜだ。なぜなんだ」

「それはな」

グレーグは急にナイフで刺そうとしてきた。その手を右手で抑え、相手の胸にナイフを刺した。グボっと口から血を吐き、グレーグは倒れた。


「よくやった。これで卒業だ。あそこに行け」

指差す方を見て、すぐにグレーグを振り返ると少し笑っている様に見えたがもう息はしてなかった。


言われた場所には武器一式と多くの道具が置かれていた。


そして、貸し金庫の番号を書いた紙と手紙がおかれていた。




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