冥菓道覚書

一、この書は、時を継ぎ、世を継ぎ、冥菓道めいかどうを極めし菓子司かしつかさあるじのみが手にし目にすることができるものとする。

 菓子司を生業とするも、冥菓道に通じておらぬものは、何人たりとも、この書に触れることはならない。

 ただし、冥菓道に通じておるものと共に在る時は、その限りではない。


一、冥菓道を修得するには、人の力のみではならず。冥菓道を極めし菓子司に永代寄寓えいだいきぐうするあやかしと心を通わせ、ともに励み、人とあやかしの境を越えて交わり、気を一つにして、はじめて、冥菓道の修得が叶うものなり。


一、冥菓道にのっとこしらえたまじない菓子のめいは、言の葉の恵みあふれるものでなければならない。ただ奇をてらったものは、まじない菓子としての役割を果たせぬばかりか、あつらえし人の心をはばむものなり。心して銘を授けよ。


一、冥菓道によるまじない菓子は、すべて最上の品を集め合わせ、こしらえるべし。

最上というのは、ただ高価であるということではない。手のかけられた磨きのかけられた品のことである。


一、冥菓道の系譜に連なる菓子司は、何ごとがあっても、菓子つくりではないことによって金子きんすを得てはならない。ただし、菓子つくりであれば、まじない菓子でなくとも生業として金子を得ることを許される。


一、冥菓道によるまじない菓子は、古のはじまりには、神託しんたくの記された木片もくへん亀甲きっこう紙幣しへいを炎に投じ、浄化の後に、その灰を粉に混ぜ、菓子の形にした。

 胸が焦がれる、胸がやける、胸がふたがるなど、その菓子を口にしたものが、次から次へと倒れ、それ以来、そのまじない菓子はつくることを禁じられた。

 心すべし。


一、菓子を拵える木型などは、付喪神つくもがみの有無を確認してからにするべし。よこしまの心もつ付喪神が憑いている時には、必ずいぶはらいをするべし。


一、……


一、……


一、……



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