第10話 襲撃

 何かがおかしかった。あの鳥が鳴いた時から。危険では無いが、気持ちのいい感じではない。どっちつかづのもどかしい感じが気持ち悪かった。


 ジェフが座って話していたときに手を組みその上に顎を乗せていたが、見ていると組んだ手を顔の上にずらして上げて行き、両手の人差し指で鼻筋を抑えた時、あの悪い気分になった。もう、ここにはいられない。どうしようかと迷ったが、迷ってる暇のない事は俺の感覚が教えている。


「ジェフ。小便がしたいんだが便所は無いのかい」

「アキオ。その辺ですれば良い」

「俺たち日本人は両親が作ったこの施設で立ち小便は出来ない。何処かに便所は無いのかい」

「それならあの通路の向こうにあったはずさ」

「オッケー。して直ぐに帰って来るよ」

俺は小走りにその通路に入って行った。だが嫌な気分は消えない。ちょっとマシな方向に進んでいくと丁度折れたアンテナの下辺りに出た。埃が積もったところを歩いていると何かをふんずけた。何かと思い手に取るとそれは黒く軽い物だった。そう鱗のようだった 。息を吹きかけ、埃を祓い胸のポケットに押し込んだ。


 すると声もしないのに頭の中に声が聞こえる。

「おいっ。いたか」

「いや、まだだ」

「先に行け。こっちを確認する」

誰か俺を探しているのだろうか。そう言えばジェフが殺し屋の話をしていたことを思い出し、逃げ出そうと機械の上に顔を出した時「奴だ」と声が聞こえた。と同時に自動小銃からの弾丸が降り注いだ。「ヤバイ」警告もなしに撃って来るとは非常識な奴らだ。映画でも「止まれ。止まらないと撃つぞ」の一言があるだろうに。当たらなくて良かった。腕の悪い奴を雇ってるんだろうなあ。危ない奴らの相手する覚悟をして機械の谷間に逃げ込んだ。

「おいっ。あっちに回れ。奴の頭を押さえろ」

「いないぞ」

「なにっ。じゃあ、右の角を探れ」

俺を捜す奴らの声が聞こえる。追い付かれそうで不安が湧き上がる。安全に思える方向に進んでいく。角を曲がりかけた俺を見ただけで奴らブッ話す。できの悪い奴らだ。話し合いなど無駄に終わるのは予想がつく。手をあげて出た途端、「バアン」と1発撃たれて終わりだ。どこまで逃げれば良いのかわからないが、殺されるのは嫌なのでここは逃げるしかない。だがどうしたことか逃げる方向が無くなって来た。イヤな感覚のする方向しかなくなり、袋小路に入ったネズミのようだった。多分奴らそれなりのプロなんだろう。指示してるヤツが偉いのかも。だがこのままではやられてしまう。右手の角から追っ手が来るのが分かる。

 進退窮まるとはまさに今のことを言うんだろう。困り果てて辺りを見渡すと、何も変哲も無い棒が光り輝いて見える。それは機械のレバーの様であり、機械本体のようにも見えたが、手で握り締めてみると少し力を入れれば動くように感じた。追っ手は直ぐそこだ。俺の感は早くしろと叫んでいる。

「ええっい、ままよ」

俺は力一杯引っ張ると機械から外れた。次の瞬間、大きい声がした。

「いたぞ。ここだ」

男は拳銃を俺に向け、引き金を引いた。

「バッン」

弾の通り過ぎる音が聞こえた。頭を下げ右に見える通路に飛び込んだ。

「そっちに逃げたぞ」

棒を持って逃げたが先に進めばやばい事は確かだった。追っ手が近ずく。もうすぐ角を曲がって来るとわかっているが先に進めない。その時だった。アンテナが火花を散らしたのは。男は曲がり角の手前で火花が散った方を見上げた。

 バコっと俺は鉄の棒で奴を力一杯叩いた。ひっくり返ったところを上から棒を振り下ろし、奴の頭を砕いてやろうとしていたが、拳銃の発砲音がして、俺の直ぐ横を弾が飛んでいく。慌てて機械の上に登る。

「奴は上だ。追えっ」

3人が追ってきた。真っ直ぐ行かなければやられてしまう。3人に追い込まれているのが分かるのだが、撃たれて終わりたくない。機械の上を障害物競走のように必死に走ってゆく。小学校の運動会よりエキサイティングだ。命懸け障害物競走だ。「あ〜あ、クラブ入ってたら良かった」とつくづく思った。

「そっちに逃げるぞ。回り込め」

追っての声が聞こえて来る。何とかかわしながら端にまで到達したが、どうもこの先がヤバイと感じる。

「どうしようか」と見ると埃をかぶったシートがあった。

「この上に奴ら乗っかれば引っ張り上げてやろう」と、シートを掴んで座っていた。

「ハハハハ。バカな奴だ。逃げ場がないことくらいわからないのか」

男は俺が観念したと思い、拳銃を構え、何も考えずにシートの上にたった時、俺は力一杯シートを引っ張った。男は仰向けに倒れてしまい。頭を打って伸びてしまった。拳銃を奪い取ろうとしたが、右手から来たやつに撃たれて逃げるしかなかった。


機械と機械との間を飛び越え進んでいたが、直ぐ前に飛び着いたら危険に感じられる。どうしようかと躊躇していた。

「まてっ。殺すぞ」

拳銃を撃ちまくり、殺すぞもないもんだ。足元を見れば下に降りる場所がある。そこに降りて見ると機械の端にコードがたくさん繋がっており、通れなかった。

「エエぃ。ヤバイ。早くしないと撃たれる」

通るのに邪魔なコードを引き抜き、機械の陰に入り込んだ。

「奴はこの中だ」

「くそっ。見えないぞ」

男二人は腹たちまぎれに拳銃を3発撃ち込んだ。

「馬鹿野郎。無駄なことをするんじゃない」

奴らのボスらしき男が命令していた。

「おい、お前が後をつけろ。やられるんじゃないぞ」

俺の後ろからスキンヘッドでゴリラの様な男が追って来る。それでコードだらけの場所で待っていた。奴は俺が逃げの一手で何もしてこないとタカをくくっていた。ゴリラ野郎の足をコードで引っ掛けコードだらけの場所に落としてやった。慌てて機械の上に登ろうと頭を出した時、ガッツんとスキンヘッドに蹴りを入れてやった。そのまま落ちてしまった様で何とか逃げ切り、もう少しで中央指令室にたどり着けると思っていたが、どうもこれから先に進む気にならない。後ろからまだお客さんが駆けつけて来るように感じるのだが。それで機械の上に登ろうとしたその時、俺の足を掴む奴がいる。「ハッ」として見ると拳銃を持っている様子はなく、その男は笑っていた。蹴ろうとした足を捕まえ、引き摺り下ろされ、のばされてしまった。気が付いた時には中央指令所の前に転がされていた。

「いてててて。ひどい奴だ」

目を開けると7人の男たちに取り囲まれていた。特にタコ頭で俺に蹴りを入れられた奴は険悪な顔をしていた。




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