第19話 彼

 私は彼の名前を叫びながらお庭へ飛び込んだ。ベンチで本を読んでいた彼が顔を上げる。

「ピート! 私、あなたを探していたのよ!」

「僕を? 何で?」

 彼は視線を本に戻した。今度は「18世紀の宮廷料理レシピ」という本。

 茸の次は宮廷料理? つまんなそうな本ばっかり読んでる。

「あのね、聞きたい事があるのよ」

 私は彼の隣に座る。

「あなたが死体安置所で倒れていた私を助けてくれたんでしょう?」

「……あぁ。そんな事もあったね」

 彼は頷き「よく覚えてないけど」と付け加えた。

「物覚えが悪いのね、ピート。あのね、その時に誰かを見なかった?」

「そんな昔の事よく覚えてないよ」

「たった数ヶ月前でしょ! 思い出してよ!」

 ピートは首を傾け、うーんと唸る。

「誰かとすれ違わなかった? 全身血だらけで前歯のない、モジャモジャ頭の男の人とか!」

「そんな愉快な格好の人は見てないと思うな」

「ちゃんと思い出して! 大事な事なの!」

 ピートはため息を吐いてこっちを向いた。

「そんな愉快な格好の男、見てたら忘れないだろ。そいつがどうしたんだ?」

「どうしたじゃないわよ! そいつがあのブ――」

 私は口ごもる。

 あの男がブギーマンだと言ったら、ピートはなんと言うだろう? 

 ……考えるまでもない。絶対に馬鹿にされる。

「な、なんでもない」

「何か隠してるな」

 スッと彼は目を細めた。

「な、な、ななな、何も!」

 パシンとピートは私の額を人差し指で叩いた。

「嘘を吐くならもっと上手に吐け。その血まみれの誰かさんがどうした?」

「……笑わないって約束するなら喋ってあげてもいいわ!」

「そんなコメディアンみたいな顔して、今更笑うななんて言うなよ。図々しい」

 彼は無表情のまま、口だけをカパッと開いて腹話術人形みたいに「アハハハハ」と笑い声を上げた。

 なんて嫌な奴だ。いや、嫌な奴だってのはわかってたけど再確認だ。このキング・オブ・根性悪め。

「もういい。あなたに聞いた私が馬鹿だったわ」

「お、自覚症状が出て来たね。いいよ、いいよ。その調子だ」

 私はもうこれ以上言い争うのが嫌になって、彼を無視して図書室から借りて来た本を開いた。

 彼も自分が広げていた本に視線を落として読み始める。

 ペラリ、ペラリと私達がページを捲る音がお庭に響く。

 ペラリ、ペラリ、ペラリ、ペラリ……。

 ……。

「……あのね、あの日地下室で変な人を見たのよ」

「なんだ。喋りたいんじゃないか」

 私は読んでいた本を閉じ、キッとピートを睨む。

「いいから聞きなさいよ!」

 バシバシとベンチの背を叩くと、ピートは私の方に顔を向ける。

 うむ。素直でよろしい。

「あいつが〈ブギーマン〉なのよ! 絶対にそうだわ!」

「……君、あんなのはくだらないって言っていたじゃないか」

 ピートは肩を竦めた。

「そうだけど、でも……!」

「マーガレット!」

 聞き覚えのある声が私の名前を呼んだ。

 私とピートはその声がした方――お庭に面している病院の窓に顔を向ける。

 開いた窓から白い鍔広帽を冠った魔女が顔を出していた。私と目が合うと親しげな笑みを浮かべ、こちらに手を振ってくる。

 ……うざっ! うざい! うざいわ! なんなのあの女!

