第7話
「よし、質問に行くぞ。次は誰だ。」
政宗は無表情。といっても、眼帯で右目を覆い、左目は前髪で隠れているので、顔が見えない。
「この秀吉が猿と言われた知恵を振り絞って考えたものだ。ヒデと呼んでくれ。」
秀吉。小柄で痩せたイメージがあるが、そんなことはない。がっちりとした筋肉質のいわゆる痩せマッチョの出で立ちである。やはり額には『秀』と書いてある。
「ほほう。それは楽しみだ。で、いったいなんだ。」
「ファーストキスは誰とやった?」
『ガタガタガタガタ~』他の3人のイケメンが一斉に倒れた。そんなことは気にせず、回答は始まる。
美緒。
「キス?アダムとイブはご先祖さまだ。」
意味不明。
「「「「神々しい。」」」」
絵里華。
((うちはこの本体と毎日。))
それってファーストキスなのか?
「「「「人形になりた~い。いや憑依でもするか。」」」」
ちょっとやばそう。
由梨。
「セレブなんだから、たくさんのジェントルマンから頂いているわ。そんなの、多すぎて覚えてないわ。」
嘘である。
「「「「ツンデレ~萌える~。」」」」
つまらないところで萌えるのはやめてほしい。
万步。
「まっほは、3歳の時に、たけしくん、しょうくん、たいようくん、しんごくん、つよしくん、とおるくん・・・」
これも意味なく長いので、ストップ。これって養護施設のみんなとでは?という疑問。
「「「「そ、そんなにしているのかああああ~。俺たちにも寄こせ~。」」」」
まさにゾンビの叫び。でも意味ない。
『バリバリッ』またも破裂音が。でも何か不明。
「それではネクストバッターは誰かな。」
「この家康がつかまつろう。」
家康もデブなオヤジではない。額に手をやる家康。『家』は太く、目つきのシャープな、抜け目のないタイプに見える。三つくらい先のことを考えていそうだが。
「将来の夢は?」
確かにかなり未来のことであるが、陳腐。
美緒。
「神として統治する。」
「「「「天下以上のことだあああああ~。」」」」
かなり四人を刺激したようだ。これだけは天下を目指す者を表している。
絵里華。
((うちはフィギュア王国建設どす。ハーレムどす。))
「「「「それでこそ、世界のアキバ。AKB文化で世の中を支配するんだあ。」」」」
次元は異なるが、ベクトルは正しい。
由梨。
「あたしは世界セレブ大会出場することね。まあ楽勝だけど。」
「「「「えせセレブいいぞ~。」」」」
さすが天下人。すでに由梨が影武者であると見抜いたようだ。
万步。
「まっほはスイーツの家に住むことだよ。」
「「「「ファンタジー。夢見る少女だあああ。」」」」
アイドルルンルン。
『ビリビリビリ』。今度はさらに大きく響いた。信長たちがわいわいやっているので、美緒たちには聞えなかったらしい。
「さあ、最後の質問だな。光秀、しっかり決めてくれ。」
政宗は拳を握りしめている。感情表現はそこにあるようだ。
「おう。さわやかな男子のこの光秀、誰も文句のでないようなクエスチョンをしてやるぜ。」
『光』と記された眉間は鈍い輝き。少し吊り目で神経質そうな顔つき。眼鏡を装着したいかにも秀才タイプである。目がほんの少し曲がっているところがエロい。光秀は大きく息を吸って吐いた。気合いが入っている。切れあがった唇から空気が発せられた。
「バストサイズは?」
『どどどどどどどどどど』。何かが崩れた。
美緒。
「こんな質問に答える義務はないが。でも神である以上回答しよう。ハチジ・・・」
「「「「ゴクン」」」」
「八丈島に遠島申しつける。」
「「「「なぜだあああああ。」」」」
やはり質問の内容が悪かったのか。
絵里華。
((うちは85どす))
「「「「おおおおお。お嬢様なのにすげえ。」」」」
四人のイケメンが盛り上がる。お嬢様という雰囲気を見抜くのはさすがだ?
