第二話 隆太達、リアル兵庫編敵モンスター退治の旅始まるで(後編)

JR須磨駅近くのファミレスで昼食を済ませたみんなが須磨海岸に辿り着くと、さっそく砂浜でご当地の敵モンスターに遭遇した。

「カメか。須磨海浜水族園に展示されてるのもモンスター化してるんだな」

 隆太は感心気味に呟く。

「昔からしょっちゅう行ってる私の大好きな須磨海浜水族園の生き物さんまでモンスター化するなんておかしいよ。ご当地色も薄いし。製作者さんは酷いことするね」

 虹子は不愉快になった。

「ゲーム上では水族館内の敵は館内に現れるよ。動物園、美術館、科学館などもね。あいつはスマウミガ~メ。体力は29。攻撃力、防御力共に高いで」

「動きのろそうやん。とりゃぁっ!」

 彩葉は甲長二メールくらいあったそいつの甲羅にバットでさっそく攻撃し始める。

「五発で消えたよ。一発叩いたら体引っ込めて何もして来なくなったよ。須磨海浜水族園名物のウミガメメロンパンも落としていったし、明石たこの助よりも楽勝やったよ」

 ダメージ食らわされず簡単に倒して、自慢げに伝えた。

「ウミガメメロンパンは体力が16回復するで」

「確かに体はリアルウミガメよりでかくて硬いけど弱過ぎだな。俺は四発だ」

「あたしは五発ぅ。最初は口を開けて襲ってくるけど動き遅いし、一発食らわせたら勝ったも同然だね」

 近くに現れたもう二頭を隆太はビジネスバッグ、星乃はヨーヨーを用いて手分けして倒した。またしてもウミガメメロンパンを落としていく。

「彩葉、隆太くん、星乃。亀さんいじめちゃダメだよ。かわいそう」

「虹子さん、そんな気持ちではまた攻撃されちゃいますよ」

「虹子様、スマウミガ~メの噛み付き攻撃はかなり痛いで」

「虹子お姉さん、旅始めてから一回も敵打撃攻撃してへんやん。ここは心を鬼にして退治しなきゃ」

「それは、かわいそうで出来ない」

 虹子は困惑顔でぽつりと呟く。

「虹子様、敵モンスターは触感はあるけどグラフィックで出来てて命は宿ってへんから、容赦なく攻撃したらええねんで」

「グラフィックでも、やっぱり無理だよ」

「虹子様、そんな甘いこと言っとううちに背後に敵が」

 摩耶はやや表情を引き攣らせ、慌てて伝える。

「えっ!」

 虹子はくるっと振り向くや、

「ぎゃああああああああっ!」

 甲高い悲鳴を上げて、そこにいた敵を洋傘で殴りつけた。

 一撃で消滅。体長五〇センチ以上はある巨大な節足動物型モンスターがいたのだ。

「さっきのはゲーム上でも須磨海岸に出没する須磨のフナムシくん、体力は26や。防御力高いけど虹子様、会心の一撃が出ましたね」

「虹子お姉ちゃん、すごぉい!」

「やるやん虹子お姉さん」

「お見事でした。虹子さんに節足動物や昆虫、爬虫類、両生類型の敵と戦わせると、常に会心の一撃を出せそうですね」

 星乃と彩葉と千聡はパチパチ拍手する。

「怖かったよぅ」

 虹子は涙目を浮かばせ、隆太にぎゅっと抱き付いた。

「確かにあんな巨大なフナムシは怖いよな。あの、虹子ちゃん、わざわざ抱き付かなくても」

「隆太様、虹子様、背後にまた新たな敵が」

「えっ!」

「またか」

 虹子と隆太はとっさに後ろを振り向く。

 体長二メートルくらいのアメリカンロブスター型モンスターがいた。

「私、えび、苦手。あのもじゃもじゃした足が。調理されたエビフライは大好きだけど」

 虹子は慌てて隆太の体から離れて逃げていく。

「こいつの名は須磨海浜水族園ロブスター。体力は30。こいつも殻で覆われとうから防御力高いで」

「リアルの以上にめっちゃ美味そうや。とりゃぁっ!」

 彩葉が甲羅に向けて攻撃すると、須磨海浜水族園ロブスターはビチビチ激しく跳ねる。

「ぎゃぁっ、こっち来たぁーっ!」

 逃げ惑う虹子。

「俺に任せて」

 隆太はビジネスバッグを構え、バットでボールを打つかのように須磨海浜水族園ロブスターの歩脚部分に叩き付ける。

 須磨海浜水族園ロブスター、裏返しになって自由に身動き不能に。脚をバタつかせる。

「こうなったらもう勝ったも同然ですね」

 千聡のメガホン、

「エビフライ落としていかないかなぁ」

 星乃のヨーヨー攻撃でついに消滅。残念ながら、星乃の期待したアイテムは残さず。

「ぎゃんっ、いったぁ~。今度はどんな敵や?」

 突如、彩葉の体にビリッと痛みが走った。

「いってぇ! 俺も食らった。クラゲの攻撃だな。動け、ない」

 隆太の推測通り、彼の背後で一匹、アカクラゲ型のが空中を漂っていた。

「彩葉様、隆太様。痺れ状態に侵されちゃいましたか。クラゲの針は毒針やけど、この場合毒状態やないから毒消しでは回復出来んねん。倒すかしばらくすれば自然に治るで。須磨海浜水族園アカクラゲ、痺れ攻撃はきついけど、体力は18しかなくて防御力も低いで」

