エピローグ
夕方、貸切バスは学校に到着した。
「きみ達長旅お疲れさん、ではこれにて解散、の前に、ワタクシからプレゼントだよーん」
降りる前に、備前先生は嬉しそうに告げて荷物棚から大きな紙袋を引っ張り出した。
中から出てきたのは、緑色リボンで括られたプレゼント箱だった。
「学ちゃんが皆様のために丹精込めて作ったものざます」
貴久江さんは自慢げに語り、クラスメート達に配布していった。
「わぁー、嬉しい! お菓子か何かですか?」
洸は興奮気味に尋ねた。
「ふふふ、開けてからのお楽しみだよーん」
備前先生は微笑みながら言う。
「緑色リボンとは新緑シーズンらしいですね」
洸はわくわくしながらリボンをほどき、包装をはずして蓋を開けた。
「あれ? 紙しか入ってない」
中に封入されていたのは、二つ折にされたB4サイズの用紙。
「楽しい気分に浸っているところ悪いんだけど、これはね、数ⅠAⅡBの総復習プリント二十枚セットさ。大型連休明けまでにやっといてねーん」
「備前先生、多すぎですよぅ。大型連休は遊ぶ計画いっぱい立ててるのに。わたし、こんなプレゼントはいらないよう」
洸は大声で嘆く。
「先生からもプレゼントがあるわよ♪」
そんな彼女をよそに貝原先生は、十枚綴りになっている英語の演習プリントを配布していった。
「楽勝じゃ」「もっと出して下さい」「池亀先生、化学の宿題は無いんですか?」
クラスメートの多くは、大喜びしていた。
「こんなの、絶対無理だぁ~っ」
洸は嘆きの声を上げた。
○
「数学と英語の課題、中身ちょっとだけ見てみたけど、分からない問題ばっかりだったよ。ちゃんと仕上がるかなあ」
「俺も正直不安だ」
「こうなったらお母さんにお願いして宿題全部やってもらおうかなあ。絶対無理だけど」
解散したあと、洸と喜三郎は沈んだ気分で帰り道を進んでいく。
「喜三郎くん、洸ちゃん。私もお手伝いするよ」
「ワタシの手にかかれば、これくらいすぐ終わるじょ」
智穂と椛はそんな二人に労いの言葉をかけてあげた。
「本当!? ありがとう、もみちゃん、ちほちゃん。全部頼んじゃおうかな」
「それはダメ。私はヒントを与えるだけです」
「そんなぁー」
「俺は、全部自分の力でやるよ」
「えらいじょ、キサブー」
四人は取り留めのない会話を弾ませながら帰り道を進む。
高校生活はまだ始まったばかり。授業が難しくなるのは、まだまだこれから。
前途多難な喜三郎と洸、でもきっと大丈夫。成績優秀な椛と智穂がサポートしてくれるから。
同じ頃、蒜山の山中で武者先生はうずくまっていた。
「今年の新入生共怖がらせようと思ったのに、墓穴掘ってもうた。藁谷君の攻撃めっちゃ痛かったわー。おかげで全身痣だらけや。あと、十中八九清瀬やな、ワシの急所ピンポイントに狙い撃ちしてきよって。家来のやつも、ワシの変装に気付かんかったんかいな。着ぐるみ、かなりリアリティに作ったからのう。鳴き声も本物のを録音して内蔵して。イヌ衛門とキジ兵衛は、毎年やっとることやのにいい加減気付いてほしかったわー。思いっきり攻撃してきおって。いたたたっ、崖から転落するし、アブにも襲われたし、今年は特に散々な目に遭うた」
真夜中に現れたツキノワグマの正体は、着ぐるみを身に纏った武者先生だったのだ。
(完)
武蔵の合宿~共学なのになんで男子俺一人だけなんだよ?~ 明石竜 @Akashiryu
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