「知り合いかい?」

 ピートが私に聞いたけど、私は答えなかった。

 魔女は扉を開けてお庭に入ってくる。

「こんな所にいたのね、マージ。探したわよ」

 魔女は駆け足でベンチに向かって来た。

 私はピートの腕に両腕でコアラみたいに抱きついて、視線を足下に落とす。

「おい、なんだよ? くっつくな」

「この子のお知り合い? 病院の方?」

「いや、この子とはたまたま――」

「お友達よ! 今大事な話をしてるの! あなたがいると話が出来ないわ!」

 私はピートの言葉を遮って地面を睨んだまま怒鳴った。

「そうなの。ごめんなさいね。でもすぐに終わるから」

 魔女は地面にしゃがみ、私と視線をあわせようとした。

「あのね、今日はプレゼントがあるのよ、マージ」

 魔女は手提げバッグの中から白い箱を取り出し、私の顔の前に両手で持ってくる。

「これなーんだ?」

 私は聞こえなかった振りをして、口をギュッとつぐむ。

 でもピートが「聞かれているんだから答えな」と私の腕を抓って来たので、私は仕方なくぶっきらぼうに答えた。

「紙箱」

「中身はなんだと思う?」

「……そんなの知らない」

 魔女は「ジャーン!」と声を出し紙箱を開いた。甘いフルーツとクリームの香りが漂う。

 紙箱の中には桃とメロンが沢山乗せられたクリームケーキが入っていた。11本の蝋燭が立っていて、丸いケーキの中央には「ハッピーバースデー・マーガレット」とチョコレートで書かれたクッキーが乗っている。

「この間、ちゃんとケーキ食べられなかったでしょう? もう何ヶ月も遅れちゃったけど、あなたに食べて欲しくて……。あの時はいい別れ方も出来なかったし」 

 私は顔を左右に振り、ギュッと唇を噛む。

「体に悪い物は入ってないのよ? 看護婦さんにレシピを見てもらったもの」

「……いい、いらない」

 魔女は私とケーキを交互に見てから「わかったわ」と言って紙箱を閉じた。

「後で気が変わったら病室の友達と一緒に食べて頂戴。でも生ものだから出来るだけ早くね」

「だから、いらないって言ってるじゃない」

 私は地面を睨んだまま言った。

「マーガレット。でも、折角作ったんだし――」

「私はいらないって言ってるの!」

 魔女は困ったように眉を下げ、悲しげに瞳を伏せた。

「あなたと仲良くなりたいの。嫌われてるのはわかっているけど、私達、家族じゃない」

 魔女はそう言って私に手を伸ばした。私はその手が私の肩に触れる前に叩き落とす。

「家族になってって頼んでないわ! 私の家族はパパと本当のママ、病室の子達だけよ!」

 私は立ち上がり病院の扉に向かって駆け出した。魔女とすれ違う時、肘がケーキの入った紙箱に当たった。

「――あっ!」

 魔女の短い叫び声に顔を向けると、紙箱が彼女の手から離れ地面に落ちてゆく瞬間が見えた。ベチャリという音を立ててケーキは潰れた。

「あぁ、どうしましょう……」

 魔女はその場に屈み、崩れたケーキの残骸を指で拾い紙箱の中に投げ入れる。ピートも本をベンチに置いて立ち上がり、ケーキの片付けを手伝い始めた。

「戻って来て手伝え。君が落としたんだぞ」

 彼はやっぱり無表情だったけれど、声には若干の怒りが含まれていた。

「手伝うんだ、お嬢さん。自分がした事の責任をとれ」

 私は――。

「だからいらないって言ったじゃない!」


 私は非常扉を開けて中に飛び込み、振り返らずにエレベーターに向かって駆け出した。気分がもの凄く悪かった。吐きそう。

 人気のない廊下を走り抜けエレベーターに乗り込むと、私は思い切り床を蹴り飛ばした。

 崩れた生クリームで指を汚しながらケーキの残骸を拾い上げる魔女の横顔が頭に浮かぶ。眉毛がグニャグニャに曲がって、目が潤んでいた。

 ……それがなんだって言うのよ! 私には関係ない! 全然関係ないんだから!