「空飛ぶクラゲさん、食らえーっ!」

 星乃が手裏剣で攻撃して、一撃で消滅。

「体が動かんかったけど、マッサージされとうみたいでけっこう気持ちよかったわ~」

「俺は不快に感じたけどな」

 その瞬間に彩葉と隆太は痺れ状態から回復した。

 けれどもまたすぐに、

「いてててぇぇぇっ! はっ、離れろ」

 隆太は背後から体長五十センチくらいの熱帯魚型の敵モンスター五匹に襲われた。

「隆太くん、顔と腕が血まみれ」

 虹子は子午せんを手に抱え、慌てて駆け寄っていく。

「須磨海浜水族園ピラニア、体力は22しかないけど、噛み付き攻撃の威力は須磨海浜水族園の敵では最強やで」

「隆太お兄さん、ワタシに任せてや」

 彩葉がすぐにマッチ火で攻撃し、三匹は退治。

「空飛ぶ巨大ピラニアだね」

 星乃は残る二匹に噛み付かれそうになったが、なんとかかわして泡立て器で顔を叩き付けて消滅させた。

引き続き須磨海岸を散策していると、

「うわっ、危ねっ!」

 どこかから槍が飛んで来た。隆太は寸でのところでかわし、ダメージ回避。

「ぎゃあああああああっ! いっ、彩葉お姉ちゃあああああっん」

 星乃は大声で叫び、彩葉の背中にぎゅぅっとしがみ付いた。

「星乃、あれ、そんなに怖いかな?」

彩葉はにこにこ微笑む。

「怖いよ、怖いよぅぅぅ」

 星乃はだんだん泣き出しそうな表情に変わっていく。

「あれは確かにめちゃくちゃ怖いよ。夢に出て来そう」

 虹子は同情してあげる。

「こんな敵まで出るなんて、さすが一ノ谷の戦いの舞台の近くなだけはあるわね」

「地域に纏わる亡霊もモンスター化されてるんだな。強そうだ」

 千聡と隆太はちょっぴり感心していた。

 みんなの目の前に現れたのは、頭に槍が刺さり鎧を身に纏った落武者の亡霊だったのだ。馬に乗っていた。

「亡霊のみならず妖怪もモンスター化されとうよ。一ノ谷の落武者亡霊の体力は39。弱点は水や」

「星乃、倒してあげたら?」

 彩葉は楽しそうに勧める。

「怖い、怖い」

 星乃はそう言いつつも、勇気を振り絞って彩葉の背後から少し顔を出して狙いを定め、水鉄砲を発射した。

 ぐおおおおおぉぉぉ~。

 一ノ谷の落武者亡霊は苦しそうな叫び声を上げる。

「まだ消えてくれないよぉぉぉ~」

「星乃様の今の攻撃力なら、もう一発できっと消えるで」

「早く消えて、消えてぇぇぇ~」

 星乃は涙目でもう一発発射した。

 ぐわあああああぁぁぁ~。

一ノ谷の落武者亡霊は断末魔の叫び声を上げると、たちまち消滅。源平せんべいを落としていった。

「怖かったよぉぉぉ~」

 ぽろりと涙を流す星乃。

「星乃、よく頑張ったね」

 虹子は優しく頭をなでてあげた。

「あら、イルカさんもモンスターになってるのね」

 千聡は新たな敵の接近に気が付く。

 体長六メートルくらい。背中にボールを乗せていて、砂浜を這って移動していた。

「本物のイルカさんよりかわいい♪」

 虹子はついつい見惚れてしまう。

「虹子様、油断したらあかんで。須磨海浜水族園イルカ、体力は40。ジャンプ突進攻撃は大ダメージ食らうで」

「虹子お姉さん、心を鬼にせんとあかんで」

彩葉はバットで容赦なく頭を攻撃。

 キュゥゥゥィン、キュゥゥゥィン、キュゥゥゥゥゥィン♪

 するとこんな愛らしい鳴き声を上げた。

「なんか、ワタシもかわいそうに思えて来たわ~」

「わたしも、攻撃する気無くしちゃいました」

「俺も」

「あたしも戦う気無くしちゃったぁ」

「私は元からこの子を傷付ける気なんてないよ」

 彩葉達は武器をリュックにしまってしまう。

「皆様、戦意喪失される憐みの状態にされちゃいましたね」

 摩耶が苦笑いで呟いた瞬間、

「いったぁい!」

「うぼぁっ」

「きゃんっ。痛いです」

「あいたぁ~っ! このイルカ、卑怯過ぎや」

 虹子以外のみんな、須磨海浜水族園イルカが尻尾で蹴り上げたボールで攻撃を食らわされてしまったと同時に元の精神状態へ。

「皆様、この敵は一撃で倒さんとさっきみたいになってまうで。皆様一斉に攻撃してや。炎はあかんで。さっき以上に悲しげな鳴き声上げちゃうから」

「イルカ、さっきの仕返しやっ!」

 彩葉はバット、

「イルカさん、かわいそうだけど倒しちゃうね」

星乃は手裏剣、

「こいつの顔は見ちゃいかんな」

 隆太はビジネスバッグ、

「イルカさん、申し訳ないです」

 千聡はメガホンで。

四人ほぼ同時に胴体を攻撃して消滅させた。

「やっぱり、かわいそう」

 虹子は涙をぽろりと流す。

「虹子様、こちらの世界に出た敵モンスターが消滅したということは、死んだわけやなくゲーム内に戻されたということやから、悲しまんといてや」

 摩耶はにっこり笑顔で慰めてあげた。

「ん? 星乃ちゃん、体調悪いのか?」

隆太は異変に気付くや優しく気遣ってあげる。

「あたし、ちょっと頭がくらくらして来たの」

 星乃は砂浜に座り込んでしまっていた。

「星乃、大丈夫?」

「星乃さん、熱中症になっちゃったみたいね」

 虹子と千聡は心配そうに話しかけた。

「そうみたい」

 星乃はしんどそうに俯き加減で伝える。

「炎天下で長時間戦っとったもんね。星乃、日陰に移動させたるよ」

 彩葉がおんぶしてあげようとしたら、

「星乃様、これ飲んでみぃ」

 摩耶はおいしい水六甲600mlペットボトルを差し出した。

「ありがとう摩耶お姉ちゃん」

 星乃は一気に飲み干すと、

「気分、すごく良くなったよ♪」

 瞬時に完全回復。

「よかったね星乃様。皆様、須磨の敵もさほど苦戦することなく退治出来とうから、そろそろ甲子園に向かって行きましょう」

みんなは須磨海浜公園をあとにし、最寄りのJR駅へ向かっていく。

