第5話 蔓延うる悪行
『楊貴妃』って知っているかしら?
魔女はそう訊いてきた。
もちろん知っているさ。世界史の授業で習ったから。
中国の唐の時代……今からおよそ1300年ほど前か。その時代の皇帝、玄宗皇帝の妻にあたる人物だ。
クレオパトラと並ぶ、世界三大美女にランクインするほどの美女で、その美貌は美しすぎるあまりに皇帝を堕落させるほどのものだったという。
実際に楊貴妃が魅力的なあまりに玄宗皇帝は政治を放り投げ、おかげで国中が混乱して挙句の果てには内乱が起きたほどだ。それほどに楊貴妃は「傾国の女」だった。魅力的だった。
その旨をつらつらと言ってやると、彼女は、あっそう、下僕でもそれくらいのことは知っているのね、と至極面白くなさそうな顔をしていた___
▼
「さあ……乗り込むわよ」
昨日来たばかりの校舎、井沢塾の玄関口前。
五木さんの手の平の上で、苺が四つ、文字通りふわふわと浮かんでいた。まるでそこだけが無重力空間のようだ。その光景にはまだ慣れないが、僕はそれが『魔術』によるものだと知っている。
「本当に行くん、ですよねー……」
「は? 何? 怖気ついているの? 女々しいわね」
さっと髪をかき上げながら嘲笑う五木さん。今まで魔女としてこういう場面には多く遭遇しているのか、場慣れしているように見える。
秩序維持だったか。この人は一体いつからそんなことをしているのだろう。
しかし本当に、正面から乗り込んでいいのか……。一応敵の本拠地なんだし、もうちょっと警戒した方がいいのでは?
「それじゃあ、行きましょう」
躊躇う僕とは対照的に、五木さんは何に臆することもなく、ズカズカと正面玄関に乗り込んでいった。
仕方なく僕は後を追う。……経験豊富な五木さんに従っていれば問題ないはずだ。
扉を開けると、昨日と同じ光景が広がっていた。
事務スペースの前を行きかう生徒と、講師。
僕らを気に掛ける人はいない。
すると、前を行っていた五木さんが突然振り返った。
「……下僕、これを持って行きなさい」
そう言って伸ばしてきた手の平の上には、さっきの苺が四つ乗っていた。それを受け取る。
「……これは?」
食べていいのか? どう反応すればいいか分からず、苺を掌の上に乗っけたまま固まってしまった。
「これを一番隅の教室に一つずつ置いてきて」
隅の教室に置いてきて……?
何の意味があるのだろうか。詳しい話は分からないが、従う他ないだろう。僕は力強く頷いた。
「……分かった。置くだけでいいんだな」
「それじゃ、私は先に話を進めておくから、くれぐれも失敗しないように、ね? 終わったら私を探しなさい。どこかにいるわ」
そう、不敵に笑う。
余裕の笑み。そういえば僕はこの人の焦っている顔を見たことがない。僕に魔術を見られた時だって、とてつもなく嫌な顔をしていただけなのだ。
彼女にとっては如何なる異常事態も些細な問題なのだろうか……。
僕はそうは思いつつも、やはり一抹の不安を抱えたまま五木さんに背を向けた。
▼
「これで、良いのか……?」
隅に当たる教室は幸運にも無人で、簡単に忍び込むことができた。苺を置いて、バレないうちにさっさと退散する。本当に、これが何になるのだろうか……。
さて。
五木さんを探さなければならない。
声を上げて名前を呼ぶわけにもいかず、歩きながらどうしたものかと思案していると、ちょうど五木さんの姿が見えた。
彼女はスーツの男___井沢に連れられ、「STAFF ONLY」と書かれた扉の奥へ消えていった。
「追っかけるか……」
他の人の目に着かないように、僕は扉の向こうに滑りこんだ。
中は薄暗い通路になっていて、果たして奥の行き止まりに二人はいた。
「下僕」
井沢は突然現れた僕を見て、驚いたように目を見開いた。
「君、ここは……」
「あれは私の連れよ。放っておいても心配ないわ。……それよりも話の続きをしましょう」
