第19話「SNS -遠景に視える-」
いつも通る道の景色
天候によっての見え方
雲が立ち込めて、覆い、押し潰れされそうな感覚
気分
空が晴れ、大きな雲の群れが連なって向こう側へと道を作る
未来が広がってゆく感覚
気分
連休を旅行するのではなく、身近で
いつもの景色の中で
人の心を変えてゆくこと
物事の見え方を変えること
日常のありふれた楽しみの中から見つけることーー
(猶予の2日目)
天気の移り変わりと
予報していた天気が雨に変わったこと
服装と、色合いと、自分の表情の変化に
私は息詰まりを感じた
おみくじを引こうと思ったーー
私のミラジーノには、カーナビを取り付けていなかった
理由は信じていなかったからだ
機械に提案されるがままに自分の行く場所までも
迷いのない「ルート」で
“マニュアル化”されたくなかった
自分の記憶やそこまで辿り着くための選択の繰り返し
それを信じていたかった
とは言うものの、私は方向音痴で
場所や道のりを覚えるのが苦手だった
自分の記憶の不正確さや選択の間違いによって、迷子になること
その苦労を共にすることを覚悟しなければならなかった
馴染みの場所や想い出の地であるならば記憶は信用できるものではあった
神社を探してみたーー
道の駅に寄り、観光案内所でちょっとした地図を手に入れた
有名なのかは分からないが、地域のパワースポットの一つとして取り上げられた神社を見つけた
ご利益は「良縁祈願」「縁結び」「復縁」
この街には、かつて私が好きだった女性が住んでいた
多分、まだ住んでいる
馴染みのある場所だった
この土地で私たちは出会い、恋に落ちた
ただ、その女性とこの神社へ行くことはなかった
その時はこの場所の事など知らなかった
ご利益が「復縁」か…
境内に足を踏み入れると、私の足元をいつかの枯れ葉がかすめて行った
散り際だった頃に気づかず「いつか」を忘れられずに引き摺ったままのものだろうか
“あの”枯れ葉だろうか
逡巡する間に、風が吹いた
私の足元を一掃していく
道が開け放たれるように
招かれるように一点に視線が注がれる
女の姿が浮かび、視える
雨は止まったままだ
曇り空から光の射線が降り、晴れ間が覗いた
境内に明るさが灯る
もうすぐ雲が追いかける、その遅延時間のために
ーー私は振り向く
もう一度、別れた先の、その名残りを
通り過ぎてゆく女性の横顔
目が合った見覚えのある顔はなかった
あの女は枯れ葉のように
私の足元をかすめて行ったままだった
おみくじを引くと、末吉だった
足元には風が吹き、枯れ葉をまた散らし
「いつか」の枯れ葉が道のように
末に広がったーー
ミラ・ジーノへと私は戻った
車内で“doc watson”の曲がラジオから流れた
盲目のギタリストなのだが
「目が見えないのに、道が選べるのか?」と思った
自分の選択を信じることが、私なんかよりも重いことで
「眼というナビゲーション」無しに人生を遂行する
doc watsonは自分の間違いや迷いに対して、ある慎重さがあるのか?
それとも大胆さがあるのか?
ギターのフレット上での出来事は、記憶と癖との手触りで
自分の「知ること(記憶)」の内で間違わず、
その上では開眼された目で物事が視えているのだ
私の眼はきっと遠く及ばず、まだ視えていないのだ
喫茶店へと向かうーー
「知ること(記憶)」を辿りに
車の速度が窓からの風を通す
隙間を埋める景色
かつて歩いた近所の移り変わりが見える
小さな公園は寂れたままだ
あの客の少ないスーパーの店員は入れ替わっているのだろうか?
信号は赤になり
停止線で止まった
doc watsonの音がフレット上で往来する
miraーーと、
ミラジーノの天井を雨音が打った
「絶対、見えてるよね」と
視覚障害者が横断歩道沿いの縁石を避けたとき
あの女性は疑いながらも感心していた
経験や記憶から避けられたのであろう
しっかりと開眼された目で
明るいときは、あなたの場所からも視える
暗いときには、あなたの場所からは視えない
「赤い星」
また本を手に取った
3日間の間、読み続けて
何らかの考え方や生き方の下地になると思って買った
間違いだったのだろうか
いつもと違う行動
どこかへと行こうとする気持ち
離れられない心
居場所
人
おみくじ
ここでは、何も出来ないだろうと
久しぶりに感情が動いた
でも飽きるほどに
日差しが帰ってきた
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