途中で、

「皆様、三宮へ戻ったら、そこの敵ともう一度戦ってみてや」

 摩耶からこう勧められ、隆太達はJR三ノ宮駅到着後、また駅近くの人通りの少ない場所をぶらつくことに。

「全然痛く無いよ」

 彩葉は神戸コーヒーちゃんからまた熱々コーヒーをぶっかけられたが、ほぼノーダメージ。このあとカップ部分にバット一撃で消滅させた。

「確かにめっちゃ弱く感じる」

「武器がいらないね」

 隆太と星乃は神戸サンバ姉ちゃんを平手打ち一発で倒した。

「マカロンこまちは指でつついただけで倒せますね」

 千聡は五体で襲って来た色とりどりのマカロンこまちをあっという間に撃退。

「あーん、またスカート捲って来たぁ。やめてー。あっ、あれ?」

 虹子はゴーフるんをポンッと押しただけで消滅させることが出来た。

「よっしゃぁっ! アニヲタ君倒せたよ。お小遣いようさんゲットッ! ワタシの素早さが上がったおかげやな」

 彩葉はセンター街で神戸のアニヲタ君の姿を見かけるや、すぐに追いかけてGペンミサイルを投げつけ消滅させることが出来た。

レベルアップを実感したみんなは、阪神電車を利用して甲子園駅へと向かう。

甲子園球場の近くをぶらついていると、バットなどを手に持った背番号入りユニフォーム姿の敵数体と遭遇した。

「やっぱ高校球児がモンスター化されてたか」

「高校球児くん、背番号と容姿は違えどみんな体力は同じ44やで」

「うわっ! いきなり土を投げて来やがった」

 隆太は仏顔一八五センチくらいの一番背の高い一体から、顔面にぶっかけられた。

「甲子園の土攻撃、かなりきついやろ?」

 摩耶が問いかけた次の瞬間、

 土を投げた高校球児くんは隆太のかかと目掛けてスライディングしてくる。

「おぅわっ」

 隆太は弾き飛ばされた。

 時同じく、

「きゃっ、やっ、やめて」

「ええやんかお姉ちゃん」

「この子、酔っ払ってるよ」

 虹子はぽっちゃり体型丸刈りの一体にスカートを捲られキスまでされそうになる。

「やめてーな」

「きみ、ええ乳してるやん。うちの部のマネージャーになってよ」

 彩葉は一番背が低くグローブを右手に持った一体に胸を揉まれてしまっていた。

「おれのバット、きみの股間のミットにはめてやるよ」

「やめて下さぁい」

 千聡は厳つい顔つきの一体に馬乗りにされ服を脱がされかけていた。

「おいこら、何やってんだよ」

 隆太が攻撃しようとすると、

「あっちちぃ」

 別の一体にたばこの火を手の甲に押し付けられた。

「高校野球のお兄ちゃん、暴力はダメだよ」

「お嬢ちゃん、かわいいねぇ」

「きゃぁんっ」

星乃はそいつに抱きかかえられてしまう。

「おいっ、盗るなよ」

「これ、めっちゃ美味そうやん」

さらにもう一体にリュックを漁られ、隆太がアイテムに持っていた神戸プリンも奪われてしまった。

「飲酒、喫煙、強姦、窃盗、暴行は高校球児の五大要素やからね」

 摩耶は楽しげに伝える。

「真面目にやってる高校球児達に失礼だろ、このゲームの製作者。訴えられかねんぞ」

「高校球児くんの弱点は股間のバットやで」

「やっぱりそうなんや。ワタシ、筋肉質な男の子は嫌いやねん」

 彩葉は自分に抱き付いて来た高校球児くんの股間を蹴り上げる。

「ぐはっ!」

 一撃で消滅。

「高校野球のお兄ちゃん、盗みもダメだよ」

「のいて下さい。これ以上猥褻なことして来たら高野連に通報しますよ」

 星乃と千聡も同じようにして一撃で消滅させた。

「当てられねえ。動き速過ぎだ」

 隆太はビジネスバッグで残り三体の高校球児くん達の弱点を狙おうとするも余裕でよけられ、

「自分、文化部か帰宅部やろ?」

「ぐわぁっ!」

 一体から金属バットで腰を叩かれてしまった。隆太はあまりの痛みでその場に崩れ落ちる。

「隆太くん、これ食べて」

 虹子はすぐに駆け寄って神戸チーズで回復させに行く。

「隆太お兄さん、ワタシ達に任せてや」

 彩葉は黒インクを投げつけ、

「ぬわっ!」「おわっ!」「うおぉぉっ!」

高校球児くん全員に命中させ目をくらますことが出来た。

「悪い高校野球のお兄ちゃん達、お仕置きだよ」

 星乃の手裏剣、

「やっぱ高校球児は野球の道具で倒すべきやろ」

彩葉のバット、

「その方が本望なんじゃないかしら? わたしは野球の応援グッズで倒すわ」

 千聡のメガホンですぐに彼らの弱点を狙い、それぞれ一撃で全滅させた。

 バケツ一杯分くらいの甲子園球場の土と、ビニール袋を五枚残していく。

「このアイテムは高校球児くん倒したら高確率で手に入るで。皆様記念にどうぞ。ゲーム内の甲子園球場のやけどね」

「せっかくだし、貰っとくか。袋まで残すなんて気の利くとこあるな」

「そうですね」

「あたしも欲しい」

「私も持っておくよ」

「ワタシも記念に持っとこっと。リアル甲子園のより価値あると思うし」

 ゲーム内甲子園球場の土を袋に詰め、みんな再び歩き始めてほどなく、

「きゃぁぁぁ~、このおじさんが、スカート捲って来た」

 虹子はまた新たな敵に背後から襲われてしまった。

「姉ちゃん、ええケツしてんのう」

 虎柄の服と野球帽を身に纏っていた五〇代くらいのそいつは尚も虹子の尻を触り続ける。

「タイガースファンのモンスターかよ」

 隆太は思わず笑ってしまう。

「阪神タイガースおじさん、体力は甲子園の敵で最大の46。応援メガホン攻撃に注意してや。ちなみに大阪編の道頓堀付近にも出没するで。この敵はゲーム内プロ野球試合で阪神が負けると不機嫌で攻撃的に、勝つと上機嫌になるけどこれは明らかに上機嫌モードやから倒しやすいで。上機嫌モード時でも他の球団のグッズかざすと途端に不機嫌攻撃的モードに豹変するけどね」