井沢は動揺した様子もなく、落ち着いた目で五木さんを見下ろしている。その態度が、僕たちの目的が分かっているかのように思わせた。
そして井沢は、ゆっくりと眼鏡を外したのだ。
「……勧める者がいれば、取り締まる者もいるということか」
「……手の内は全て暴いたわ。あなたのやっていることは、魔術をもって秩序を乱す、平穏を損なわせる行為よ。……見逃すわけにはいかない」
今まで見たどの彼女よりも、冷酷な瞳をしていた。鋭く砥いた刃のような___昏く冷めきった魔女の瞳。
直接それに見つめられてはいない僕でさえも、金縛りにあったように動けなくなった。
井沢は、それでもゆっくりと口を開いた。
「___手の内、というのは」
「生徒を集めるための呪符……これね」
そう言って、ポケットの中から取り出したのは、消しゴムだった。
ラベルに「井沢塾」と書いてある、小さな消しゴム。
そのラベルを、ピリピリと破く。
破いて、裏返した。
そこには、赤いインクで書かれた文様が描かれていた。
「単純よね。宣伝パンフにこの消しゴムを挟んで、校門で不特定多数の生徒に配れば……その中でパンフを捨てなかった生徒は術に掛かるというカラクリ」
昨日の放課後、その結論に行きついたのは僕だった。
五木さんには「下僕にしては、頭が回るのね」と少し嫌味っぽく言われたが、嫌な気はしなかった。
「術の内容は?」
「悪霊ね。具体的に言うと、『楊貴妃の霊片』と言ったところかしら」
一つの国を傾かせるほどの魅力を持った楊貴妃。その霊をいくかに分割した、霊の欠片。それを術式として呪符に込め、生徒に配布した。
呪符には楊貴妃の魅力の力が___井沢塾を魅力的だと思考誘導させる力がある。霊を分割している分、一つ一つの効果はそこまで強くはないが、塾を迷っている生徒ならば簡単に落ちる。それくらいの力はある。
およそ、んなところでしょう?
魔女はそう語ったのだった。
「なるほど、楊貴妃のことにまで気づくとはね。それで、君は何者なのかな。……あの連中と同じか、それとも……」
「あの連中?」
五木さんの声が少し低くなり、瞳も細くなった。
そして、井沢は彼女よりも一層低い声で、語り始めたのである。
▲
三か月前。
井沢塾は人知れず窮地に陥っていた。経営難である。
高校生を対象にした個人経営の塾は、大手の予備校にどうしても劣ってしまう。それを分かっていて、井沢は塾を立ち上げた。
数年前まで、彼はその大手で講師をやっていた。しかし生徒に教えながら、どこかそのやり方に違和感を覚えずにはいられなかった。
全国から集めたデータベースに則って、数回の模試の結果をもとに生徒に的確といえる進学先を判断する。
それによって生徒は確かに成長していた。数え切れないほどの生徒のデータと実績はその有用性を確かに示していた。
だが、そこから脱落している生徒も少なくなかったことも、井沢は知っていた。
「これは……私の求めていた形ではない」
本当の意味で、生徒一人一人のために存在する学びの場を。脱落する者のないように……。
それを実現するため、彼は井沢塾を開講したのだ。
対象は付近にある中レベルの進学校、青原高校に絞った。大手で身に着けたノウハウも役に立った。その結果、少しずつだが生徒が集まるようになり、ターゲットである青原高校の生徒の目に留まるようになっていった。
しかし。
「やはり大半の生徒は大手に入塾している……」
大手のそれには遠く及ばない。
井沢は唇を噛んだ。
もっと生徒を集めるには、どうすればいい。
もっと多くの生徒を……。
しかし、井沢に更なる向かい風が襲い掛かる。
青原高校の付近に新しく、また別の大手の塾が開講されるというのだ。
そこは、今まであった大手の塾と対立している、謂わば予備校の二大巨頭だった。
いよいよ井沢塾は絶望的な状況に追い込まれた。
