第11話 津倉佐々美、主婦の会話に参加してもいいかな?


漁師猫〈タマ〉のところで使い物にならない津倉佐々美は、結局働けず、しばらくは家にいるしかなかった。

デブ猫〈ショコラ〉も気を使って、いろいろと別のところを当たってくれているらしい。


働くと思うとゲッと思ったが、働けないと思うと自分の社会レベルの低さが身に染みて、なんだかプチ鬱になりそうだった。


いいんだ、わたしなんて。どうせあっちでも留年すれすれだし。どこにいてもそんなもんよ。

別に気にしないもん…。ああ、風が気持ちいい。


そういうこともあって、しばらく津倉佐々美は家にいることになった。

そうなると、必然的にデブ猫の妻〈エクレア〉と話す機会も増えた。


デブ猫の妻〈エクレア〉はどこか薄幸そうな白く穏やかな猫だった。

なぜ、デブ猫〈ショコラ〉と一緒になったのかわからないほど、品格の違いを感じる。

ただ、猫の世界は猫の世界でいろいろとあるようだ。

わたしにはわかんなーい。


ある日、デブ猫の妻〈エクレア〉が婦人会に一緒に参加しないかと誘ってくれた。ここには婦人会があり、たくさんの猫が集まるから行ってみないかという。


テレビばかり見ていてもちょっと飽きてきていたころだったので、そのお誘いにのって、遊びに行ってみることにした。

ちょっとは刺激もなくっちゃね。かわいいイケメン猫がいるかもしれないしね。でへへ。

…いや、いやいやいや!わたしはいたってノーマルだ。危ない、危ない。たとえクズの婦女子であっても、請われても猫とつきあうことはない。この異世界にいるとオス猫が普通のオトコに見えてくる。こわーい。


婦人会にはたくさんの猫たちがすでに集まっていて、お互いにニャーゴ、ニャーゴ言っていた。


「まあ、これが田中さんちに居候している人?」


「こんなにひょろっとした姿をして、ちゃんと栄養足りている?」


「こんなブサ子に生まれてきてしまって、かわいそうに…」


ほっとけ。猫の世界もやっぱり腐女子の世界はどこも変わらない。いや、漢字を間違えた。婦女子か。


「あら、山田ミカンさん、お久しぶり。ちびちゃんたちは元気?」デブ猫の妻〈エクレア〉が子沢山ママ猫〈ミカン〉に話しかける。


子沢山ママ猫〈ミカン〉は茶トラの若い猫だった。

顔は…まあ普通。…っていうか。猫の顔なんて美人かどうかは…そんなの知らない。


「こちら山田さん。山田ミカンさん。今ちびちゃんが6人もいて、いろいろと大変なのよね」


「そうなのよ。ちびたちがいつもいつもにゃーにゃーにゃーにゃーうるさくって。一度に6匹も生まれちゃったから、面倒見るのも手いっぱいで、本当、誰かアルバイトでもいいから面倒を見に来てくれないものかしら」


「あら、大変ね。津倉佐々美さん、よかったらバイトで行ってあげたら?」


「え、わたしがですか?」


「あら、あなたが来て下さるなら、大歓迎よ。子猫って面倒みたことあるかしら?モフモフしていてとってもかわいいわよ」


モフモフ。いいかも?


津倉佐々美はすっかりその気になってしまい、2つ返事で了承した。6匹もいるなんてモフモフ祭りだー。わーい。でも、断じてわたしは変態ではない。


仕事、仕事、仕事だから。うん。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る