 胸の辺りがモヤモヤする。握りしめた拳が冷たい。視界が歪んだ。頬にポタッと涙が垂れる。私はパジャマの袖でゴシゴシと目を擦った。擦っても 擦っても涙が止まらない。胸が苦しい。なんで私が泣かなきゃいけないの。なんで涙なんか出てくるのよ。最低。わけわかんない。私はこれ以上涙が溢れないよ うに上を向き、ズズーッと鼻を啜る。

 チーンという軽い音がしてエレベーターが停止する。まだ3階だ。どうやら誰かが乗ってくるようだ。私は泣き顔を見られないように、もう一度乱暴にゴシゴシと涙を拭った。

 エレベーターの扉が開き、掃除夫さんが乗り込んで来た。お爺さんだ。

 掃除夫さんは私の顔をみると驚いた顔をした。多分、女の子が泣いてたから驚いたんだろう。掃除夫さんはボタンを押してからエレベーターの角に背中を預けた。チラチラと私の顔に視線を送ってくる。

「……なんでもないの。目にゴミ入っちゃって」

 私は掃除夫さんに向かって愛想笑いをした。掃除夫さんはまだ私を見ている。

「あぁ! そうだ、お前さんだね」

 掃除夫さんは「そうだそうだ、お前さんだよ」と一人頷いた。そしてモップを軽く持ち上げて、柄の部分で私の頭をコツンと叩いた。

「ちょ……! 何すんのよ!」

「自業自得だよ、全く! 覚えてないのか? 死体安置所で会っただろう」

 掃除夫さんはそう言って帽子を脱いだ。

 黒いモジャモジャの髪の毛が帽子の下から現れる。

 ……どっかで見たような……。

「まだ思い出さんか? これならどうだ、ほれ」

 掃除夫さんは口の中に指を突っ込み、上の前歯を外した。部分入れ歯だ。笑うとハロウィンのジャックランタンみたいに――。

 私は後ろ向きに飛び、エレベーターの壁に背中を付ける。私は震えながらその掃除夫さんを指差して叫んだ。

「出やがったな! このブギィィィマァァァン!」

「誰がブギーマンだ、この悪戯娘め」

 ポカっとまた頭を叩かれる。

「一言くらいお礼でもお詫びでも言ったらどうだい? あんな所で気絶しおって。しかも人の顔みて気絶するとは、どういう了見だい」

「だ、だ、だって!」

「大変だったんだぞ、お前さんを背負って地下からナースステーションまでいくのは!」

「嘘よ!」

「嘘?」

 掃除夫さんはムスッと頬を膨らませた。

「私を運んでくれたのはピートだわ! あなたじゃない! それに、なんでそんな格好してるのよ! まるで、まるで、掃除夫さんみたいじゃない! ブギーマンのくせに!」

 彼はもの凄く面倒臭そうに胸元のネームプレートを外し、私の顔の前に突きつけた。ピートのネームプレートと同じだ。金色なのも同じ、文字の大きさや書体も同じ、ついでに彫ってある名前も同じだった。

 ピーター・エリオット。

 ネームプレートには確かにそう書いてあった。

「……なんで?」

 私は愕然として呟いた。

「掃除夫が掃除夫の格好をしていて何が悪いんだね!」

「あ、あんたが掃除夫さんのわけないわ! だって、あんた血だらけで! 真っ赤っかで! 私を連れていくって言ったじゃない! この前は制服なんか着てなかった!」

 自称ピーター・エリオットはポカポカとモグラ叩きゲームでもするみたいに私の頭を叩く。

「制服はな、盗まれたんだよ。誰が盗んだか知ってるぞ、どうせお前ら悪戯娘どもが盗んでいったんだろう! 夜中に病室抜け出して悪さしてるのは知っているんだからな!」

「盗んでないわ!」

「信用出来るか! おかげでこっちは私服で作業して、頭からオイルを被るはめになったんだぞ」

 自称ピートはぴしゃりと言い放って私の反論を封じた。

「オイル? オイルじゃないわ! あれは血よ! あんた血だらけだったじゃない!」

「血ぃ? 何馬鹿な事を言っているんだ。あれはな地下の空調パイプに溜まってた汚水だよ。古いパイプが多いから中で錆びてたんだ。死体安置所中が酷い臭いだっただろう? 夜勤の看護婦に『なんとかしてくれ』って呼び出されたんだ」