((ぐらいのフィギュアがいいどす。))
「「「「なんでえ。自分のサイズじゃないのかよお。」」」」
クレームの嵐となった。クーリングオフは8日間。
万步。
「まっほは元々アイドルだからスリーサイズ公開しているよ。」
「「「「・・・」」」」。ゴクン。今度こそ期待できる。
「最近測ってない。」
「「「「どうして測っていないんだあ!」」」」
大変なブーイングとなった。
「「「「あ~あ。誰も教えてくれなかった。残念。終了だ。」」」」
打ちひしがれた信長たち。
「「「「・・・・・・。」」」」
由梨。
「どうしてあたしには聞かないのよ!」
怒って、ツインテールを振り回す由梨。でも誰からも声がでなかった。
『ベリベリベリベリ』。何かが崩れるような振動。今度はみんなに聞えた。
「いったい何だ、これは。」
美緒は音の聞えた方向、つまり、信長たちを指した。
「「「「やべえ。剝げちゃった。」」」」
そこにはイケメン武将は存在しなかった。彼らの足元には顔パックの残骸。視線を上に移すと、多数のフォッサマグナが走る、荒涼とした肌。いや肌というよりは赤土の関東ローム層というべきか。人生の終焉を迎える老人のグループ。醜悪である。
「この神がだまされた。屈辱。」
((絵里華の夢が崩れたどす。))
「あたしの3サイズも聞かない連中なんかどうでもいいわ。」
「まっほ、久しぶりにイケメンに会えたのに。やっぱり整形だね。」
あれって、整形というよりは『成型』だが。
美緒たちが大騒ぎする中、政宗はじっとしている。相変わらず、容貌は見えないままであるが、冷静であるのは見て取れる。そしてゲームの転換を言明。
「よし、武将チームから質問終了だ。女子どもから質問を開始するぞ。」
これを受けて美緒が即答。
「我々からオヤジには聞くことなし。」
「質問攻め終了。」
声高らかに政宗は宣言した。
「ゲームが終わったなら、真のバトルにいってもいいんだな。ぺろり。」
美緒は舌舐めずりをした。ヨダレも出かかっている。もしかしてバトルマニアなのか。
「よし、お前たちは下がれ。」
政宗は後ろに向かって言葉を発した。
「「「「どうして俺たちが命令されるんだ。政宗はただの大名じゃねえか。」」」」
ぶつぶつ言いながら、信長たちは引き下がってしまった。
「おかしいぞ。やつらバリバリの武将だろう。どうして戦わせないのだ。こちらはストレスが溜まっているんだが。」
ソッコー美緒が苦情を述べた。
「ヤツらを見ろ。あの年だ。それに、そもそも戦国時代の大将というものは身なりは豪華に着飾っているが、自分で戦うことなどあり得ない。大将のところまで兵士が来た時はすでに敗北している。お前たちと戦っても負けるだけだ。」
政宗の説明はもっともである。
「じゃあ、ここに神たちが来た意味は何だ。」
美緒の額は『疑』となっている。
「戦うのはこの俺ひとりで十分だ。」
政宗は黒いマントを翻すようにして、脱ぎ棄てた。その下から現われた黒ずくめの衣装。とくに甲冑とかを身につけているわけではなく、なぜか学ランであった。背中には登り竜の絵。詰襟がしっかり締めてある。男子生徒会長っぽい。しかし腰にはしっかりと大太刀が差してある。柄の部分には薔薇の刺繍が施されている。
「ヤル気は十分のようだな。ではこの神がお相手をしよう。みんなは手を出すな。」
美緒は眉をきりりと浮かびあがらせ、気合いの入った表情。
絵里華本体はいつもの緑髪のフィギュアを弄んでいる。
由梨は鏡を手に持って、自分の姿を『コワイ。でもセレブ、うっとり。』とやっている。
万步はどこから持ってきたのか、涎を垂らしながら、スイーツカタログを読んでいる。
他の3人はヤル気なく、美緒がひとりでバトルに集中する環境は始めから整っていたのである。
政宗は刀を両手で持ち、大上段の構え。
