第4話 18歳の誕生日

 みんなに嫌われていても18歳のその時はやって来る。

海原静江の18歳の誕生日には友人が祝いにやって来た。叔父は俺を含めた4人でレストランに行こうと提案したが娘静江が却下。

「叔父さん、俺家にいてもいいですか。ちょっと疲れてますので」

「章雄君、静江の事は気にしなくても良いよ」

「いいんです。本当に」

俺は部屋でゆっくりしていた。静かな環境。精神的な圧迫の無い時間が愛おしかった。レストランで飯食ってても静江の侮蔑の眼差しを感じていると辛いだけだと思っていた。


「お父さん。章雄は何なの。やる気もなく、クラスのお荷物で嫌われ者。別のクラスの私まで色々と言われて大変なのよ。青森に返したら」

「静江、やめなさい。章雄君も辛いんだよ。お前もわかる時が来るから」

「そうよ。お父さんの言う通りよ」

「お父さんもお母さんもいい加減にして。いつも同じ事言って」

静江は居間から出て来て二階に上ろうと階段の所にやって来た。俺は降りて来たところだった。

「やあ」と声をかけるのが精一杯だった。

「フン」と首を横に振ると二階に駆け上がって言った。

「叔父さん、俺青森に帰るよ」

そう言ったが叔父は引き止める。

「章雄君。そう言わずこのままで良いんだから。あいつもわかる時が来る」

「そうよ章雄君、静江を許してやってね」

「叔父さん叔母さん」

仕方なくそのまま東京にいる事になった。


 その日、18歳の誕生日。夏休みの真っ只中。8月15日は青い空に白い山が沸き立ち、うだる様な日だった。俺は部屋で何もせずグダッとしていた。周りの友人達は活動的に過ごしている。静江は朝から勉強に忙しく、午後から友達と図書館に行く約束をしている様だった。


 そう10時を超えてもう少し経つと11時だからアイスでも買いに行こうと思っていた矢先、階下から話し声が聞こえて来た。

「ジェフさん、今部屋にいますよ。予定より早くお着きになりましたね。呼びましょうか。はい、あなたが部屋に行くと。わかりました。あれから何かわかりましたか。ああ、そうでしたか」

階段を誰かが上がって来る足音が聞こえて来た。

「静江に会いに来たのか。ジェフとか言ってたなあ。外人さんだな」

そう思って俺は天井を見ていた。

俺の部屋のドアが開く。

「やあー。アキオ、大きくなりましたねえ」

声がする方を見ると見るからに外人と表現できる大男が立っていた。目は青く、顎鬚も短く刈ってはいる。よく言えばケンタッキーフライドチキンの前に立っている爺いの感じ、悪く言えば昔のプロレスラースタン・ハンセンの様で厳つかった。近ずくと俺に抱きつき頬ずりをする。

「痛い痛い。やめてくれ。何するんだ。お前なんか知らねえぞ。向こうへ行け」

「おうっ。悲しいこと言いますねえ。私、ジェフ・グレイザー。あなたの後見人です。ジェフって呼んでください」

「何言ってるんだ」

「おう、そうだ。アキオ、これ見てください」

胸ポケットから一枚の写真を出した。

「これ、私。この抱いているベビー、あなた。お父さん。お母さん」

写真を見ると何か研究室の様なところで写したらしく機械や計器が並んでいた。写真に見入っているとジェフが言う。

「これで君の知り合いで君のお父さんお母さんの友人ということがわかっただろう。この時もアキオあまり嬉しい顔をしていないねえ」

「だが東京見物にでも来たのかい。俺今忙しいんだけど」

「うん。忙しそうだね。だが、もっと忙しくなるんだ」

「ええっ。何を・・・・」

「君はこれからアメリカに旅立つんだ。日本のスクールは終了。わかったかい」

「いや。わからない」

「今すぐこの家を出て羽田に向かい、ニューヨークに飛び立つのさ」

「ええっ」

「さあ、行くぞ」

ジェフは俺の手を掴むと部屋から引きずり出した。階段を降りると叔父さんと叔母さんが待っていた。

「章雄君、これをもって行きなさい。元気でな」

カバンを一つ手渡され、俺は車に乗せられた。

 車に乗る時視線を感じるので見上げると二階の窓から静江が見ているのが確認できた。俺と目が合った途端窓のカーテンを急に閉めて見えなくなった。

車は走り出し、羽田空港の滑走路近くを走って行く。

「ターミナルに行くんでは。こっちに」

「ハハハハ。アキオ、プライベートジェットで行くんだ。あれを見てごらん」

指さす方にアルファ1が見える。

「あれはこの前ロッキード社が売り出した最新機じゃないか」

「アキオ、よく知ってますね。一番機なんですよ」

ジェットのタラップの前には空港職員が待っており、出国審査もすぐに終了。機上の人となり、客室乗務員に言われシートベルトを閉めているとジェットは動き出していた。

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