9th stage

美少女の涙は汚くなんかない

     9th stage


「デブサとか、キモいとか… 全然そんな事ない」


どのくらいそうしてただろう。

ぼくの胸のなかで気のすむまで泣いた栞里ちゃんは、恥ずかしそうに顔を上げ、ちょっぴり頬を紅潮させながら言った。


「真剣な顔でイラスト描いてるとことか… 割とカッコよかった」

「え?」

「そりゃお兄ちゃん、見た目パッとしないし、イケメンってわけじゃないけど、なんてのかな… 一生懸命なにかをやってるとこが、いいなって…」

「イラストって、、、 こないだ夜中に描いてた時の?」

「うん」

「栞里ちゃん、寝てたんじゃ…」

「途中で目が覚めて、ベッドからずっと見てたんだけど、お兄ちゃんイラスト描くのに熱中してて、全然あたしの事気づかなかった。

すごいよね、あれだけ集中できるのって… まあ、描いてる絵はエッチぃけど」

「は、ははは」

「はは…」


ぼくたちはお互い顔を見合わせて笑いあった。

こうして栞里ちゃんと笑いあえる日が来るなんて、、、

なんて幸せなんだ。


 笑いながら栞里ちゃんを見て、今頃になって、彼女が下着しかつけてない事に気づく。

なんか、、、

急にドギマギとしてきた。


さっきまではそんな事考える余裕さえなかったけど、こうしてちょっと落ち着いてくると、栞里ちゃんの幼いからだから発散されてる色っぽい部分が、いやでも目に飛び込んでくる。

ふくらみかけた胸が、ドット柄のジュニア用ブラに包まれてる。

ブラからのぞく胸の谷間はつやつやしてて、蕾の様に固くて弾力がありそうで、つい触れてみたい衝動にかられる。

縦にすっと割れたおへそは、底が見えるくらい浅くて小さく可愛くて、あばら骨や腹筋の様子がうっすらと見てとれるくらい、おなかはスラリと細くて華奢きゃしゃだ。

尖った腰骨が夜の灯りに照らされて、やけに生々しい。

ブラとお揃いのパンツの、ビキニラインにできた隙間が、たまらない。

恥ずかしい丘が、パンツの生地を押し上げて、ふっくらと盛り上がってる。

こっ、こんな可愛い子と、ずっとくっついてたんだ、自分!


ヤバいっ!


なんか、ムクムクしてきたっ。

ぼくは栞里ちゃんを守るんじゃなかったのか!?

こんな煩悩まみれじゃ、ダメじゃん自分!


「こっ、これ着なよ」


慌ててクロゼットの中からTシャツを取り出し、栞里ちゃんのからだを見ない様にしながら、それを手渡す。

突然のぼくの行動に、栞里ちゃんはちょっとびっくりしたみたいだったけど、その意味とぼくのからだの形態変化を察したのか、顔を真っ赤にしてTシャツを受け取り、それをスポンと頭からかぶった。


「お兄ちゃんって、あたしとエッチ、したくないの?」

「ヘっ?」

「どうなの?」

「そっ、そりゃ、、、 したくないってわけじゃないけど…」

「え~~~? その程度ぉ~? あたしってやっぱ、魅力ないんだ」

「そっ、そんな事ないよ。栞里ちゃん可愛いよ。もちろんエ、エッチだって、しっ、したいし」

「だったら、せっかくのチャンスだったのに、どうしてしないの?」

「どうしてって、言われても、、、」

「お兄ちゃんって、なんか… バカだよね」

「バカ?」

「モデルした時もそうだったし、なにガマンしてんの?」

「そ、そりゃ、栞里ちゃんはまだ14歳だし…」

「からだはもうおとなよ。エッチだって、もうしたし。それとも未成年に手ぇ出して、捕まるのが怖いの?」

「そっ、そんな事ないよ。ただ、ぼくは栞里ちゃんの事、大事にしてあげたいから… それに栞里ちゃん、エッチするの『大っキライ!』って言ってたし」

「…そうだね。なんか、嬉しい」


口のはしに微かに笑みを浮かべ、瞳を伏せると、栞里ちゃんは部屋の中に入ってベッドに座り、ちょっと物憂げな瞳でぼくを見上げる。


「男ってみんな、、、 からだだけが目当てだって、思ってたから」

「え?」

「あたしなんてガリガリで胸もないし、女らしいからだでもないのに、それでも今まで泊めてくれた男って、ヤリたいだけのケダモノだった」

「…」

「朝から晩までエッチばっかり。あたしまだ全然慣れてなくて、痛いだけで、辛くて声上げてたのに、それを喘ぎ声って勘違いして、喜んじゃって、、、 バッカじゃない?」

「…」

「男って、自分勝手で… エッチの事しか考えてない」

「そっ、そんな事ないよ!」


慌てて言い訳したぼくを、栞里ちゃんは優しく見返す。


「うん。お兄ちゃんは、そうじゃなかった。ずっと優しかった。

あたしの事ちゃんと考えてくれて、エッチしようとはしなかった。それがすっごく嬉しかったの」

「え?」

「この人、『他の男とは違うな』って、思ったの」

「…」

「あたし、バカだった。お兄ちゃんと原宿で別れて、なんだかムシャクシャしてて、他の男に拾われて、ホテル行って、それが自分の事しか考えてない自己中男で、、、 その時やっとはじめて、お兄ちゃんのいい所に気がついた」

「…」


ぼくを見つめる栞里ちゃんの瞳から、涙が一粒、こぼれ落ちた。

思いを巡らす様に黙ってた彼女は、唇を震わせながら、ようやくひと言、つぶやいた。


「…戻りたい」

「え?」

「家出する前に戻って、もう一度、やり直したい」

「…」

「あたし… バカだった」

「…」

「ビッチになんか、なるんじゃなかった」

「…」

「汚れたくなかった」

「…」

「綺麗なからだで、お兄ちゃんと出会いたかった」

「…」

「お兄ちゃんに、あたしのバージン、あげたかった」

「…」

「……」


栞里ちゃんの瞳からは、どんどん涙が溢れてきて、それ以上言葉をつなげられない。

ぼくも感激で喉が詰まって、なにも言えない。


『バージンあげたい』なんて、、、

なんて嬉しい言葉なんだろう。

そりゃ、栞里ちゃんはもうバージンじゃない。

だけど、そんなのはもう、どうでもいい。

その気持ちだけで、じゅうぶんすぎる。


ぼくは思わず、栞里ちゃんを抱きしめた。

抱きしめながら何回も言った。


「汚れてなんかない! 汚れてなんかない! 栞里ちゃんは汚れてなんかないよ! すっごい綺麗だよ! 今の栞里ちゃんが、ぼくは好きなんだよ!! ちっとも汚なくなんかないよ!!!」


家出もせず、バージンのままの栞里ちゃんと、どこかで出会ったとしたら、、、


つづく

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