屑箱ハーモニー
(平凡×平凡)
掃除当番になって、焼却炉にゴミを捨てに行った。
ふと、そのゴミに視線を向けて、こいつらは『燃えるゴミ』という統一されたゴミなんだと思った。
統一されたゴミとは、なんとも笑える。
ゴミはゴミでも、この『燃えるゴミ』の中に『燃えないゴミ』が混じっていたら、嫌な顔をされるのだ。
それは、統一されていないことへの不満よりも、ルールを守らないことへの不満の方が大きい。
なんでこんなことで真面目に考えているのか、自分でも分からない。
でも、確実に分かるのは、自分が今なぜ皮肉に笑っているかだ。
「この学校も、ゴミ箱と一緒だなぁ…っ」
燃えるゴミの中で、燃えないゴミはよく目立つ。
それは、まるで今のアイツのようで。
数日前まで親友だった、アイツのようで。
平凡を愛するあまりに、悲劇のヒーローに酔ってしまったアイツのようで。
「好きだったのは、平凡さじゃなくて、優しさでもなくて、笑顔なんかでもなかったよ。」
お互い、この不良ばかり集まる最低の男子校に運悪く入学した。
不良ばかりの新入生の中で、平凡極まりない俺達は浮いていた。
奇しくも同じクラスになって、クラスメート達にパシラれながら、友達になった。
半年も経てば、親友になっていた。
そんな時に、アイツが現れた。
この学校を占めている不良の頭で、どっかのチームの総長様が現れた。
そして、アイツがビビっているのをいいことに、無理矢理恋人にしてしまった。
『菖蒲っ……お、俺嫌だ。無理矢理恋人にされても困る。周りにも反感買って、殴られるし。俺、どうしたらっ』
その姿は、燃えるゴミの横に置かれた、燃えないゴミだと思う。
総長様がアイツに惚れた理由は、笑顔らしい。
アイツの笑った顔に一目惚れだったのだそうだ。
笑える。
「バカだねぇ」
焼却炉の中で燃えるゴミを眺めながら、俺は俺でアイツのどこが好きだったのか思い出していた。
そして、振り返った。
「そりゃあ綺麗でしょうよ、『恋人に笑いかける顔』なんて。」
振り返った先には、総長様が立っていた。
丁度真上の屋上から、アイツの金切り声が響いていた。
俺は、決して見上げなかった。
俺達は、きちんと燃えるゴミだった。
このゴミ箱のような学校で、パシりという配分をこなしていた。
親友に告白されて、恋人になったところで、それは変わらなかった。
なのに、総長様がそのルールを破った。
そして、アイツは……俺が好きだったアイツじゃなくなった。
「お前がいると、アイツの気が散るらしいんだ。だから、目障りなゴミを燃やしに来た。」
「ハハハ……ゴミがゴミにケンカ売りに来たんスか。馬鹿馬鹿しい…ほんとに。ほんとに、バカだ。あんたも、俺も、アイツも、全部何もかも。」
真上から聞こえる叫び声が、終末のラッパ音のように感じて、苦笑も消えた。
綺麗な顔の総長様に、俺は淀みなく言う。
「俺が好きだったのは、俺のために世界を敵に回してもいいと言ってくれた気持ちだった。」
理解されがたい同性愛に、立ち向かおうとしてくれた勇気だったから。
臆病なくせに、俺のために振り絞ったその強さが、好きだった。
「だから、総長様に面と向かって『付き合わない』って言えないアイツなんか、臆病者のアイツなんか」
総長様がツカツカ近づいてきて、俺の胸ぐらを掴んだ。
怖くて怖くて死にそうなのに、俺はどうしても口を閉じられなかった。
謝る気も、許しを乞う気も起こらなかった。
「だいっきらいだ」
例えば、この拳が俺にどんな後遺症を残したとしても。
俺は、きっと、この結末を恨むことすらないだろう。
『好きだよ、菖蒲』
全てが、スローモーションに映る。
迫る拳が、走馬灯を乗せているみたいだ。
アイツの断末魔が耳鳴りになって頭上で響く。
恐怖心の波は、俺を押し倒す。
その混乱か、目の前の美しい顔が、裁きを降す天使に思えた。
痛いのは嫌だな…
怖いな…
バカだな…
だけど、やっぱり。
『菖蒲が笑ってくれたら、それでいいや!』
俺は笑った、心から。
例えば。
お前が、あの日。
いっしょに戦ってくれ、と言ってくれていたならば。
俺は、喜んで、『燃えないゴミ』になっただろう。
「好きだ、章吾」
燃える焼却炉の中で、何かが弾ける音を聞いた。
きっと、燃えないゴミが混じっていたのだろう。
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