 摩耶から説明され、

「そのキャラ設定もリアル感があるな」

 隆太はまたも笑ってしまった。

「メガホン攻撃してくる敵にはメガホン攻撃で対抗ね」

 千聡はメガホンで阪神タイガースおじさんの頭をぶっ叩く。

「ハッハッハ。お嬢ちゃんもタイガースファンか? おじさんめっちゃ嬉しいで。構ったろう。構って欲しいんやろ?」

「いや、いいです。きゃっ!」

 阪神タイガースおじさんは帽子を被っているためか、ほとんどノーダメージのようで、今度は千聡のお尻を撫でて来た。

「エッチなタイガースファンのおじちゃん、くらえーっ!」

「ぐはっ。涼しなったわ~」

「これならどうだっ!」

「ハッハッハ。パイ投げほどの威力はないなあ」

 星乃は水鉄砲と生クリームで顔面を攻撃する。

「しぶといおっちゃんやなぁ」

「ハハハッ。わいが昔甲子園の内野席で顔面に食らったファールボールよりは痛ないで」

 彩葉は手裏剣でさらに顔面を攻撃するもまだ倒せず。

「やめて、やめてー」

「お嬢ちゃん、逃げんでもええやん」

 阪神タイガースおじさんは元気いっぱいに虹子を追い掛け回す。

「タイガースファンはタイガースの選手だけ追いかけてろよ」

 ほとんど間を置かず隆太がビジネスバッグで背中を攻撃し、ようやく消滅した。

「高校球児くん以上に恐ろしい敵だったよ。本物の阪神タイガースおじさんも嫌いになっちゃいそう」

 虹子はホッと一息つくも、トラウマになってしまったようだ。

「鬱陶しさは今まで出遭った敵で最高レベルでしたね。ひゃっ、つめたぁいです」

 千聡は新たな敵にうなじを攻撃された。

「甲子園近くで冷たい敵っていうとあれしか思い浮かばんな」

 隆太が微笑み顔で呟くや、その敵がみんなの前に姿を現した。氷型だった。

「夏の甲子園名物、かちわり氷のモンスター、かちわり氷ん太郎や。体力は41。弱点は見るからに炎やで」

「いってててぇ。動き速過ぎだな」

 隆太のバット攻撃。何度振り回しても空振り。かちわり氷ん太郎に足に一発激突されてしまった。 

「ワタシもマッチ火、外してもうたわ」

「当たらないですね」

 彩葉と千聡も苦戦する。

「やったぁ! 当たったぁ!」

 星乃のヨーヨー攻撃が見事命中し、かちわり氷ん太郎消滅。

 しかし次の瞬間には、

「ぐぉわっ!」

 隆太が何者かに蹴り飛ばされていた。

「隆太くん、これを」

 すぐさま虹子が源平せんべいで回復させに行く。

「この男の子、弱ぁっ。きっと文化部か帰宅部ね。野球部以外の男は本当ダメね」

 みんなの目の前に現れたのはポニーテールヘア、ノースリーブのトップス、ミニスカート姿で両手にポンポンを持った高校生くらいに見える少女だ。嘲笑いながら隆太を眺めていた。

「甲子園チアガールちゃん、体力は34で甲子園の敵じゃ一番低いけど運動神経抜群。キック力は甲子園の敵で最大やで」

「ほんま、すごいキックやね。うさぎ柄のパンツ丸見えやったよ。うごぅぁっ! がはっ」

 彩葉も腹を蹴りを食らわされた。

「あなたはどんな柄のパンツを穿いてるのかしら?」

 甲子園チアガールちゃんはくすっと笑う。

「この子、蹴り、強過ぎやっ!」

 彩葉はうずくまって腹を両手で押さえる。

「彩葉、早くこれを」

 虹子は子もちたこ最中で回復させた。

「くらえーっ!」

 星乃は甲子園チアガールちゃん目掛けてマッチ火を投げつけるも、

「効かないわよ」

 足で踏み潰され消されてしまった。

「これは、逃げた方がいいかもですね」

 千聡はちょっぴり怯えながら意見する。

「絶対その方がいいと思う」

 全快した隆太は苦笑いで意見した。

 その直後、

「姉ちゃん、ええケツしてんのう。肉付きええわ~。何かスポーツやってんの?」

「ひゃぁっ! 痴漢っ! やめてぇぇぇぇぇぇぇ~。このおじさん怖ぁぁぁい」

 何者かに背後からお尻を撫でられたチアガールちゃんは、涙を浮かばせて慌てて逃げ出してしまった。

「待ってーな。今夜、おじさんといっしょに阪神タイガース優勝祈願にディナーでも」

 追いかけていくのは、阪神タイガースおじさんだった。

「阪神タイガースおじさんと甲子園チアガールちゃん、ゲーム上でも同時に現れると共に逃げるようになっとんよ。高校球児くんとならタッグ組んでさらにやばい状況になってたで」

 摩耶は楽しげに伝える。

「助かったな。あの子、阪神タイガースおじさん蹴り飛ばすと思ったけど」

 隆太は呆れ気味に笑う。

「メンタル意外と弱そうやね」

 彩葉はにやけた。

 その直後、

「がはっ!」

 隆太は猛スピードで北西に向かって横切った何者かに追突され、五メートルほど弾き飛ばされてしまった。

「何や今の? 何か通ったよな?」

「大学生くらいのお兄ちゃんがすごい速さで走っていった気がする」

「わたしも一瞬見えたわ。新幹線より速かったも。甲子園球場の外壁すり抜けたような」

 あまりに一瞬の出来事に彩葉、星乃、千聡もぽかんとなった。

「うっ、動けねえ」

 隆太はうつ伏せで苦しがる。

「隆太くぅん、大丈夫!?」

 虹子は慌てて駆け寄りカマンベールチーズケーキを与えた。

「まあ、なんとか。さっきのはやばかった。意識が飛びかけた」

 隆太は苦い表情で伝え、ゆっくりと立ち上がる。

「まだ全快じゃないみたいだね」

虹子はさらにウミガメメロンパンを与えた。

「隆太様、先ほどは不運にも西宮市内随所に出没するレア敵、体力41の一番福男に追突されちゃいましたね。もう一段レベルが低かったら確実に体力0の気絶状態になってたで」

「西宮神社で毎年一月十日の早朝にやってるあれかぁ」

 隆太はようやく体力全快。

「ゲーム上でも遭遇した瞬間、主人公らに猛スピードで追突して大ダメージ与えて、西宮神社の方向に走り去っていく厄介者やで。路上やったらアニヲタ君、声ヲタ君以上に倒すんが難しいで。簡単な倒し方は西宮神社の本殿で待ち伏せして疲れ切った状態を狙うことやねん。でも倒したところで何も良い事起きんよ。強敵にも拘らず経験値もお金も増えんしアイテムも貰えんで。戦うだけ無駄や」