「だって、だって……。そうだ! じゃぁなんで私を連れてく何て言ったのよ! あんたがブギーマンだからでしょ! 近寄らないで! 大声出すからね!」

「この阿呆娘! ぬけ作! ボケ! 馬鹿たれのこんこんちきが!」

 今度は今までより強くモップで叩かれた。リズミカルにポカポカと。……痛い。

「あんな時間にあんな所にいるような悪戯娘はな、あれぐらい脅かしてやった方がいいんだよ! この馬鹿娘! おじさんはな、病気だからって甘くみたりしないからな!」

「痛い! 痛いってば!」

「謝れ! ちゃんと謝れ! ごめんなさいを言えない子はまともな大人になれないぞ!」

「わかったわよ! 謝るから! ごめん、ごめんなさい! 私が悪かったです!」

 自称ピートは「最初からそう言えばいいんだ。もう2度とあんな所に行くんじゃないぞ」と頷き、モップを降ろした。

 私は叩かれた頭を撫でながら、この自称ピートの声が西棟を探検した時に掃除夫さん用休憩室の前で聞いた怒鳴り声――何かを盗まれたと騒いでいた男の人の声――と同じだという事に気が付いた。

 この人は本当に掃除夫さんで、本当に『ピーター・エリオット』なんだ!

 エレベーターが止まり、扉が開いた。彼はついでにって感じで私の頭をもう一度モップで叩いてから「今度ああいう悪戯したら、本当にブギーマンに連れ去られちまうからな」と言ってエレベーターから降りた。扉が閉まっていく。

 私は慌てて開ボタンを押して扉を開け、廊下の奥に向かって歩き出した彼に声をかける。

「ピーター・エリオットって、もう1人いるの? 若くて、顔を髪の毛で半分隠してる人!」

 彼は振り返り、面倒臭そうに答えた。

「掃除夫のピーター・エリオットは俺だけだよ。それにここの掃除夫に若い奴なんかいやしねぇよ」


 私は再びエレベーターで一階まで降りると、お庭に向かって走った。

 途中すれ違った看護婦さんに「廊下を走らないで!」と怒られたけど、それどころじゃない。

 私は大きく腕を振り、足を持ち上げて床を蹴った。

 さぁ、マーガレット選手最後の直線に入りました。速い速い、マーガレット速い! これは新記録が期待出来ます! 病人だらけの陸上大会・イン・ホリィヒル! 参加者総勢1名のこの記念すべき第1回大会の勝者はマーガレット選手に決まりそうです!  さぁ、今万感の思いを胸に、マーガレット選手がゴールテープもとい庭へ続く扉を……開けました! 素晴らしい走り! 完走、完走です! 

 息を切らしてやっと辿り着いたお庭には誰の姿もなかった。ピートもいなければ魔女の姿もない。私はお庭を這い回って彼の痕跡を探したけれど、見つけられたのは拾い損ねたらしい誕生日ケーキの蝋燭1本だけだった。

 震えが足の裏から這い上がって来た。

 私は今まで一体誰と一緒にいたのだろう。一体誰と話をしていたのだろう。私はあいつの事を全く、何にも、知らない。

 森が揺れ、無数の鳥の群れが矢印の形になって空に飛び立った。キェーキェーという甲高い鳴き声と鳥達の羽ばたく音が空を覆う。

 私は飛び上がり、お庭から逃げ出した。喉が乾き、顳かみがズキズキと疼く。酷い頭痛の前触れになる疼きだ。今からでも鎮静剤を飲んでおかないと。靴の下の床がスポンジになったように柔らかく感じられる。歪んだガラスを通して見たように、風景が波打った。脳味噌が疑問で覆われる。

 あいつは一体誰だったの? 

