第8話 ジェフの思い出
「ピピピピ〜」と鳥が鳴いて俺たちの前を飛び去った。俺はビックリした。
「ハハハハ。やはり君はディビーの息子だ」
ジェフは笑いながら自分と俺の父親との話をした。
ディビーは勇敢だったが一面物凄く慎重で、幼い時ハイキングに行った事があったんだがある所で足を止めて一歩も動かないんだ。
「行こう。さあ早く」
俺が催促しても動かないんだ。それで俺が進もうとしたら反対に手を掴まれて。それでどうなったと思う。今みたいに鳥が鳴いて飛び去った後、ディビーの辺りよりも前の所まで山が崩れ、全て谷に落ちて行ったんだ。ビックリしたよ。
俺の危機回避能力は父親譲りだったのかと思い知らされた。
だが、ジェフはなぜ俺が鳥の鳴き声で驚いたのを見てあんな事を言うのか不思議に思っていた。
話は母との出会いに戻った。
それからカオリを連れてさっきのボロ屋にやって来た。ディビーは機械の説明をし、理論的なアプローチを話した。するとカオリは俺たちなら絶対にやらない実験を提案した。ディビーは首を振り、「ダメダメ、素人さんはこれだから」と事も無げに拒否した。カオリは静かにディビーを説得した。だが、二人は平行線を走り、お互いにおれあう事は無かった。カオリは芯の強い人でディビーが大声でまくし立てても御構い無しに同じ事を提案した。実験も進展がなく困り果てたディビーはとうとうカオリの提案を受け入れ、実験を実施した。
だが、何も起こらず、電源のメーターが上昇するも転移空間はいつもと同じ。ディビーは大声で怒った。
「だから言ったんだ。君は愚かなんだ。わかったかい」
だが、カオリは転移空間を見つめて何も言わなかった。
「おい。シカトかい。謝ったらどうなんだ。私の間違いでしたと」
ディビーが見落とす現象をカオリは見つけていたんだ。
「あそこおかしいわ。あんな風になるのはどうしてかしら」
カオリが側にあったディビーの飲みかけのコーラの缶を転移空間に放り込んだ。
「何しているんだ。俺の大事なコーラを。まだ飲んでいるんだ」
だがコーラの缶は空中の一点で止まり落ちなかった。ディビーは驚いた。
カオリは「ふっ」と笑うと、箒でその空間に浮かんでいる缶をチョコンと突いた。缶は横に動いて床に落ちた。その装置が空間重力安定装置だ。今、宇宙ステーションに無くてはならない装置だ。そして、空間を飛び回る人気のアトラクション「ブリザード」をはじめとする多くの遊具をはじめ、ありとあらゆる空間デザインを可能とする装置となった。二人は大金持ちになった。俺は奴らは金に溺れてもう研究なんかしないんだろうと踏んでいたが違った。この大きな土地を買い、あの大きな研究所を建て、益々資金をつぎ込み新しい実験を実施した。研究員も新たに雇い、その後カオリは実験から多くの成果を捕まえ、特許を取り、パテントを企業に売込み、益々収益を大きくさせていた。
もう名前はマクレイン研究所だったがカオリ研究所の方が似合っている様だった。ディビーは最初の頃なら先頭車両だったが、そのころのカオリは財政をきっちり切り盛りし、実験を評価する立場になっていた。カオリが仕切っていたんだ。
ある時ディビーが俺に言うんだ。
「カオリにプロポーズしたいんだがどう思う」てな。
「アホ。お前はアホか。俺に聞くな。本人に聞け」
俺は次の日の講義の準備をする為、机に向かって書類の整理をしていた。
「だけどジェフ、カオリ、怒った時「このハゲおじん。頑固爺」って言うんだぜ。自信無くすぜ。俺ってそんなに頑固だろうか」
「ああそうだな。カオリといい勝負だ。負けずに言い合って来い。負けなければ結婚できるさ。負けなければな。だが相手は強敵だぞ」
そう言って振り向くと奴はいなかった。
笑ってしまうぜ。その日のうちにカオリを落とし、三日後には結婚式を行い。式の後はすぐに研究所にトンボ帰りだ。おかしな夫婦だ。二人ともいつもと同じで研究に打ち込んでいた。そうしていたらアキオ、君が生まれ、三年後には妹セレナができていた。カオリは君が6歳まで君やセレナちゃんを見ながら研究所を往復していた。確かアキオ、君が車から二つの太陽を見たそうじゃないか。あの事で研究が進展して、次の段階に発展したんだ。企業に売り込まれたパテントも30は下らないんだ。そして3年が過ぎて行った。
俺はしがない大学講師。ディビー達は人も羨む実業家。金も名誉も手にしていた。俺は教授達に指導を受け、来期の職を確保するのに四苦八苦だったんだ。
そんなブルーな気分の時、ディビーから電話がかかってきたんだ。
「やったぞ。窓が開いた。0.5秒だったが。ジェフ、君の理論が正しかった。これで教授達を見返してやれる。今度いつ来る。カオリも俺も待ってるぜ。今度こそ安定化を実現してやるさ。三日後に再実験を実施するんだ。来てくれ」
「ディビー。すまない。その日大学の諮問委員会に呼び出されてるんだ。これを抜けると来期は仕事が無くなるんだ。終わってから駆けつけるよ」
「そうか。講師も大変だな。俺のところに来いよ。前から言っていたじゃないか」
「そうだな。首になったら頼むよ」
「そんな事ないって、これが成功したらジェフ、君は大学の教授さ」
電話を切り、実験の成功を祈った。
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