井沢の奮闘も実を結ばず、生徒が次々と離れていく。ついには経営難に陥るまでに井沢塾は大手から突き放されてしまったのだった。
入塾する生徒はとっくに途絶えていた。
そんな折、悲観に暮れ、酷く焦る井沢のもとに一人の女が現れた。
「どうも! 私は
胡散臭い肩書とは裏腹に、爽やかな笑顔を振りまく長身の美人。ポニーテールに結わえた髪がピッシリとしたスーツに似合っていたのが印象に残っていた。
渡りに船、というよりも、井沢にとっては最後の頼みの綱だった。
井沢は彼女と契約を結ぶ。代金は決して安価ではなかった。
そして、これがすべての間違いだったのだ。
居沢経営相談所と契約を結んで三か月あまり。
また少しずつ生徒は集まってきた。
「けど、まだまだ足りませんね」
「ああ……。もっとだ、もっと生徒を集めなければ……」
その時の朝香の気味の悪いくらいの笑顔を今でも覚えている。
そして彼女は、少し抑え目の声で言ったのだ。
「……一つだけ、いい方法があります。滅多に提供しないとっておきですよ。私、生徒のために必死に努力するあなたの姿に心打たれましたので提供したいと思います! 追加プランとなりますが、必ず生徒を増やせることをお約束いたしますよ?」
「いくらだ」
井沢は即座に訊いていた。
「150万」
危険だと本能が告げていた。
この朝香という終始笑顔の女が纏う、得体の知れない不気味さ。
これ以上深入りしては本当に取り返しのつかないことになる……。
だが、井沢はその話に乗った。手を結んでしまった。
「___これを消しゴムのカバー裏に印刷してください」
それは何らかの規則に則って描かれた文様だった。
こんなもので、生徒が増えるのか。
深くは考えないよう、自分に言い聞かせ言われた通り印刷した。そして生徒に配布した。それだけだった。
そしてその消しゴムを配布し始めた途端、今までのことが嘘のように生徒が増加した。驚いた。嬉しかった。だが、何よりも怖かった。
「続けるなら、もう200万です」
「……」
もう、後には引けなかった。
▼
「なるほどね」
井沢は自分が「触れてはならない何か」に触れてしまっている自覚があったという。自覚はあったが、手を切れなかった。
そのうち、文様の正体、楊貴妃の霊についても詳しく説明されてしまった。いよいよこの世界から逃れられなくなったわけだ。
「私は、自分が間違ているとは思っていない。生徒を増やすためには仕方がなかったことだ。正しい学習を与えるためには必要なんだ!」
それでも井沢は、五木さんの目を強く見据え、そう言ったのである。そこからは確かな決意が見受けられた。
だが五木さんは呆れた、とでも言わんばかりにため息を吐いた。
「知らないわよ。あなたの都合なんて。……あなたはこの世界の秩序を乱す愚行を犯している。それだけで十分よ」
冷徹な瞳。まさに仕事、慈悲はいらない、と割り切っている。
井沢も臆さず、
「私が止めない、と言ったら?」
「止めるわ。それが私の……使命だから」
冷ややかな殺気に満ちた空間。正に一触即発だ。
本当に殺し合いが始まりそうな雰囲気。五木さんが手加減をするか分からないし、井沢もどんな攻撃手段を持っているか分からない。
なんとか、止めないと……。
「……井沢さん、一つだけいいですか」
何とか喉からそう絞り出した。
井沢は少しだけ意外そうな顔で、
「何かな」
と応えた。
ここで説得するしかない。でなければ、どちらかは無事では済まないだろう。
「あなたがやっていることが本当に正しい教育だと、学習方法だと言えるんですか。あなたの方法には、生徒の意思が無い。どこの塾に行くかなんてのは生徒の勝手のはずです」
「今更そんなことは問題ないんだよ、鎖原くん。生徒は知らないんだ。あれは間違っているということを」
あれ___大手のことを指しているのか。
だとすれば、僕に対抗策は残っていない。僕はどこの塾にも通ったことがないのだ。そこらへんには明るくない。
