第25話 渡辺るな、自己ヒストリー語ったるでー


アイドルになったばかりの頃は、100年に1度の美少女といわれて、グループ内で一番笑顔が素敵といわれていた。そして、その頃はセンターを狙える神セブンの位置にいた。

それなのに…。

今年の総選挙は散々だった。私はなんといきなり圏外。あまりのショックに大泣きして、化粧が取れて、黒い涙で顔中ぐちゃぐちゃになって、誰かに撮られたらどうしようってあわてたけれど、そもそも圏外じゃテレビにも映らないのでいらぬ杞憂だったけれど。

 

私が圏外になった理由はそもそもグループの人数が多すぎるというのが問題なのよ。メンバー同士なのに話をしたことない人もいる。そして、運営がずさんだから、古参メンバーがたくさんあぶれているのに、次から次へと新規メンバーをばかりいれて、まさにパイの取り合いとなってしまっている。新規メンバーの特に、顔に難ありなのは、もう体当たりの捨身の作戦に出たものだから、美少女で、おっとりした私なんてすぐに埋もれてしまった。

 

こんな混沌とした中から浮上していくためには、もうオタだけが頼みだった。

 

押し変したオタがまた戻ってきてくれたら…。

オタが太オタになって気前よくお金をつぎ込んでくれたら…。

せめて、速報でキラ星のごとく名前だけでもテロップに出ることができたら…。

 

だけど…。

そんな奇跡みたいなことはただ1年地道に活動していても何も起こらなかった。

私なりには十分頑張ったと思う。

キモオタとも仕事と割り切って笑顔で握手したのに…。

ホステス並みの対応で、たくさんのファンの名前も覚えたのに…。

シュガー対応でキモオタにもかなり接近を試みたのに…。

 

努力は必ず報われるなんてそんなのウソ。

地道な努力は、報われるどころか「イタイ」っていわれるだけだった。

 

まあ、こんな泥臭いこと、しょせん私には合わなかったのよ。

顔に難ありの後輩に引きずられすぎたわ。

こんな凡人チックなことは私には向いていない。

本当のアイドルは華やかなところでこそ輝くものなのよ。

美人が自分の価値を貶めるようなことをしてはだめだったのよ。

だけど、美少女だけでは売れない。飽きられる。やっぱり大切なのはキャラ立ち。それに運営も当てにならない。だから、自己プロデュースよ。そして、時代は猫ブーム。これはもう。私は猫王国のプリンセスになるしかない!

 

というわけで、特別なコネでこの異世界にやってきたわけだけど。

ぐふふ。実はもうひとつ目的があるのよねえ。

私、はっきりという。猫アイドルの延長線上に猫ニュースキャスターの座も狙っている。

猫ニュースキャスター。

なんていい響き。私、渡辺るなが猫ニュースキャスターの第一人者になります!

この異世界に来る前に、ここの猫たちの話を小耳にはさんだの。ここの猫は話したり二足歩行したりするって。そんなおいしいスキャンダル、発信すればきっとネットニュースで上位に上がるはず。きゃー。

私って頭いい!渡辺るな、本領発揮で返り咲きさせていただきます!

というわけで、不本意ながらこのよぼよぼの長老猫〈ホトケ〉の家にいているというわけ。なんだかんだいっても人脈は大事だからね。アイドル時代もそうだった。結局は太い人物とつながっている人がなんだかんだ日の目を見るようにできてるのよ。だから、私はあえて、イケニャン(猫のイケメンのこと)も避けて、こんなによぼよぼの介護老人さながらな長老猫〈ホトケ〉のところにやってきたというわけ。

 

ふふふ。いよいよ私の時代がやってきたわ。見てなさい、「るなるな旋風で、みんなの心を猫つかみ!」しちゃうから!


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