美緒はお面を取る。
『フェイス・スプラッシュ!』美緒がそう叫ぶ。お面の下からは四方、八方、いや十六方、三十二方、もっと、もっとと言わんばかりに後光が差す。太陽を裸眼で直接見たような光。眼底検査からの復活に時間を費やした後。そこに現われたふたつの宝玉。青と赤の煌煌。もちろん宝石ではない。オッズアイである。どんな南海のマリーンブルーよりどこまでも蒼い透明感。限りなく薄い赤血球の珠。その両目で見つめられると吸いこまれてしまいそうな錯覚に陥りそうだ。まさに秘宝のごときゴッド・アイ。
一方、手にしたお面はゴムのように上下に長く延びたかと思うと、薙刀に変形した。頭には赤いハチマキを締めている。正面には黒い字で『戦』と書いてある。お面の紐がハチマキになったようだ。美緒は薙刀を斜めに持ち上げている。
「そちらの準備もいいようだな。では俺からいくぞ。」
政宗ははゆっくりと美緒に近づく。美緒は二三歩後ずさりする。そこで両者は動きを止めた。お互いに間合いを見計らっているようだ。ふたりは3メートルは離れている。
「なかなかスキのないヤツ。政宗、お主かなりできるな。さすが、ジバクとはいえ、信長たち、そうそうたる武将の頭についているのもうなずける。久しぶりにガチンコのケンカが楽しめそうだ。神冥利に尽きるな。ワハハハ。」
「そんな余裕こいているヒマがあるのかな。やああああ。」
政宗は興奮した猪のように突進し、その勢いに乗じた風とともに太刀を美緒に振りかざす。『ビューン』鋭い音が空気を斬る。美緒と共に、四次元空間を裂いたか?
「なかなかやるなお主。0.001秒遅れたら刀の錆になっておったわ。神に錆はにわわないがな。『寂より侘』だ。ワハハハ。」
政宗のひと太刀を刹那、回避した美緒。まさに神技。
「美緒神。侘・寂は同義語だけど。」
一応オレがツッコンだ。
『そうだな。さすが現役女子高生、いや男子高校生か。ってか、戦闘中に余計なツッコミを入れるな。』
ここでもコミュニケーションはやはり糸電話。いちいち面倒である。
「スキあり!」
政宗は美緒の後方から斬りつけた。
「ぐあああああああ~。」
『ブバババ~』背中から大量の血液が迸る。火事と間違えて発せられたスプリンクラーのように放血されている。
『バタン』。美緒は、上手に食べきれずに崩れるショートケーキのようにその場に倒れた。仰向けになっている。
『美緒神!』
慌てて美緒に駆け寄るオレ。糸電話の糸が絡みそうだ。
『あれっ?これなに?ゴミ?』
額には『信』の一文字。白目を剥いているのは信長。だらしなく開いた口からは白い泡が垂れている。実に見苦しい。
「変わり身の術とはなかなかやるな。貴様、できるな。褒めて使わすぞ。」
「神を褒めるとは冒涜であろう。一応、闘いの最中。大目に見てやろう。神の慈悲だ。」
「相変わらず強気な輩だな。その気概は認めるが、そこまでだぜ。」
二人は二度、三度と刀、薙刀の刃を合わせた。『ガキッ』という金属音が深夜の空に響き渡る。政宗と美緒は呼吸を整えるためか、一旦距離を取った。そして、睨み合い。
政宗は、美緒との距離を置いたまま、太刀を鋭く振り降ろす。切先から、強烈な光が発せされた。レーザー光線のようなものだろうか。すると、美緒のうしろにあった大きな墓が斜めにスライドして、轟音とともに滑降した。採石場の石切りのようである。
「すごい切れ味だな。そんな飛び道具であったとは。この神も恐れいった。ではこちらも軽くいくかな。」
美緒は薙刀をふりかざして、政宗がいるのとは違う方向に回転させた。
「どこを狙っている。俺はここにいるんだぞ。」
「いや初めからターゲットは向こうにある。」
『ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ』。墓場中に広がる落雷音と思いきや、雨雲があるわけではない。たくさんの墓が切り倒されているではないか。しかも切られた墓は地面に落ちず、宙に浮いている。それは無重力状態であるかのように、ゆらゆらと舞っている。よく見ると糸に操られている。
「墓石に糸電話を使ってるんだ!」
思わず声を上げたのはオレ。確かに糸電話は手元から無くなっている。糸につながれた複数の墓石たちは政宗に近づいている。そしてストーンサークルのように政宗を取り囲んだ。そして金属加工のように一気にプレス。
「はあはあはあはあ。焦るぜ。なんて野郎だ。危険すぎる。」
政宗は間一髪、石地獄から脱出できたようだ。
「運のいいヤツだ。都の声で命拾いしたようだな。もっとも、命はすでにないんだろうが。」
「うざい野郎だ。口だけじゃないところが悔しいぞ。」
政宗は額から滝のように汗を流している。前髪が濡れて固まってしまい、隠れていた左目が少しだけ覗いている。焦りの表情が見て取れる。美緒はその目の緩みを見逃さなかった。
「まだ闘るつもりか。その目が『負けた』と言っているぞ。」
視線を政宗からそらしながら、美緒が語りかけるように話している。
「なんだと。まだこの通り、どこにも怪我すらしていないぞ。」
政宗はゴリラのように両手を広げて、胸をパンパンと叩いている。
「仕方ないな。じゃあこれでどうだ。」
美緒は薙刀を右手を高く上げて、掌で回して見せた。刃先から鋭い風が走ったかと思うと、政宗の前髪がはらりと落ちた。その直後、黒い眼帯もプチンと切れて、右目が白日の下に晒された、深夜ではあるが。その瞬間、絵里華、由梨、万步が色めきたった。
((イケメンの生表情が見られるどす。))「少しならその顔を拝んでやらないでもないわ。」「ちょっと素顔に興味あるな。」
「オレはみたくないな。男なんて見ても仕方ないし。」
都だけはテンションが低い。
「そう落胆するな、都。あいつをよく見ろ。」
政宗は兜を取る。その下からは黒く長い髪が艶やかに回りながら降りていく。トリートメントが行き届いているようだ。改めて見ると睫毛は長く、瞳には憂いが溢れている。
「まさか、政宗は女!美緒神はいつ気付いたんだ。」
都はハトが豆鉄砲を食らったように瞠目して、美緒を見る。
「正確には右目が見えた時だ。だが、その前に刃合わせをした時だ。女の力というのはいくら鍛えてもごまかせないものだ。都、お前とも戦闘をしておれば、騙されずに済んだものを。」
シニカルに笑いながら、美緒はオレに答えた。他の3人はこんな感想。
((なんだ、おなごどすか。都はんと反対のパターンどす。))「やっぱり見る価値はなかったわね。」「イケメンではないにせよ、女子にモテそう。まっほは結構好み。」
勝手なことを言っている。政宗退治は誰がやったのか。
『都、今回はお前が相手に呼ばれたんだからな。政宗とは自分で話して説得しろ。』
ここからは糸電話モードに転換。
『説得?いったい何を話せばいいんだ。』
『そいつをジバクから天獄か地獄へ行くことを決断させることだ。意思が決まれば、輪を切取るだけだ。ほらさっさと生徒会の仕事をしろ。』
『生徒会だと?生徒会は政宗や獅子天王じゃないのか?』
『都はこの春学の生徒会規則を知らないのか?生徒会は選挙で決めることもないことはないが、基本的には戦闘で勝ち取るものだ。前の体制を撃ち破った者が会長になり、自由に役員を任命できる。神たちはこのバトルに勝利したんだから、ただちに生徒会を構成することになった。』
『そ、そんな。生徒会になるつもりでここに来たんじゃないし、そもそもこいつらに呼ばれたからここにいるんであって。』
『それこそが、正当なる権利だろう。都が呼ばれたということは生徒会長は都だ。この神が都の風下になることは屈辱だが、そうでもないぞ。【愛す】の一件もある・・・』
