第5話 アダムとブギーマン

 アダムは喜びに震えていた。青白いばかりだった頬は興奮に染まり、唇は笑みの形につり上がる。アダムは両腕に力を込め、彼を抱きしめる。決してこの希望を手放さないようにと、病弱な少年にできる限りの力を込めて。

「会いたかった! 本当にあなたに会いたかったんだよ! 僕のブギーマン!」

 アダムは腕の中にいる男を見上げた。ブギーマンと呼ばれた男は小さく頷いた。

「あなたの本当の名前、僕、見つけたんだよ! あなたが忘れちゃった本当の名前! 名前を見つけた人の願いを、何でも叶えてくれるんでしょう? どんな事でも!」

 ブギーマンはもう一度小さく頷く。アダムは興奮を抑えきれないという風に顔を輝かせる。

「あぁ、やっぱり! ブギーマンの伝説は本当だったんだね! 僕は知っていてたよ! あなたが実在するって最初からわかっていたんだ! あなたを信じないなんて、あいつら大馬鹿さ! あいつら全員が僕を馬鹿にしたんだ! あの馬鹿共! 『そんなのお伽噺だ!』『嘘っぱちだ!』って。サラなんて僕に『現実と向き合わなくちゃダメよ』なんてわかった顔でいうんだ! あの子はなんにもわかっちゃいなかったのさ!」

「何が望みだい? アダム・ニコルソン」

 ブギーマンはアダムの頭を撫でながら尋ねた。

 アダムは大きく目を見開き「僕の名前を知ってるんだね!」と叫んだ。

「すごいや! 何でも知ってるんだね! 何でもお見通しなんだ! ……すごい!」

 アダムは頬を男の腹の辺りに擦り付けた。たまらなく愛しいものに頬擦りするように。

「君の望みはなんだい?」

 ブギーマンはもう一度静かに言った。

 アダムは目尻に浮かんだ涙を指で拭いながら口を開く。

「僕の望みは――」

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