第3話 隠された能力

 日本は帰国子女をイジメる文化があるのかと思える程、アメリカから日本に来た俺はクラスの奴らに無視され、爪弾きにされた。小学校、中学校と青森で過ごしたが腹立たしい思いで一杯だった。だがオババを心配させる事は出来ない思いからオババの前ではいつも笑っていた俺。妹のセレナもイジメられるのかと心配していたがそんな事はなかった。それで余計に自分を偽り平静を装いオババに心配をかけまいと我慢した。


 イジメはいけない事だと教師は言う。だがそんな事で止める奴などいない。それが現実。俺の持ち物は足が生えているのか知らない内に何処かへ行く。工作だって教室にあったのに校庭のど真ん中で潰れていた。

だが、俺はどんな時も見つける事が出来たし、潰れたものに未練など抱かなかった。俺はオババが悲しむ姿を見たくなかったし、優しいオババのそばが嬉しかった。母は自分の目的を目指す女だったが、オババは優しく包み込んでくれる様な人だった。そのオババが東京へ行けと言い出した。

「章雄、お前は東京さ行け」

「俺、ここにいる。ここにいたい」

「ダメだ。浩二が明日迎に来る」

そう言うとクルリと向き直り台所に入って行った。

次の日叔父が迎えに来て直ぐに駅に向かう事になるのだが、手にしていた鞄は、オババが用意してくれたものだった。オババは無言で俺に荷物を手渡すと直ぐに台所に入って行った。

叔父は「母さん。行くよ」と大きい声をかけていた。

「仕方ないなあ。章雄君、さあ行こうか」と叔父は歩き出した。

俺は無言で叔父と連れ立ち東北リニアで東京に旅立った。


 東京での俺は学校でも家でも非難され続け、精神的に参っていた。こんな事なら青森の方がまだマシと思える日々が続いている。

クラスにいると俺に文句を言う奴らがよくやって来る。

「あなたね。ここにいて私達の話を盗み聞きするつもり」

「聞かれて困る事話すのか」

女は黙った。

「確かこいつサッカー部の佐々木に憧れてたよな。あの3人は二組と三組の奴らだし、こいつはカマかけて追っ払ってやろうか」

思いつくとニヤリと笑ってやった。大きな声で3人組に聞こえる様に話す。

「確か二三日前に何だったか。誰かと歩いていたよね。確かイヤらしいトコロを」と言ったら、慌てて3人を連れて出て行った。

ある時二組の女が来て言う。

「お金の問題では無いわ。あなたのおかげで心が傷ついたのよ」

「俺何もしてないよ」

「存在している事が悪なのよ」

「お前ブスだろう。お前の存在に乾杯するよ」

「エッ」

「だってそうだろう。お前がいるから他のが引き立てられる。俺がいるからいいヤツがわかる。お互い辛い立場だよなあ」

泣いてどこかへ行ってしまった。

「何処へ行ったのかカモメのジョナサン」と笑っていた。

ところが嫌な感覚が沸き起こる。いつもの事だから、すぐに教室からカバンを持って早退を告げいなくなる。俺のいない教室に女が何人かの男とやって来るが会う事はない。追いかけて来るが俺は嫌な方向には行く事はない。だから出会う事はない。今思えば何故なのか考えもつかない俺の危機回避の能力だった。

だが、日々の生活は気分のいいものではない。

 周りからは非難の声しか聞こえてこない。誰一人味方になろうという奴は現れない。孤軍奮闘して毎日が地獄の行軍の様だった。弱音を吐けば周りから袋叩きにあうのは目に見えており、耐えるしかないデスロードな日々を過ごす俺の精神は強靭に成長をしていった。起きている時は常に精神的圧迫を受け続け、眠る幸せを噛み締めていた。


 不良でデタラメ、汚くてバカ、助平で弱い。こう言う評価を周りから頂いて日々暮らす。何を言われても実害がなければどうって事もなく生活していた。

不良と言われてもお前達みたいな良品にはなりたくないと言い返し、デタラメな奴と呼ばれた時は神から見れば全てがデタラメと言い返す。汚いと女に罵られると「じゃあ、比べてみよう」とニマッと笑って言ってやる。バカとの問いかけに人は神には勝てないと言い放ち、ムッツリ助平と言われれば、男が助平でなかったら人類は滅んでいると涼しい顔で笑っている。弱いと言われると「そうだ」と快諾し、「ただ、負けた記憶がない」とだけ答えていた。誰も俺を言葉で傷つけることが出来ずにいた。言葉で傷つくのは自分が傷つけるのであって他人は無力だと感じていた。ただ、俺の返答で相手の方が傷つくらしく、みんな悔し涙を流して帰って行った。最近では誰も相手になってくれず少しさみしい日々を過ごしている。


 みんな三年になり、お受験に必死なんだろうが俺は青森に帰ることを夢見る男。大学なんか行きたくもなく、畑仕事でもしようと考えていた。あのまま青森に帰っていれば、オババの畑を手伝いそこで生きていたかも知れなかった。それも幸せだと思えるのはどうしてだろうか。

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