『【アイス】?』
『な、何でもない。さっさとやれ。』
美緒は急に赤くなったような。慌てて般若面を装着したため、顔は見えなくなったが、喉のあたりが赤くなっている。
「なんだか納得できないんだが。仕方ない。おい、政宗。お前は何が不満なのか、何を追いかけていたのか?教えてくれ。」
政宗はどっかと地べたに腰を下ろし、胡坐をかいた。オレも同じ姿勢をとった。
「俺は負けたんだ。敗軍の将、兵を語らずなんだが、兵のことではなく、俺のことなら話してもよかろう。こんななりをしているが、これでも一応俺は女だ。年頃になり思春期を迎えた。」
「へええ。意外だな。馬子にも衣装みたいな。」
「茶化すんじゃねえ。ハズいだろ。」
「すまん。続けてくれ。いや下さい。」
「俺はある時、仲間たちと川で水遊びをしていた。魚を捕まえていたんだな。鮎を捕まえて、みんなに見せようとしたら、手から逃げて、飛んで行ってしまった。それがそばを通りかかった侍に当たってしまった。とんでもない失礼をしてしまったと、すぐさまお詫びにいった。衝撃の出会いだった。それはそれはとても凛々しい殿方だった。」
「ベタな出会いだな。」
「俺の思いでにツッコミをいれるんじゃねえ。」
「いや、これはオレの性分で。」
「そんなのやめてしまえ。ゴホン。そして、俺にはその方を思い続ける日々が続いた。いつかその方と○○○。ぐふ。」
「何照れてる。それでも武将か。」
「俺は女だ。ほっとけ。しかし、俺には悲劇が待っていた。ヒロインとはこういうものだ。」
「いきなりヒロインに昇華したな。」
「ヒロイン、なんと憧憬される言葉。おいといて。俺は自分の気持ちを母親に伝えた。母親とは仲がよく、尊敬していた。すると母親は応援すると言ってくれた。嬉しかった。だがまだ若いので、ちょっと待つように諭された。母親はあの方のことを知っているようだった。」
「もったいつけるんだな。ガマンが大変だったろう。」
「女の恥じらいを知っていると表現してくれ。それから数年が経過し、俺もすっかり女らしく成長した。」
「そうはみえないが。」
「脱いだらすごいんだぞ。」
「どれどれ。」
『『『『ギロッ』』』』。黙って聞いていた四人が都に刺す、いや貫くような視線を浴びせかけた。
「すまない。生徒会としての職務を全うする。」
オレは正座した。
「そう。その姿勢で聞いてくれ。」
「俺はここらで、あの方に自分の気持ちを伝えたいと思って、母親に相談した。すると母親からは『あの方はおやめなさい。』と言われた。寝耳に水だった。」
「意外だな。何かネガティブな情報が見つかったのか。ちょいエロだとか。」
「貴様と一緒にするな。母親が口にした真実は俺には大ショックだった。なんとあの方は実の兄だったのだ。」
「「「「「えええええ!」」」」」
五人揃って○○レンジャー。
「何か回りがおかしいぞ。」
「生徒会のみなさん。お静かに。ここはオレに任せてくれ。」
「なんだか、奇妙な連中だな。続けるぞ。俺の母親はかなわぬ恋を阻止したわけだ。」
「どうしてそんなことをしたんだろう。そもそも兄妹なら、最初からそう話しておけばこんなことにはならなかっただろう。」
「そこなんだ。俺は落胆し、人生に絶望した!」
「どこかで聞いたようなセリフだな。」
「俺はその後、戦で死んだ。そして、ジバクとなった。」
「それで今ここにいるというわけか。」
「いや続きがある。母親の行動は一見冷たそうだが、実は俺のことを思っての行為だということなんだ。」
「「「「「というと?」」」」」
またも五人で口を揃える。
