第5話 ニューヨーク
ジェットが通常飛行になるとジェフは300ページにも上るレポートを読む様に指示した。どうも両親がやっていた研究の事が書かれている様だった。
ジェフが俺に静かに言った。
「今から君はアキオ・マクレインだ。カイバラ・アキオではない。それとマクレイン財団のトップとなるのだ。やり甲斐のある仕事だぞ」
「マクレイン財団。聞いたことがあるような。確か」
「総資産500兆円規模の財団で年間の収入は10兆円をゆうに越えている団体なんだよ。慈善団体であり、超ハイテク産業を配下に持つ世界最大の財団だよ」
「そんな財団のトップ」
「そうなんだ。君にはその資格があるんだ。本来なら君は次期トップとしてニューヨークで教育されていておかしくなかったんだが、相続問題があってね。今年君が相続する事を裁判所がやっと認めたんだ。ニューヨークに本部があり、今そこに向かってるんだ。殺人者が君を狙っていてね、それで今まで日本にいて貰ってたんだ。悪く思わないでくれ」
「いや、何も。青森で生活出来ればそれでよかったんだが」
「そうだったね。よくわかるよ」
「よくわかる」
「そうさ。俺は君を青森から東京に行かせた俺なのさ。君のお婆さんにお母さんの死を伝えたのも。殺し屋が君を狙っている事も連絡して、保護しやすい君の叔父海原家に落ち着かせ、あの坊ちゃん学校に入学させたのも、俺なのさ。ひと月に一度は君のお婆さんに連絡を入れていたんだ。ただ、殺し屋のことを話した時物凄く狼狽されて気の毒だったよ。君との別れは悲しかったらしくキッチンで泣いていたらしい。君に気づかれてはならないと我慢してたらしい」
「オババが」
「それと君に伝えなければならない事があるんだ。本来なら君をニューヨークに連れ出すのは20歳と決めていたんだが、俺がもう持たないんだ。財団を切り盛りして来たが、もうすぐラストになる。だからその前に君に全てを教えておこうと前倒しで連れ出したんだよ」
「俺には」
「ノー。君には決める事以外求めない。事務や実務は雇えば幾らでもその辺に転がっている。情報を聞き、総合的に判断をする。それだけが求められるんだ。君はトップになるんだ。学歴やスキルなど仕える者に必要なスキルだ。君には支配する事のみが求められる。何人にも屈する事なく、自分の意見を通して来た今の君の様な行き方こそ求められるんだ」
「・・・・・・」
「よく考える事だ。あまり時間も無いが覚悟を決めておくことさ。もうすぐニューヨークに着く。それで全てが動き出す。君も感じるはずさ。アキオ・マクレインの力を」
ニューヨークに着くと何故か報道関係者が集まっていた。
「偉く騒がしいんだなあ。流石ニューヨークだ。誰が来てるのかな。映画スターが来てるのか。会えたらサインでも貰おうかな」
そんな思いで空港の入国ゲートを出れば、俺とジェフの前に一斉に駆けつけて来た。俺はタジタジとなり、ジェフの後ろに下がろうとした。が、ジェフが俺を前に押し出し、話始めた。
「みなさん。ご紹介いたします。アキオ・マクレインです。マクレイン財団のトップとして今日から活動いたします。どうかよろしくお願いいたします」
そう言うとジェフは俺に一言だけでも良いから挨拶せよと言う。
「やあ、初めまして、アキオ・マクレインです。よろしく」
この様子はテレビ放送され、日本の海原家でも叔父夫婦が見ていた。
「章雄がニューヨークに着いたんだ。やっと肩の荷が下りたなあ。これでよかった。何もなくて」
「そうねえ。心配続きでどうしたものかと。大変でしたね。お疲れ様でした」
「お父さん。お母さん。何言ってるの」
静江は両親が話してるのを後ろで聞いていた。
「ああ。静江か。もういいだろう。章雄君はね、俺の姉さんの息子でね。アメリカのマクレイン財団の後継者だったんだ。殺し屋に狙われていてね、それで引き取って保護していたんだ」
「ふん。タダで生活させてあげて、お小遣いまで沢山のあげていて」
「静江。何言ってるの。そんなこと言っちゃダメでしょう」
「何よ、かあさんまで」
「違うんだ。章雄君の生活費用として一年5億円が振り込まれ、お前もあの学校に入れたのも彼のお陰なんだよ。財団から20億円の寄付を受けては何も学校は言わないさ。何があっても非難などできないんだ」
「じゃあ。そんな」
「そうなのよ。本人にも言えず。誰にも言えない。そう言う立場もあるのよ」
「母さんもよく我慢したなあ」
「お父さんも」
娘の静江は塞ぎ込んでしまった。
ニューヨークの一角で男たちがテレビを見て笑っていた。
「どうやら物が到着した様ですね」
「そうだ。よくあの面を覚えておけ。逃すんじゃ無いぞ」
「はっ。隊長」
6人の男が直立し敬礼をする。
「俺たちに失敗はない。明日は獲物がワナにかかり次第ゴーだ。わかったか」
「はっ」
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