「……質問は、それだけかな?」
どうしてだ。
この人の意志は、僕たちにとって正しい塾の在り方を追い求める精神は何ら間違ってはいない。けれどそこから行きついた手段が、どうしようもないくらいにねじ曲がってしまっている。
生徒を集めるため、魔術に頼った。魔術を用い、生徒の意思を無視して自らの塾に入塾させた。五木さんが裁こうとしているのはその部分だ。決して井沢の意志そのものではない。
ならば、他に手段はないのか。生徒を集める方法は。
……あったら既に試しているだろう。結局のところ、魅力がないのだ。生徒は自分に一番利益となる塾に通うのが当然である。
井沢塾はその点で他の塾で負けているのだ。
生徒は無理やり一番ではない塾に押し込まれている。どうあれそれが事実ではないのか。しかし、井沢の言い分も分からないわけではない……。
分からない。
どうすればいい。どうすればこの人を説得できるのか。
一学生でしかない僕には……。
『どうでもいいじゃないか、そんなこと』
声が聞こえた気がした。
『魔術を悪用しているんだろう? それじゃあコイツは悪者じゃないか。それだけでいいんだよ。それだけで十分さ。だから……』
誰の声かは分からない。
とても耳に馴染む声。けれど同時に耳を塞いでしまいたくなる……。
「___く、下僕!」
「___ッ!?」
五木さんの声で、僕は戻ってきた。
一体、今のは……。
冷や汗を拭ったのもつかの間。
「……もう、いいかな。私は忙しいんだ。生徒のことを一秒でも長く考えなければ。生徒はこれからもどんどん増えていくからね」
そして井沢は身をひるがえし、去ろうとする。
僕は、この男を止めることができない。それだけの意志を持っていない___
「___止まりなさい。この私が気が付かないとでも思ったのかしら」
五木さんの鋭い声が響いた。
「……何かな? 言ったろう、私は忙しい」
だが五木さんは気にすることなく、井沢の背中に向けて言い放ったのだ。
「あなた、楊貴妃でしょう?」
楊貴妃、でしょう??
井沢の脚が止まった。
「いえ……正確には『楊貴妃の魅力』そのものね。人を堕とす、魔の魅力」
五木さんがそう言った次の瞬間、明らかに井沢の雰囲気が変わった。
何か、黒いものへと。
「そうだ。よく辿り着いたな。私は楊貴妃の一部。人を堕とす魅了の化身だ」
「その男を乗っ取ったのね? いつからかは知らないけれど」
井沢を乗っ取った……。じゃあ、さっきのこの男の意志は一体どうなるのだ? 井沢の意志ではなく、この悪霊の意志だったのか?
「私の存在意義はただ一つ。人々を堕とすことだ。そして私をこの世界に呼び出したあの者たちは、この塾業界を堕とせと言った。ならば私は己の力を存分に奮うまで。久しぶりに楽しくやらせてもらったよ」
にやにやと笑いながらそう言い放った井沢___いや、楊貴妃の霊に我慢ならなくなって訊いた。
「さっきの……お前が言っていたことは嘘なのか? それとも井沢の本心なのか?」
「この男の精神は紛れもなく本物だ。だがそうだな……この男ならばおそらくは、人々を欺いてまで貫こうとはしなかっただろうな。だから甘いのだ」
「……そうか」
あの狂的な意志の半分は本物の井沢のもので、もう半分は____特に暴走していた部分は楊貴妃の霊によるものだったということか。
それを聞いて、少しだけ安心した。
「五木さん」
「ええ、分かっているわ」
きっ、と井沢の、その中の悪霊を睨みつける魔女。
そうだ。
こいつを止めれば、井沢の中から消し去れば解決する。そしておそらく五木さんならばそれを成し遂げられるのだ。
「___現世惑わす異形の者よ、覚悟しなさい」
「ふん……」
また空気が限界まで凍り付き……。
今度は一瞬で爆発した。
「はっ!」
井沢の袖口からバラバラと何枚もの呪符が床に落ちた。
そしてそこから黒いもやもやとしたナニカが湧き出てくる。