 私はふらふらと左右に揺れながら廊下を歩き、再びエレベーターの前にやって来た。

 エレベーターの扉の前には図書室の看護婦さんが立っていて、エレベーターの到着を待っていた。手に大きな紙と接着剤を持っている。

「どうしたの? 顔色が悪いわよ?」

 首の周りに巻き付いていた空気の縄がゆるみ、私は大きく深呼吸した。体を強張らせていた恐怖心が消え、私の目からパラパラと涙が溢れる。安堵の涙だ。看護婦さんは「あら!」と驚いて声を上げ、その場で腰を屈めて私の顔を覗き込んだ。

「どこか痛い? 大丈夫?」

「へい、平気。あ、あの、お庭に、東棟のお庭に」

 私はしゃくり上げながら言葉を吐き出す。

「お庭? お庭がどうしたの?」

 私はお庭で出会ったあの自称ピートについて看護婦さんに喋ろうとした。けれど唇と舌は看護婦さんが手にしていた紙を見た瞬間に動かなくなる。

 私が紙だと思っていた物は、かなり古いモノクロの写真だった。画用紙くらいのサイズに引き延ばされている。その四角い空間の中で白衣を着たお医者様と、頭に電極の付いたヘルメットを被った若い男の人が向かい合って座っている。診察室で撮られた写真のようだ。2人の背後 には薬品棚と人体模型の人形が並んでいる。

「マージ? どうしたの、急に黙り込んで。大丈夫?」

 看護婦さんが私の肩を揺する。

「……その写真、その写真の男の人!」

 私は若い男の人を指差した。

「私、私、さっきまで、この人と一緒にいたの! お庭にいたの!」

「この人と?」

 看護婦さんは写真を一瞥すると、バナナみたいに口を曲げて笑う。

「そんなわけないわ。これはもう何百年も前の、大昔の写真よ。かの有名な呪いの写真。ほら、3階のエレベーターホールの」

 自慢するように看護婦さんは言った。

「今日から飾るの。いつまでもあの額だけ空にしておくのもおかしいしね」

「何百年も前っておかしいわ! だって、さっきまでこの人と……一緒にいたんだもの!」

 看護婦さんは安心したように笑いながら「大人をからかうんじゃありません。もう、本当に発作でも起きたんじゃないかって吃驚したじゃない」と私の頭を撫で、丁度到着したエレベーターに乗り込んで行った。

「乗らないの?」

 私は首を横に振る。看護婦さんは苦笑してから「あのお庭は不気味だからね、きっと幻でもみたのよ。早く病室に戻るのよ」と言ってエレベーターの扉を閉めた。

 私は呆然としたまま、ただ立ち尽くしていた。脳味噌が動かない。頭をガツンと殴りつけられた。頭痛の前兆は既に消えていて、ただ喉が乾いていた。

 右側の前髪を伸ばして顔の半分を隠している変な髪型。頬の痩けた不健康な顔。老けているのか若いのかわからない顔。眠たそうな目に小さな口。

 今と全く変わらない姿で彼は何百年も前に撮られた写真の中にいた。


 ――不老不死。病院に潜んでいる怪人。ブギーマン――

 私は目眩を感じ、その場に座り込んだ。  


 その日『医師と当時の患者』の写真は50年振りに3階エレベーターホールに飾られたが、翌日の朝には額は空っぽになっていた。呪いの写真がまたしても消え去ったというニュースは病院内の噂好きの患者達の間にあっという間に広がり、ブギーマンの目撃談に代わる新しい話題の中心になった。

 壁に残った金色のプレートにはこんな文章が彫られていた。


 当病院が初めて担当した妄想症の患者ルーカス・クリストフ氏と担当医のアーサー・ホリィヒル医師。

 クリストフ氏は自分が不老不死だという妄想にとり憑かれていたが、投薬治療と当時最新の医療技術だった電気刺激治療によって症状は回復し、無事退院した。我が国最初の妄想症治療の成功例である

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