「これは実のところ、政宗のことを愛するがゆえ。というのも、母親からすると、実の兄を慕う政宗に真実を伝える義務がある。初めから教えておくべきことを言いそびれたんだな。それだけ、俺がは兄に傾倒してたわけだ。ははは。これは戦国の習いで、いつ敵味方に分かれるかもしれないためだ。でもそんな兄に靡いてしまったのは真実を最初に告げなかった母親の責任だ。母親は断腸の思いで真実を告げた。知らない方があるいは良かったのかもしれない。でも人間として真実を知る権利がある。俺が教えてくれと要求したわけではないけど、母親の最後の仕事として、今わの際に伝えたんだな。そのあと母親は逝去した。『恨まれてもいい。でも私はふたりの母親。非難を浴びても幸せ。』そんな声が聞えたような気がした。だからと言って母親を許したわけではないがな。」
政宗は自嘲気味に話した。
そんな政宗のところに、万步がゆっくりと歩いてきた。
「私はね、」
万步はいつもの「まっほ」ではなく、『私』という一人称を使用した。
「私は母親の顔を知らない、いや両親ともに知らない。一度も会ったことがない。どこにいるのか知らない。生きているのか死んでいるのかすらわからない。私はコインロッカーで生まれた、いや捨てられていた。そして孤児院で育った。でも私を捨てた母親を恨んだことはない。捨てた事情がきっとある。それが何かはわからない。知りたいと思ったことはあるけど、手がかりがまったく掴めなくて、諦めた。でも事情がわかっても私は変わらない。どこまでいっても私は私。自分の思うように生きるしかない。むしろ、捨ててくれたおかげで、私は他の人よりずっと早く自立できた。だからアイドルやりながら学校に行った。両立は大変だった、苦しかった。でも嫌じゃなかった。」
「それが俺の生き方と何の関係がある。貴様と俺は立場、生き方もまったく違うだろう。それは貴様がそういう生き方をせざるを得なかったという人生だということではないか。貴様は貴様の好きにすればいい。俺は自分の立場で母親を恨んでおるだけだ。」
「あなたはわかっていないわね。事実を聞くということは耳に痛いこともある。でもそれを判断するのは自分。情報の提供すらなければ、何も考えることもできないの。私には何の情報もなかった。だから考えたり、悩んだりすることもできなかった。こちらの方がどれだけ辛いことか。あなたにはわからないのね。」
「わからないぞ。俺は闘わずして恋に敗れたんだ。こんな悔しいことはなかった。ああ、兄上、お慕い申しております、ううう。」
「政宗よ。母上にその話をするようお願いしたのは拙者だ。」
オレが政宗に向かって喋っている。これはどういうことだ。
「そ、その声は兄上。」
政宗の兄がオレに乗り移ったらしい。
「久しぶりだな。元気だったか。と言っても死人同士だが。拙者は天獄、お前はジバク。なかなか会えぬものよ。」
「兄上、どうして母上にそのようなことを。」
「拙者もかなり迷った末のことではあるが、あの後、敵味方に分かれたとしても、拙者のことは知っておいてほしかったのだ。わかった上で戦う。つらいだろうが、それはそれで良かったのだ。」
「どうしてでございますか。」
「それはな、母上が亡くなる時点で、拙者の家族は拙者と政宗のたったふたり。でもひとりじゃない。ふたりだということを知っておいてほしかったのだ。これはなんの打算もない。家族がいる。それがわかるだけで十分じゃないのか。家族とはそういうものだろ。」
「ううう。たしかにそうかも知れませぬが、でも政宗の切ない思いは・・・。」
「そのような恋心と家族は別物だ。恋はいつか冷めることはある。でも家族の絆、血筋は変わることはない。どちらが大事なのかはよくわからぬが、家族の絆は永遠のものだ。だからこそ、お前に拙者が実の兄であることを告げたのだ。これで、拙者がいつ死んでも、お前が先に死んでも、家族であることは同じなのだ。恋以上のものをお前は手にしたのだ。」
「そこまで兄上がお考えであったとは。得心が行きました。でも、これだけは言わせて下さいませ。兄上、政宗はどこにいっても兄上をお慕い申しております。」
