第8話 津倉佐々美、異世界でお仕事はじめてもいいかな?


まだ眠たいです。4時です。早いです。いや、早すぎです!!


津倉佐々美は突然の目覚ましの轟音で起こされた。


あのデブ猫、耳元に目覚まし時計おいていったな。


昨日はあれから風呂に入って寝た。

デブ猫〈ショコラ〉の家は猫のくせにお風呂に入るらしい。

とはいえ、デブ猫〈ショコラ〉は風呂ぎらいだから、デブ猫の妻〈エクレア〉に強くいわれて、しぶしぶ風呂に入っていたようだ。


「いつも、手足をちょぼんとお湯につけるぐらいなんですよ」とデブ猫の妻〈エクレア〉は言ってたが、昨日はちゃんと入ったんだろう。

風呂に入った時、浴槽に毛がたくさん浮いていたんで。

別に気にしないけどね。そんな細かいこと気にしないから。本当に気にしてないけどね。

うう。


布団は普通だった。

普通に暖かかった。いや暑いぐらい。

だって、ゆたんぽやらあんかやら電気毛布やらやたらと多かったから。

猫は寒がりだって本当らしい。


デブ猫〈ショコラ〉は風呂に入って、すぐにゴロゴロいって寝てしまった。デブ猫の妻〈エクレア〉もわりと早くゴロゴロいって寝てしまったので、津倉佐々美は二人のゴロゴロ音が耳について、かえって頭がさえてしまった。それに、明日からのことを考えると、やっぱり不安がいっぱいで、なかなか寝付けなかった。


そして4時起き。きっつー!


でも!1晩寝たおかげで、気持ちはかなり整理できていた。

どうあれ、ここに来たからには、うまく順応してやっていこうと思うようになっていた。

まあ、ここさえうまくクリアできたら、単位もうまく取れるかもしれないしね。

人間界でもギリギリの津倉佐々美は、ここでもやっぱりギリギリだった。

もうほかの選択もない!

ここはもう、やるしかない。がんばれ、津倉佐々美!


朝の4時起きで行った先は、海だった。

そこには別の猫が待っていた。


「おう、タマちゃん、この嬢ちゃん。津倉佐々美っていうんや。新入りやさかいよろしゅう頼むわ」


デブ猫〈ショコラ〉はその猫に津倉佐々美を紹介した。

津倉佐々美は軽く会釈をして、その猫を見た。


なんだか、ガタイのいい猫で、人間だったらひげでもはやしてそうな雰囲気だった。あ、猫もデフォルトでひげ生えてましたね。すみません。

たとえていうなら、じゃりン子チエのアントニオか?


若いのか若くないのか、さっぱりわからない。猫の年齢ってわからないもんだね。でも、なんとなく堂に入った感じが、まずまずの年季を感じさせた。


猫のくせに迫力あるんですけど…。


「お嬢ちゃん、こいつは木村タマちゃんさんだ。この辺りでは一番腕のいい漁師で、魚のことならこいつに聞けばまず間違いない」


デブ猫〈ショコラ〉は津倉佐々美にそういう。


木村タマちゃんさん?タマちゃん?タマさん?なんだこりゃ?


「木村タマさん?」

思わず声にしたら、木村タマちゃんさんから怒鳴り声が響いた。


「違う!俺の名前は木村タマちゃんだ」

さっぱり、わからない。津倉佐々美が不思議そうな顔をしていたら、おっさんが横から助け舟を出してくれた。


「こいつ、木村さんちで飼われていたんやけど、木村さんちの小さい嬢ちゃんがこいつの名前をつけたんや。それがタマちゃんやったから、『木村タマちゃん』って呼ばれたいみたいや」


ああ、なるほど、ちゃん付けで呼ばれたいのか…。タマちゃんさん?でいいのかな?


「津倉佐々美、お前は今日は漁を手伝え。ちゃっちゃとやらんとしばくぞ!」

ドスの効いた声で驚され、津倉佐々美はちょっと震えた。わたし、漁するの?もしやマグロ船に乗せられちゃう?奴隷のようにこき使われて、挙句海に棄てられちゃうの?

津倉佐々美はこれからやってくるだろう未来に震えた。


ところが、どっこい、漁ってこういうことだったのね。


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