 摩耶は得意げに攻略法などを伝えた。

「一番福じゃなくて一番厄ね」

 千聡はにこにこ顔で突っ込む。

「リアルなのは西宮神社の表大門から本殿までしか走らないんだけどなぁ」

 隆太は苦笑いした。

「ぃやぁーんっ、降ろしてぇぇぇ~」

 その直後に虹子の悲鳴。

「お嬢さん、いい肉付きだね。特に太ももとお尻のところ。香りもベリーグッド♪ フライせずにそのまま生でかぶりつきたいものじゃわい」

 全身薄汚い灰色で至る箇所剥げて白くなっている、背丈一八〇センチくらいの小太りお爺さんの人形型モンスターに肩車されていた。

「あーっ、あのおじいちゃんだぁ!」

「おう、ケン○ッキー阪神甲子園店に飾られとったあいつやん」

「道頓堀川に二十四年間沈んでいた、あのカーネル・サンダース人形さんがモンスター化したのね」

「こんなのまでゲーム上でモンスター化されてたんだな。虹子ちゃんを降ろしてやれ」

 星乃達四人は思わず微笑んでしまう。

「ゆかりの地ってことで甲子園のご当地敵に設定した、道頓堀出身の呪いのカーネル・サンダース人形。体力は45。防御力は甲子園の敵で最大やで。パンチ、キック、タックル、熱々フライドチキンの投げつけ攻撃に注意してや」

「お嬢さん、これからわしといっしょにデートしよう。ディナーには特製のカンタッキーフライドチキンをご馳走するよ」

呪いのカーネル・サンダース人形は虹子のお尻に頬ずりしながらにこにこ顔で言う。

「やめて、やめてぇーっ! ザラザラするよぅ」

 虹子はにこにこ笑ってはいるが、かなり嫌がっている様子がよく分かった。

「いい加減降ろしてやれ」 

 隆太がビジネスバッグで腰を攻撃すると、

「いててて」

 呪いのカーネル・サンダース人形は両手を虹子の膝から放し腰に当てる。

「んっしょ。あ~、怖かったぁぁぁ」

虹子はその隙に顔を飛び越えて自分で降りた。

「お坊ちゃん、邪魔するなよっ!」

「あっつぅ。いってぇっ。辛ぁっ。めっちゃ美味いけど。リアルの以上に」

 隆太は呪いのカーネル・サンダース人形から顔面と腹部に骨&ハバネロソース付き熱々フライドチキンを合わせて十本近く投げつけられた。けれどもさほどダメージにはならなかったようだ。

「おっちゃん、食べ物粗末にしたらあかんで。これでも食らいや」

「ぐおぉぉぉっ。目が」

 彩葉は黒インクを顔面に投げつけた。呪いのカーネル・サンダース人形のお顔は真っ黒に。

「とりゃぁっ!」

「アウチッ!」

星乃はヨーヨーで顔面に攻撃を加える。

「これでとどめさせるかな?」

千聡がマッチ火を投げつけると、

「ぐわあああああっ。直火焼きにするなんて、わしを道頓堀川に投げ込んだ連中以上にひどいお嬢さんじゃ。せめてフライにして欲しかったものじゃわい」

 呪いのカーネル・サンダース人形はこう言い残して、ついに消滅。

「なんか、本当に呪われそうで怖いです」

 千聡は苦笑いで呟いた。

ともあれ、みんなは阪神甲子園駅へ戻っていく。

「あのおじさん、また出たよ。嫌だなぁ」

 駅近くの路上で虹子が発見すると、

「あの阪神タイガースファンにあるまじきエッチなおっちゃん、ワタシがやっつけるよ」

「あたしもやるぅ」

 彩葉と星乃は武器を構えて楽しそうにそいつのもとへ駆け寄っていく。

「とりゃぁっ!」

 彩葉はバットで背中を、

「おじちゃん、くらえーっ!」

 星乃はヨーヨーで肩を一発攻撃した。

「いたたたぁ。こらっ、お嬢ちゃん、何するの?」

「まだ消えないか。攻撃力足りんかったようやね」

「もう一発叩けば消えそう」

「あのう、この方は本物の阪神タイガースおじさんみたいやで。人型の敵は本物と見分けつきにくいんもおるねん。リアルのを参考にしてデザインされとうゆえ」

 摩耶が苦笑いして呟くと、

「えっ!? すっ、すみませんでしたぁ」

「おじちゃんごめんなさーい」

 彩葉と星乃は慌てて謝罪。

「いや、ええんよ。なんか今朝からこの辺りにタイガースの応援衣装で若い女に猥褻な行為をするけしからん輩が出とうって聞いとうし。お嬢ちゃん達はわいがその者と思ったんやろ? じゃあ、嬢ちゃん達も気ぃつけてな」

 リアル阪神タイガースおじさんはハハハッと笑って快く許してくれ、甲子園球場の方へ足を進める。

「間違いなく敵モンスターの阪神タイガースおじさんのしわざやな」

「ついに一般人にも直接被害受けたやつが出たわけか」

「神戸市内の商店で、商品が誰かに入られた形跡もなく持ち出される不可解な現象が相次いでるみたいよ。アニメイトととらのあなさんも被害に遭ったみたいやけど、それはきっとアニヲタ君、声ヲタ君のしわざやろうね」

彩葉は自分のスマホをネットに繋いでローカルニュースと関連記事を確認する。

「泥棒もやってる敵モンスターさんは、あたし達が懲らしめなきゃいけないね」

「わたし達、使命感がさらにふくらみましたね」

ますます戦意の高まった星乃と千聡に対し、

「敵モンスターさん達、大人しくしてて欲しいものだよ。私達にも襲い掛からないで欲しいよ」

 虹子は困惑顔でこう願うのだった。

      ※

甲子園→今津→西宮北口を経由して阪急宝塚駅へ辿り着いたみんなは、宝塚大劇場とを結ぶ遊歩道、通称【花のみち】を歩き進んでいく。

「俺、宝塚は何回か家族で来たことあるけど、歌劇よりも手塚治虫の記念館の方が面白いなって感じたよ」

「隆太様はやっぱ男の子やね。ゲーム内宝塚歌劇も女性に人気で男のファンは少ないで」

「あたしも家族で来た時、歌劇より手塚治虫の記念館の方がずっと面白いって感じたよ」

「ワタシもそう思ったで」

「私は、どっちも楽しいなって感じたよ」

「わたしもです。あら、あれは、雰囲気的に本物じゃなさそうね。目つきがわたし達を狙ってるようだし、少し中に浮いてるし」

 レオタードや浴衣、着物、グレーの制服、ドレスといった華やかな衣装を身にまとったスタイルの良い女性型モンスターが数体、みんなの方へ近づいて来た。

「敵やで。宝塚歌劇少女、体力はどの容姿のでも48や。大人っぽい風貌の方はイーブルタカラジェンヌでどれも53。どちらも多彩な技使ってくるから気を付けてや」

「宝塚音楽学校の生徒やタカラジェンヌをモンスター化するなんて、本物から訴えられかねんな。このゲームの製作者」

 隆太はさっそくビジネスバッグでレオタード姿のタイプに立ち向かっていく。

「身体能力、甲子園チアガールちゃん以上だな。うぉっあっ!」

 しかしひらりとかわされてしまい、隆太はパチーンと平手打ち攻撃を食らわされてしまった。 

「男みたいな宝塚のおばちゃん、食らえーっ!」

「彩葉さん、男役と言うべきだと思うわ」

 星乃はヨーヨー、千聡はメガホン攻撃を試みるも、余裕でかわされてしまう。

「よっしゃぁっ! 当たったで」

 彩葉はグレーの制服姿のお淑やかそうな一体のお顔に、官兵衛ワイン白をぶっかけることが出来た。

「おほほほ、あはははははっ!」

 すると頬を赤らめて笑い出し、ふらふらしながら自分で自分を攻撃して自滅したのだ。

「ありゃまっ」

 彩葉は拍子抜けしたようだ。

「酩酊状態になっちゃうと、自分で自分を攻撃したり仲間を攻撃したりして自滅する場合もあるねん」

 摩耶は微笑み顔で伝える。

「それはええこと聞いたわ。そっちもこれ食らいや」

 彩葉はオスカル型のもう一体のお顔にもぶっかけた。

「ふふふ」

 そのお方に嘲笑われてしまう。

「大人の方には効かんかぁ」

 苦笑いした彩葉は、そのお方にスミレの花を鼻に近づけられた。

「彩葉様、早く離れてっ!」

 摩耶は警告するも、間に合わず。

「めっちゃええ匂いやぁ~。あひゃひゃ」

 彩葉は途端にうつろな目つきに変わり、ふらふらしながらバットで自分を攻撃した。

「彩葉様が、混乱状態に」

「彩葉、しっかりして。きゃん。いたぁい」

 虹子は彩葉から膝にバット攻撃を食らわされてしまう。

「虹子様、そのうち自然に戻るので。今、彩葉様に近づくと危険やで」

「彩葉ぁ、早く元に戻って。あっ、服脱いじゃダメだよ」

「ぐぉっ、この敵、強過ぎる」

 隆太は背丈一七五センチくらいはあるアンドレ型のタイプから蹴りと、手に持っていたバラの棘で攻撃されてしまう。顔や腕から血がけっこう出て体力もかなり減っていた。

 追い討ちをかけるように、

「あらごめんなさい」

「邪魔よ庶民くん」

「ぐわぁっ!」

 宝塚歌劇少女二体に隊列行進で突進され弾き飛ばされてしまう。 

「きゃぁん、いったぁいです」

「きゃんっ、あたしも蹴り飛ばされちゃった」

 星乃も千聡も日舞とバレエの華麗な舞いで弾き飛ばされてしまった。

「ラ~ラララ♪ ラララララァァァ」

 宝塚歌劇少女の一体が突如歌を口ずさみ出す。

「何だこの声は。精神がおかしくなりそうだ」

「あたしは眠くなって来たぁ」

「わたしは、涙が止まりません。ずっと聞いていたいです」

「私もだよ。この歌、すごく心を動かされるよ。なんて素晴らしい曲なのっ!」

「宝塚歌劇少女の歌唱は眠りや混乱、戦意喪失の感動状態にさせる力があるで。皆様、耳を塞いで聞かないように」

「虹子お姉ちゃぁん、早くヴァイオリンの騒音で蹴散らしてー」

 うとうとしかけていた星乃から頼まれると、

「わっ、分かった」

 虹子はすぐにヴァイオリンの弦を引く。

 相変わらずのひどい音色が周囲に流れるが、

「あれ? 全然効いてないよ」

 宝塚歌劇少女、イーブルタカラジェンヌ共に皆、全く怯んでいないようだった。

「虹子様、残念ながら、宝塚歌劇少女とイーブルタカラジェンヌは他者の出す騒音雑音くらいじゃびくともせんで」

 摩耶から苦い表情で伝えられた。

「それじゃあ、絶対勝てそうにないよ。みんな逃げよう!」

 虹子は顔を強張らせながら叫ぶ。

「皆様、うちに任せてや。宝塚歌劇少女とイーブルタカラジェンヌの身動きを封じる取って置きの技があるねん」

摩耶は自信たっぷりに伝えると、リュックから阪急電鉄の模型を取り出した。

すると、宝塚歌劇少女とイーブルタカラジェンヌは皆、攻撃の手をぴたりと止めたのち、一糸乱れず一堂にそれに向かってお辞儀したのだ。

「この敵はこれでもう何も出来へんよ。皆様、容赦なく攻撃しちゃってや」

「こんな弱点があったのですね」

 千聡はちょっと躊躇いつつもメガホンで背中を攻撃。

「くらえーっ!」

 星乃は手裏剣、

「この敵、手強過ぎたわ。歌劇だけに火撃やっ!」

 元の精神状態に戻った彩葉はマッチ火で攻撃。

「かなり罪悪感に駆られるな」

 隆太はビジネスバッグで背中を叩きつけ、全滅。

 歌劇まんじゅう、人形焼、ローズケーキ、乙女餅。

計四つの回復アイテムを残してくれた。

「これのように一見戦闘の役に立たんアイテムでも、役立つこともあるねんで」

 摩耶が阪急電鉄の模型を手に持って自慢げに言った直後に、

「ぃやぁーん、ここにもエッチな敵が」

 虹子は直径三〇センチくらいの黄褐色焼型紋様付き円盤型の敵数体にスカートを捲られた。

「炭酸せんべいくんは有馬温泉にも出る体力17の雑魚やで。皆様の今のレベルなら武器使わんでも楽に倒せるよ」

「離れて、離れてぇぇぇ」

 虹子がつかんで投げ捨てるとすぐに消滅した。炭酸せんべいを残していく。

 時同じく、

「こっちの敵はけっこう強いぞ」

「いったぁい。鳥さんやめて」

「あん、耳噛まないで下さい」

「ぎゃっ、腕引っかかれた。この爪の威力強烈過ぎや」

 ホォォォォォォォ、ホケキョッ! ホケキョッ!

