第41話 少女と入城
「おい。だいじょうぶか」
勇者がそう声をかけたのも無理はなかった。
すべての記憶を見終わった少女の表情は、いまにも倒れてしまいそうなくらいに、青い。勇者は門の格子ごしに少女に手を差し伸べるが、少女はやんわりとそれを押しのけた。
夜の光を受けて、少女の緑の瞳がきらめく。
それは、まるで涙に濡れているようにも、意志の強さで輝いているようにも見えた。
「すべて、見たわ。約束よ。ここを開けて」
勇者はある種悲壮な表情をした。その険しい表情はどこか少女に縋ってもいるようだ。
「…俺には、自分から堕ちていこうとしているようにしか見えない」
「そうかもしれない」
そうしたいわけじゃないけど。
それでも、たしかに底なし沼に浸かりかけているような、背筋が薄ら寒くなるような感覚は少女にもあった。
きっと、魔王を本当の意味で助けるなんてことは、少女にはできない。
でも。
「こうなったら、とことんつき合う」
だって、少女はあの月夜の晩、テガミネコに誓ったのだ。
魔王のことを知り尽くしてやるって。
「どこまでも堕ちたら、こんどは上がっていけばいいわ」
勇者は少女の顔を見つめた。
「わかった。…門を開けよう」
勇者が魔法を使ったのか、大きな格子の門はぎぎぎ、と錆び付いた金属音をたてる。やがて、魔王城はその門を左右から外に開いた。
少女は一歩魔王城に足を踏み入れる。
「魔王は二階にいる」
王の間だろう。
わかった、と頷く。
少女は進む。
その背に向かって、勇者は言った。
「ありがとう」
少女はせいぜいかっこよく見えればいい、と振り向かずにひらひらと手を振ってみせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます