モン・サン・ミッシェル 2

 食事時から外れていたせいか、店は客の姿がまばらで、空いていた。

 気の利く店主の計らいで、犬連れにも関わらず、コンフェッティたちは三階の客席で食事にありつくことができた。窓際に面したその席からは、下を通る繁華街と、城壁の一部が見えた。

 クレープを食べさせる店らしい。

 店主によれば、ここモン・サン・ミッシェルは、ブルターニュとノルマンディーの境目に位置するそうだ。ブルターニュの郷土料理であるクレープと、リンゴの発泡酒シードルを楽しんでくれと、ウインクとともにメニューが手渡された。


「クレープといっても、甘いのだけじゃないんだな」ふとコンフェッティは前方からの殺気に顔を挙げた。「……まだ怒ってるのか?」

「ええ、そりゃもう! あなた、今の状況わかってるんですか? さっき襲われたばかりですよ? こういう時だからこそ、仕事を手早く済ませようと思うものですよね? すぐ済むって試食をたんまりしたのはいったい誰です?」

「腹が減っては戦はできぬと昔の賢人は」

「……いい加減に、してください」

 ミニュイの硬質な声に、コンフェッティは思わず身をすくめる。


「あなたの勝手さには、僕はついていけません」

 怒りのあまりに打ち震えるミニュイに、コンフェッティは腕を組み、しばし沈黙したのち、ゆっくりと切り出した。

「お前、俺が食欲のためだけにここへ来たと思ってないか」

「違うんですか?」

 ミニュイの反応に満足げな薄笑いを浮かべて、コンフェッティはメニューを差し出す。

「考えてもみろ。アニスと一緒にいて、話せないこともある。それに、お前が人前でぺちゃくちゃしゃべってるわけにいかないだろ?」

 ミニュイは当惑しながら、頷く。


「つまり、俺がここに来たのは、仕事のため、情報を整理するためだ。より頭の回転をよくするには、糖分が必要だ。ならば、糖分を補給しながら情報整理ができるこの場所は、最適な仕事空間と言えるだろ?」

 もちろん、その場で思い付いた方便だ。

 だが、ミニュイを納得させ、あの従順な瞳で見上げさせるには十分な材料だった。自ら水を向けておきながら、コンフェッティはミニュイのこの素直さが少し心配になったほどだ。

「……そうだったんですね。ごめんなさい、僕はてっきり、あなたが胃袋に支配されて行動しているものだとばかり。でも、たしかにあなたの仰る通りですね、食欲だけだったら、あなたはきっとあのオムレツ屋に突進していたはず――」

 コンフェッティは、表情を崩さずに頷いてから、満足げにメニューを見渡した。


「定番は、バターとお砂糖だけの、シンプルなものだそうですよ」ミニュイが、メニューを覗き込みながら嬉々として申し添える。「バターは、ブルターニュ地方の名産だそうですし」

「期待できそうだな。俺はアンチョビとトマトのガレット、マッシュルームとハムとチーズのガレット、デザートにバターと砂糖、塩バター・キャラメルのをもらうとしよう」

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