第8話 魔王と約束
「…どうして、殺したのよ」
再度、少女が問いかける。
「食べ物は必要ないって言っていたじゃない」
お腹がすいていたから、と言われたら、まだ許せるような気がした。
彼女達は中庭のいちばん日当りのいいところで、穴を掘っている最中だ。正確には、彼女が土を堀り、魔王は土の上でしゃがみこんでいる。その足はしっかり土についていた。
こうやって、土をいじるのも幼い頃以来ね。
少女の頬は、久しぶりの力仕事に土まみれになる。
緑色のワンピースも跳ねた土でシミができている。
体だってくたくただ。
陽が昇りかけているというのに、一睡もしていない。
それでも、動いている方がマシなような気がしたのだった。
「分からない。ただ、あのネコがなんで生きているのか、知りたくなったんだ」
これじゃあ、わたしとの約束もいつ一方的に放棄されるか分からないわね。土にシャベルを突き立てながら、少女はため息をつく。
「あなた、まるで神様みたいよ。なんでも、自分の思い通りになるワケじゃないんだからね」
「うん、そうだね」
汗が額をつたい、流れ落ちた。
ぽっかりと開いた空間に、布で包んだテガミネコの死骸を入れる。
それだけでは足りないような気がして、好きだった魚の缶詰と、小さく枯れかけた野花を添えた。
「ごめんね」
守ってあげられなくて。
意味もなく、命を散らせてしまって。
掘り返した土を上に乗せる。土の重さで苦しくないように、できるだけ優しく被せた。
このネコが土に還って、またどこかで、巡り会えますように。
少女は膝をついて、祈りを捧げる。神を持たない少女が祈る相手は誰でもない。強いていうなら世界に、だった。もっとも、この荒れた大地ではそれも不毛なことかもしれなかったが。
やがて、顔を上げた少女が宣言する。
「約束は、守ってもらうわよ」
西に昇る太陽がその赤い髪を、そのまるっこい顔を、緑色の瞳をやさしく照らしていた。
*
わたしやその周囲にいる生き物をどんな意味でも傷つけないこと。
わたしと一緒にいるのに飽きた場合、殺さずに城から追い出すこと。
…それから、いっしょに、畑をたがやして、いっしょに、ごはんを食べること。
そのみっつを、約束してちょうだい。
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