その黒い霊たちは歪な形のまま次々に五木さんへと襲い掛かった。
対して五木さんの取った行動は至ってシンプルだった。
パチン、と指を鳴らしただけ。
それだけで、黒い霊たちは消滅した。
「ここは私の領域よ。あなたの思い通りになんて絶対にならないわ」
「……」
それでも楊貴妃は止まらず、次々と霊を生み出し続ける。
それを魔女が一瞬で消し飛ばす。
そして、井沢の下へ一気に詰め寄り、
「『消えなさい』!」
ズドン、とその右拳を鳩尾に思いっきり叩き込んだ。
魔術の力を込めた一撃を。
「ぐがッ、ギィッ____!!!」
絶叫し……、
どぼどぼと口から黒いドロドロとしたものを吐き出した。そして、力を失ってバタンと倒れたのだった。
「い、五木さん? これは?」
「霊の苗床ね。これが謂わば楊貴妃の霊片の実体よ」
こんなものが体の中に……。
僕は気味が悪いと思いつつ、それに少し近づいた。
次の瞬間。
「なっ!?」
黒いドロドロが唐突に生き物のように飛び上がったのだ。
それは真っすぐに僕の顔面へと直撃し___
「ッ!」
なかった。
霊の苗床は、僕に直撃する直前に消滅したのだった。
「あ、ありがとう。五木さん……」
「いえ? 私は何もしていないわよ?」
「え?」
どういうこだ?
その疑問を口にする前にまた声が聴こえた。
『次は自分で気を付けてよ』
……。
だが異常まだ終わらない。
「お手を煩わせてしまい申し訳ございません、領域の魔女様」
「___ッ!?」
それは唐突に井沢の口から漏れていた。井沢はいつの間にか立ち上がり、直立した状態で硬直している。
だが素人の僕でもわかる。これは、井沢ではない。
「……あなた、朝香さんであっているかしら」
「ご名答です。居沢経営相談所の朝香と申します___もっとも、偽名ですが」
銅像のように動かなくなった井沢の口だけが奇妙に動いている。
朝香と名乗る何者かがどこからか操っているのか。
井沢を陥れたすべての元凶。
僕は一つだけ訊いた。
「お……お前も魔女なのか」
「ご想像にお任せいたします。___ただ、そうですね。……領域の魔女。あなたとはこれからも長いお付き合いになると思います。ここで少しばかり自己紹介させていただきましょうか」
あくまで事務的に、朝香と名乗る何者かは言う。
五木さんは黙って聞いていた。
「私は『黒魔女教団』に所属しております、エントリと申します。以後、お見知りおきを」
黒魔女教団の、エントリ。
朝香と名乗っていた何者か。
「黒魔女教団のエントリさん? それで、
「ええ、ご心配なく。楊貴妃の分霊に関しては、あなたにバレてしまった以上もう手を引く他ありませんので。事後処理は責任をもって取らせて頂きます」
「責任ね……」
「それでは、失礼いたしますね」
そう言い残し、井沢の身体が崩れ落ちた。
その次の瞬間、熱を感じた。
「なぁっ!?」
突如、僕の身体すれすれを火柱が上がった。赤い酸素の足りていない炎の柱が。
僕は慌てて横に跳んで避けたが、すぐにまた別の火柱が轟々と上がる。
「五木さん! これは!」
「エントリとかいう魔女の仕業でしょうね。……面倒なことを」
やはり魔女か___! その間にも火柱が次々と上がっている。このままでは倒れている井沢が巻き込まれてしまう。
もしかして、「責任を取る」というのはこのことを言っているのか? つまりは井沢を処分すると? そんな馬鹿な。
だが「魔術を一般人に知られてはならない」という魔女の禁忌があるのだ。理にかなっているとは言えるが……。
「下僕。吠えるのは私に対してだけにしなさい。___ここは、私の領域よ」
パチン、と指を鳴らす音が聞こえた。
同時に、火柱は全て消滅した。
まるで何も無かったかのように一瞬で消えたのだった。
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