第2話 博物館

 薄暗くて静かな空間に、石になって固まった生命だとか、はたまた大地に溶け込むものたちが身を固めて地上に表した姿だとか

 「そういうものを無機質に陳列しているだけのような気がするんだ」

 白く細い指を冷たい硝子に這わせて、ぽつりと君は言葉を吐いた。

 「そうかな」

 「うん」

 無感動な黒曜石のような瞳をショウケースへと向けてこっくりと頷くその姿は、ここの展示品と同じくらい無機質だ。

 「束縛されている…監禁と言った方が正しいのかな…とにかくあるべき流れの中から取り出されてしまったんだよ」

 「そうだろうか。でもこうして保管して、時には他人に知ってもらうことは良い事だと思うんだけど」

 「この物たちはそれを望んだのかい?」

 君の黒曜石が私をひたりと見据えた。薄暗い照明のせいか、光を返している様子のないそれは、光どころか何もかもを飲み込みそうだ。

 「さあ、どうだろう。もしかしたら望んでいるから見つかったんじゃないのかな」

 私の答えに、先程まで無表情だった君がわずかに苦しげな表情を浮かべた。

 「そんな筈はない。ある筈がない…耐えられないよ」

 「君は化石になりたいのだから、この展示品たちのようになることは本望じゃあないのかい?」

 君は力なく首を振った。黒く艶やかな髪が揺れる。

 「あなたが死んで、化石になって…そのまま時の流れに身を任せることこそが望みなんだ。そういう物たちだっているはずなのに」

 泣きそうな声の癖に、君の表情は僅かに曇っているだけで、涙の一つも流れない。しかし私には君の泣く声がはっきりと聞こえた。

 「嗚呼、成程」

 私は一言だけ君に返して、そっとその肩を抱いた。体温の低い、君の細い肩はまるで存在していないかのように希薄で、私はいつも不安になる。

 「痛いよ」

 君がそう苦言を漏らすくらいに力を込めることで、私は君の存在を実感することができる。

 「化石じゃないといけないのかい」

 「どういうこと?」

 「例えば…そう標本になるのはどうだろう」

 「標本は最も憎むべきものだ。管理されるためのものだ」

 「やはり駄目かい?」

 「駄目だとも。あなたは何故それが妥当だと思った?」

 「似たようなものだと思っていたからさ」

 「愚かな…標本は哀れな囚人さ」

 「そうなの」

 「そうだ。あれは意図的に時から切り離されたから。ここの展示品よりも哀れかもしれない」

 「そうか」

 「そうさ。やはり化石になるのが素晴らしい。化石になって時の中で眠るのが」

 「私は君と話していたいのだけれど」

 「化石になるのはあなたが死んだ時だから、あなたが心配する必要はない」

 「君はとても優しいね」

 「優しくはない。優しければあなたと共にいるものか」

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