 チッ、チュイ、チュイ、チュイイイッ!

 隆太達は体長五〇センチくらいのウグイスと七〇センチくらいのセキレイのモンスターに襲われていた。

「宝塚ウグイスは体力40。宝塚セグロセキレイは44。宝塚歌劇の敵に比べたら攻撃力も防御力も瞬発力も低い雑魚やで」

 摩耶は伝える。

「確かにあの敵よりはかなり弱いな」

 隆太はビジネスバッグ、

「くらえーっ!」

 星乃は水鉄砲、

「手塚治虫さんの出身地にちなんで、リアル火の鳥にしたるわ~」

彩葉はマッチ火、

「宝塚市の鳥さんがモンスター化したのね」

 千聡はメガホンで攻撃して全滅させた。

 その時虹子は、

「きゃぁぁぁっ、巨大な昆虫さんがいっぱいまとわりついて来たぁ」

 リアルで通常見かける倍以上のサイズはあるカブトムシ、クワガタ、とんぼ、アゲハチョウ、テントウムシなどに追われ逃げ惑っていた。

「手塚治虫の愛した昆虫達。体力は14から37まであるけどこれも雑魚やで。ゲーム上では一回の戦闘につき八種類くらいで襲ってくるで」

「さすがに手塚治虫の作品に登場するキャラをモンスター化させることは著作権的に出来なかったか。ビジネスバッグじゃ当たりにくいな」

 隆太はマッチ火、

「虹子お姉さんの昆虫を引き付ける力はすごいわ~。手塚治虫さんに敬意を表してこれで攻撃しよっと」

 彩葉はGペンミサイル、

「ペットにしたいなぁ」

 星乃は水鉄砲で攻撃していく。

「わたしは標本にしたいです。倒すのが勿体ないかも」

 千聡は攻撃を躊躇ってしまった。

 とくに苦戦することなく全滅させた後、みんなは引き続き手塚治虫記念館付近を散策していると、

「フォフォフォ、皆の者、良くここまで辿り着いたな。若い娘さんがようけおって嬉しいわい。男主人公一人だけで来るゲーム内での標準進行より、こっちの方がずっと良いわ」

 白髪白髭、老眼鏡をかけた作務衣姿の仙人風なお爺ちゃんに遭遇した。

「エロそうな爺ちゃんやね」

 彩葉はそのお方の風貌を見てにっこり微笑んだ。

「フォフォフォフォッ。わしは小学生の女子(おなご)が一番の好みなのじゃよ」

 お爺ちゃんはとても機嫌良さそうにおっしゃる。

「ロリコンなんかぁ。見た目通りやね」

「あたしが好きなの?」

 星乃がぴょこぴょこ近寄っていこうとしたら、

「星乃、このお爺ちゃんに近づいちゃダメだよ。エッチなことされるからね」

「そんなことしないよ」

「いや、しそうだよ」

 虹子に背後から掴まえられた。

「このお方は学問仙人といって、対戦避けることも出来るねんけど、戦った方が後々の旅で有利になるかもやで」

「学問仙人のイベントうざ過ぎってレビューに書かれてたけど、兵庫編で早くも遭遇するんだな」

 隆太は興味深そうに学問仙人の姿を眺めた。

「敵モンスターやけど、倒せば味方になってくれるで。主人公達に学力向上を授けてくれるいいお方よ。小学生の女の子の中でも、勉学に励む子が特に好きやねん」

「ホホホッ。わしはゲーム内でも兵庫県内、それどころか日本で最も入学難易度が高いといわれる、宝塚音楽学校付近に登場するのじゃ」

「宝塚音楽学校は確かに入学は大変難しいですが、学力的に最難関なのは灘ですよね」

 千聡はすかさず指摘する。

「わしもそう思うのじゃが、灘は男しかおらんからのう。女の園の方がいいわい。もっと欲を言えば、神戸女学院中学部付近に登場するという設定にして欲しかった。そっちの方が宝塚音楽学校よりも若い娘さんが多いからのう」

