攻略本もマニュアルもない

家出もせず、バージンのままの栞里ちゃんと、どこかで出会ったとしたら、、、


ぼくは彼女の事を『すっごい可愛い子だなぁ』と思って振り向くだろうけど、きっと彼女はぼくの存在さえ気づかず、ただすれ違うだけだったに違いない。

そしてぼくも、栞里ちゃんの事はすぐに忘れて、今までと同じヲタ生活に戻っていく事だろう。


人は過去があるから、現在いまがある。


どんな過去を栞里ちゃんが背負ってたとしても、その道程があるからこそ、今、こうして彼女が、ぼくの腕のなかにいるんだ!

何百万分の一かの選択肢の末に、こうして栞里ちゃんと出会えたんだ。

それは、ギャルゲーよりも選択肢が多いのに、攻略本もマニュアルもないゲーム。

なのにこうして、恋ができた!

だからぼくは、栞里ちゃんの過去を否定したりできないし、むしろ感謝しなきゃいけないんだ!



 ふたりはベッドの上で、いつまでも抱き合ってた。

もちろんぼくは、栞里ちゃんをこうやって抱きしめてても、エッチな事するわけじゃなかった。

そりゃあ、こんなに可愛くて、華奢きゃしゃで、それでいて、ふくよかな触り心地で、しかもすっごくいい匂いを漂わせてて、その香りが本能中枢をグジャグジャにかき回してるのに、ムラムラこないわけがない。

だけど、『彼女を守る』とか宣言しちゃって、彼女からも『エッチしようとしなかったのが嬉しい』なんて言われてしまい、なんだかタイミングを逃したみたいだ。

栞里ちゃんの言う様に、やっぱり男って、エッチの事しか考えてないのかもしれない。

ぼくだって、例外じゃない、、、orz

やっぱりぼくって、間抜けでヘタレ。

まあ、こうして栞里ちゃんとつきあえたんだから、それでもいいか、、、



「お兄ちゃん。ずっと、ここにいさせてくれる?」


しばらくして顔を上げ、栞里ちゃんは涙で赤く腫らした目で見つめながら、含む様な笑みを浮かべ、ぼくに訊いた。


「あたし、お兄ちゃんのお嫁さんになる。だから一生、ここにいていい?」

「え、、、 え~~~~っ???」

「ダメ?」

「そっ、そんな事ないけど、、、」


いきなりなんて事言うんだ!

そりゃ、栞里ちゃんの事は大好きで心から愛してるし、ぼくの最初で最後の恋人になりそうな予感はあるけど、そんな究極の未来なんて、、、

焦りながらも、どうしたらいいのか必死で考えて、答える。


「とっ、とにかくあと2年。2年待って。

そしたら栞里ちゃんも16歳で、結婚できる歳になるし、ぼくも今は就職決まったばっかりで貯金ないけど、一所懸命働いてお金貯めとくし。そしたら栞里ちゃんを、ちゃんと高校にも大学にも行かせてあげられると思うし、結婚式だってちゃんとできるし、、、」


額から汗を流しながら、脳みそをフル回転させ、ふたりの将来をシュミレーションしていく。

栞里ちゃんが16歳になるのを待って結婚。

年齢からして、ふつーに高校にも行ってるはずだ。

となると、栞里ちゃんはぼくの奥さんとして、家事とかしながら、毎日高校へ通うって事か、、、


じっ、女子高生JKで人妻?


だとしたら、もう未成年者って事で怯える必要はない。

制服デートもできるし、万一通報されたとしても、『妻なんで』って堂々と言えるし。

茶目っ気のある栞里ちゃんなら、ぼくが仕事から帰ってきた時、ブルマーにエプロン姿で出迎えてくれたりとかするかも。

もしかして夜の方でも、、、

リアルでいつも着てるJK制服とか、スクール水着で、エッチしたりできるわけで、、、


なっ、なんか、萌える!

鼻血がっ!!


そんな萌え妄想と人生設計が、頭の中でグルグル渦巻いてオーバーロード状態になってたぼくを見て、栞里ちゃんはクスクス笑った。


「うそうそ。お兄ちゃん、からかうとおもしろいから」

「えっ? 冗談だったの? 今の」

「試しただけ。お兄ちゃんがあたしの事、ほんとにちゃんと考えてくれてるかどうか」

「しっ、栞里ちゃん~~~~」

「だけど、今、お兄ちゃん、すごくエッチなこと、考えてたでしょ」

「え、、 えっ。そっ、そんな事ないよっ」

「だって、顔に出てるもん」

「えっ。嘘、、、 ごっ、ごめん;;」

「ま。いいんだけど。きゃはは」

「…」


…いっぺんに、話が飛躍しすぎると思った。

そんなにうまくはいかないよな~、、、orz


脱力したぼくの横でしばらく笑ってた栞里ちゃんだったけど、急にキリリとした顔つきになって、ぼくの目をまっすぐ見つめて言った。


「お兄ちゃん。あたし… うちに帰るね」

「かっ、帰るの?」

「もう、逃げない」

「逃げない、、、」

「うん。逃げたって、前に進めないと思うから」

「だっ、大丈夫?」

「お兄ちゃんがついててくれれば、大丈夫」

「えっ?」

「お兄ちゃんはずっと、あたしの味方でいてくれるよね?」

「う、うん。もちろんだよ」

「お兄ちゃんから見ればあたしなんてまだまだ子供なのに、あたしの事バカにしたり、年下扱いしたりしなかった」

「…」

「そりゃお兄ちゃんって口下手だけど、あたしの話を真剣に、一生懸命聞いてくれて、あたしと同じ目線で話そうとしてくれた。だからお兄ちゃんのこと、心から、あたしの味方なんだって思えたの」

「そ、そう?」

「うん。お兄ちゃん見てて、あたしやっぱり、ガッコの先生になりたいなって思ったの」

「ぼくを見て?」

「お兄ちゃんみたいに、生徒に真剣に接してやれて、いっしょに悩みを考えてやれる先生になりたい。そのためにはあたしもちゃんと勉強しないといけないし、いつまでもふてくされてしゃに構えてたって、ダメでしょ」

「…そうだね。それがいいと思うよ。ぼくもその方が安心できるし」

「これからも、時々遊びにくるね」

「う、うん。待ってるから」

「デートもしようね」

「うん」

「あたしの写真もいっぱい撮ってね」

「うん。撮らせて」

「原宿で買ってくれたロリータの服でも、撮ってほしいな」

「そうだね、、、、、、 あっ!」

「え? どうしたの?」

「なっ、なんでもない。なんでもないから、、、」


そう言ってつくろったけど、なんでもないわけなんかない。

すっかり忘れてた!

例のロリ服は、ネットオークションに出したまんまだった!!


栞里ちゃんの肩越しに、ぼくはそっと時計を見た。

もう、夜の10時半すぎ!

ほとんどの出品に入札が入ってたし、終了時刻は10時に設定してたから、もうだれかが落札したあとだ。

終了前ならヨシキにでも落札してもらって、見かけの取引だけ成立させとくって手もあったけど、もう無理。アウト、、、orz


つづく

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