「ありがとう。そこまで思ってもらうことこそ、男冥利に尽きるというものよ。ではさらば。」
「政宗も兄上のおそばに今度こそ参ります。」
「そうだな。それでこそ、我が妹。」
「でも天獄に行く前にひとつお願いがございます。」
「なんだ。この期におよんでの話。何でも聞かせてもらおう。」
「では。今の兄上のからだは、こやつのもの。であれば、ここにいる兄上は実の兄上ではござりませぬ。」
「いったい何が言いたいのだ。」
「こうでございます。」
政宗はいきなり兄上=オレに口づけ。
「愛しております、兄上。」
「・・・そういうことか。これは一本取られたな。ははは。」
すると、政宗の姿に影が差す。ゆっくりと足元から、暗くなっては消えていくではないか。
「おかしいぞ。ジバクは輪を斬って、天獄か地獄に行くことが決まりだろう。政宗のヤツはいったいどうなったんだ?」
美緒が全員共通の質問をした。
「やってしまいましたね。」
突如、黒服を着た男が現われた。閻魔女王に仕える霊界の執事・李茶土。プロローグ以来の登場である。
「李茶土。いったいどういうことだ。この神が知らぬことがあっていいものか。」
「誠に申し訳ありません。我々が予想していたよりも早く閻魔女王候補見習いの能力が発揮されてしまいました。」
「都の能力だと。言霊力、トリガーカードのことか?」
「ご名答にございます。さすが、生徒会副会長ですね。」
「生徒会副会長以前に神である。それに副会長というのは神にそぐわしくないぞ。都が会長であることに依存はないのだが。」
「これは失礼しました。訂正いたしましょう。ははは。」
「なにを気楽な。それより都の言霊力について、もっとくわしく説明しろ。」
「承知いたしました。都さんのトリガーカードの属性は、大きく物理系統攻撃・物理系統防御・魔法系統攻撃・魔法系統防御に分かれます。それぞれはスペードカード=美緒さん、ダイヤカード=由梨さん、クローバーカード=絵里華さん、ハードカード=万步さんに割り当てられます。カードは13枚ずつあり、それぞれ違う能力を持ちます。すでに何枚かお持ちですが、これからの生徒会活動の中で、具体的な行動に基づいて、カードを入手できると思います。ご存知でしょうが、全部集めると願いが叶いますので、頑張って集めてください。しかし、ただいまの政宗氏の消滅については、トリガーカードとは別の能力が発揮されたのです。」
「いったいどういうことだ。」
「都さんは閻魔女王いや大王候補です。大王とは唯一無二の至高な存在です。」
「神には劣ると思うが。」
美緒が珍しくツッコンだ。
「それは個人の趣味でしょう。それは置いといて、大王に対しては、安易な対応は誰しも許されないのです。大王にいきなり自分の愛を告白するというのは、一種の冒涜とみなされるのです。その結果、罰として、そんな行為をなした者がこの世からその存在を消されるのです。」
「ううう。信じられない。でも今それを目の当たりにしてしまったわけか。」
「左様にございます。これは閻魔女王様以外のすべての事物に適用されますので、生徒会のみなさんに置かれましても十分注意してください。くれぐれも都さんには不謹慎な言動をお慎みくださいますようお願いいたします。くくく。」
李茶土はなぜか、嬉しさを隠せない様子。
「こ、この神が都に恋?あ、ありえん。」((う、うちは都はんの嫁、じゃ、じゃないどす。恋人はフ、フィギュアたちどす。))「な、何言ってるのかしら。セ、セレブには王子様しか見えないんだからねっ。」「・・・・」
三人はなぜか、言葉に詰まっていたようだが。
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