 学問仙人はホホホッと笑う。

「やっぱロリコン仙人やん」

 彩葉はすかさず突っ込んだ。

「そこの星乃と申されるお嬢ちゃん、わしに勝負を挑んでみんかのう?」

「やる、やるぅ」

「星乃、危ないからダメだよ」

「小学生の星乃様では、まだ無理やと思うで」

「戦いたいんだけどなぁ」

「わたしがやりますっ!」

 千聡が率先して学問仙人の前に歩み寄った。

「ショートがよくお似合いのお嬢さんは、東大志望かのう?」

 学問仙人が問いかける。

「いいえ、わたしは京大第一志望よ」

 千聡はきりっとした表情で答えた。

「そうか。まあ京大でもいい心構えじゃ。戦いがいがあるわい。それっ!」

 学問仙人はいきなり杖を振りかざした。

「ひゃっ!」

 千聡は強烈な突風により吹っ飛ばされてしまう。

「想像以上に強いな。このエロ爺」

 隆太はとっさに千聡から目を背けた。

「きゃんっ!」

服もビリビリに破かれて、ほとんど全裸状態にされてしまったのだ。

「なかなかのスタイルじゃわい」

 学問仙人はホホホッと笑う。

「立ち上がれないわ。かなり、ダメージ、受けちゃったみたい。痛い」

 仰向けで苦しそうに呟く千聡のもとへ、

「大丈夫? 千聡ちゃん、これ食べて」

 虹子はすぐさま駆け寄り、神戸生チョコレートを与えて回復させた。けれども服は元に戻らず。

「学問仙人、攻撃もエロいね。ワタシも協力するよ」

「エッチなお爺ちゃん、くらえーっ!」

 彩葉はバット、星乃は水鉄砲を構えて果敢に挑んでいく。

 しかし、

「ほいっ!」

「きゃわっ! もう、ほんまにエッチやわ」

「いやーん、すごい風ぇー」

千聡と同じように攻撃すらさせてもらえず杖一振りで服ごと吹っ飛ばされて、ほとんど全裸状態にされてしまった。

「彩葉も星乃も大丈夫?」

「平気よ、虹子お姉さん」

「あたしも、大丈夫だよ」

「すごく苦しそうにしてるし、そうには思えないよ」

虹子は心配そうに駆け寄り、子もちたこ最中で全快させてあげた。破かれた服はやはり戻らず。

「一応、やってみるか」

 彩葉と星乃のあられもない姿も一瞬見てしまった隆太も、ビジネスバッグを構えて恐る恐る立ち向かっていったが、

「それっ!」

「うおあっ!」

 やはり杖の一振りで吹っ飛ばされ大ダメージを食らわされてしまった。けれども服は一切破かれず。

「男の裸なんか見たくないからのう」

 学問仙人はにっこり微笑んだ。

「隆太さん、相当効いたでしょう? これ食べて元気出して下さい」

「ありがとう、桃尾さん」

 明日用の替えの服を着た千聡は子午せんで隆太を全快させてあげた。

「次は、お嬢さんが挑んでみんかのう?」

「いいえけっこうです!」

 学問仙人に微笑み顔で誘われた虹子は、青ざめた表情で即拒否した。

「このエロ爺、とんでもない強さや。これは倒しがいがあるわ~」

「中ボスの力じゃないよね?」

 彩葉と星乃は圧倒されるも、わくわくもしていた。

「どうやっても、勝てる気がしないわ」

 千聡は悲しげな表情で呟く。

「この仙人、見た目のわりに強過ぎだろ。どうやって倒すんだよ?」

 隆太は彩葉と星乃のあられもない姿を見ないよう視線を学問仙人に向けていた。

「ホホホ、まあ今のお主らには勝てんじゃろうな。けどわしも鬼ではない。お主らにわしにハンディを与えさせてやろう」

 学問仙人はそう伝えると、数枚綴りの用紙を隆太に差し出して来た。

「これ、テストか?」

「学問仙人はデフォルトじゃかなり強いけど、学問仙人が出すペーパーテストの正答率と同じだけ攻撃力、防御力、体力も下がるねん。例えばこれに六割正解すれば、デフォルトの能力値から六割減になるねんで。ちなみにゲーム上ではネット検索対抗で一問当たり三〇秒の制限時間が設けられとうよ」

 摩耶は解説を加えた。

「相当難しいのばかりじゃから、お主ら程度の頭脳じゃ三割も取れんと思うがのう。三割取れたところでまだまだわしには通用せんじゃろう」

 学問仙人はどや顔でおっしゃる。

「確かに難し過ぎだな。マニアックな問題が多いと思う。高校生クイズの地区予選のよりも難しいんじゃないか?」

 隆太は苦笑いした。

 たまねぎを切った時、涙が出る原因となる物質は? 

漫画『やけっぱちのマリア』の著者は誰? 

 兵庫県内にある次の地名の読み仮名を記せ。【宍粟】【椒】【木器】。

などの一問一答雑学問題が特に多く出題されていた。

「あたし一問も分からないよぅ」

「ワタシもや」

「彩葉ちゃん、星乃ちゃんも、服破けてるから」

 前から覗き込まれ、隆太はもう片方の手でとっさに目を覆う。

「すまんねえ隆太お兄さん、すぐに着てくるわ~」

「この格好でいたらお巡りさんに逮捕されちゃうね」

 彩葉と星乃は自分のリュックを置いた場所へ向かってくれた。

「私も、ちょっとしか分からないよ。三割も取れないと思う」

 虹子もザッと確認してみて、苦い表情を浮かべる。

「それならわたしに任せて」

 千聡はシャーペンを手に持ち、楽しそうに解答を記述し始めた。

 全部で百問。一問一点の百点満点だ。


「どうぞ」

千聡は三〇分ほどで解答を終え、学問仙人に手渡した。

「ホホホ。かなり自信のようじゃが……うぬっ! なんと、二問ミスしただけの九八点じゃとぉっ! ネットで調べる素振り見せておらんかったのに」

 学問仙人は驚き顔で呟く。

「千聡様。さすが賢者。大変素晴らしいで。どこにでもいるごく普通の高校生なら三割取れれば上出来なこの超難問テストで九割八分の正解率を叩き出すなんて。学問仙人、能力値九割八分減で神戸サンバ姉ちゃん並に弱くなったと思うで」

「本当か? 姿は全然変わってないけど」

 隆太は少しにやけた。

「いや、わしの強さは全く変わってないぞよ」

 学問仙人は自信たっぷりに杖を振る。しかし先ほどのように風は起きなかった。

「明らかに弱くなってますね。学問仙人さん、わたし達に風でエッチな攻撃した仕返しよ」

 千聡はうちわで学問仙人を思いっ切り扇いだ。

「ぐええ! まいった」

 学問仙人は数メートル吹っ飛ばされてしまい、あえなく降参。

「能力値極端に下がり過ぎだろ」

 隆太は思わず笑ってしまう。

「お見事や」

「千聡お姉ちゃん勝ったんだね」

「楽勝過ぎて拍子抜けしちゃいました。服も戻ってよかったです」

 彩葉、星乃、千聡の破かれた服も瞬く間に元通りに。

「ホホホッ。皆の者、今後の旅、健闘を祈るぞよ。これを持って行きたまえ」

 学問仙人はみんなに学力向上のお守りを一つずつ手渡すと、ポンッと煙を上げて姿を消した。

「なんか、急に頭が冴えて来た気がするわ~」

「俺も」

「私も」

「わたしもですよ」

「あたしもすごく頭が良くなった気がする。勉強しなくてもテストで楽に百点取れそう」

「皆様、お疲れ様でした。もう夕方やから、このあと丹波篠山に移動したら宿を決めましょう」

「行楽シーズンの丹波篠山で六人も泊まれるとこあるのかな? 連休中だしどこも埋まってそう」

 隆太は少し心配になった。

「篠山口駅からちょっと遠いけど、篭桜(かござくら)旅館は空室があるみたいよ。食事付きで高校生以下は一人当たり一泊一万三千円だって。六名以上だと団体割引で一万千円よ」

「それでも高めやけど全部屋露天風呂付き客室なんかぁ。千聡お姉さん、ここにしよう!」

「ゲーム機とソフトも備えてあるのっ!? あたしもここがいいな♪」

「私もー」

「ええ場所にあるね。うちもここがええわ~」

「ではしておきますね。わたしもすごくいいなって思ったの」

 千聡はスマホのネット画面を閉じると、さっそくその旅館に電話予約。

「ゲーム上でも事前予約してへんと、宿に泊まれん場合もあるで」

「そこもリアルさがあるな」

 隆太はそのシステムも余計だなっと感じたようだ。

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