第18話 最終試験(2)


 互いを目線で牽制し合う俺とイーサ、しかし俺の内心は焦りに焦っていた。


 や、やべぇぞコレ、緊張し過ぎて全然作戦を考えることができん!


 (あ、慌てるでないルクス!我は何度か精霊魔法の使い手と戦ったことがある。その時は瞬殺だったからあんまり覚えておらんが……

 どうやらイーサ殿はまだ風の微精霊としか契約しておらん。よって精霊によって供給される風以外の魔力はそこまで無いということだ!)


(イーサのステータスを表示します。)


イーサ

レベル 25

総合階級 2級

個別階級 精霊魔法

(火魔法 3級 水魔法 3級

風魔法 1級 雷魔法 3級)

備考 風の微精霊契約者


 (元のスペックが高い上に、風の微精霊と契約を結んだことにより風魔法が凶悪さを増しました。

 ルクスに勝機があるとすれば、精霊魔法の使い手は契約をしていない魔力の絶対量が比較的少ないことでしょう。逆に言えばそれしかありませんね!ファイトです。)


 頼みの綱であるクロナとナビから、心許ないイーサ攻略のアドバイスが伝えられた。


2人ともありがとう、イーサ姉ちゃんが強過ぎることを俺に教えてくれて。ま、じゃあとりあえず持久戦に持ち込むとするか!


 早速せっこい作戦を考える俺。そして遂に戦況を動かし始める。


 (今こそ我が教えた魔力のコントロールをみんなに見せてやれ!)


 おう、やってやる。覚悟しろよイーサ姉ちゃん!


「イーサ姉ちゃんには悪いけど、こっちから行かせてもらうぜ!『闇分身』行っけぇぇ!!」


 ルクスは普段の訓練の成果を発揮することで自身の黒い魔力を使い、影のような分身を2体創り出した。そしてその2体をイーサの元に向かわせる。


「魔力のコントロールが上手くなってる、やっぱりルクスは努力家だね!でも私だって負けてられないんだから!」


 イーサ姉ちゃんは2体の分身に向かって迷わずウインドストームを放つ。イーサ姉ちゃんもまた、年間の努力によって当然のように4階級のストーム系魔法を無詠唱で撃てるようになっていた。


 ウインドストームか、やっぱ前より威力上がってんなぁ!でも、そう来ると思ったぜ!!


 猛烈な風の刃が、俺の創った2体の分身に炸裂する。と思った瞬間、ウインドストームが真っ黒に染め上げあげられた。


「わ、私が撃ったウインドストームのコントロールが奪われた!?どういうことなの?」

「イーサ姉ちゃんにもこれはちょっと内緒だよ!」


 (上手いぞルクス!その調子だ!)


(油断は禁物です。相手に風以外の魔力を使わせることを最優先にしてください。じゃないと勝率0ですよ。)


 クロナと違ってナビがなんか辛辣なんだけど。ていうか、ふと思ったんだけどお前も絶対クロナみたいな俺の中にいる系の奴だろ?


(分かりません。)


 あっそ、まぁいいか。じゃあ行くか!


「じゃあこれイーサ姉ちゃんに返すわ。威力上がってるから気を付けてな!『ダークストーム』」


 俺は軽口を叩きながら黒魔法をイーサ姉ちゃんに放った。


俺が扱う黒い魔力はどうやらボール系やランス系などの形質変化魔法を苦手としているっぽい。

 だけどその魔力で相手の魔法を侵食することでコントロールを自分のものにすると共に、その魔法の形状のほとんどを受け継ぎ、威力の強化も出来るというものだった。破格すぎて最初驚いたよ。

 因みに情報提供者はクロナだ。正直まだ原理とかはよく分かってない。


「やったか?」


(まだだルクス!イーサ殿は魔法が当たる寸前に得意な風の防御魔法で防いでいるぞ!)


 また風魔法使わせちゃったか、他の属性を使わせるには……よしアレで行こう!




━━━━━━━━━━━━━━




「あれ?ルクスは?」


 何とか魔法を防ぎ切った私はその事に手一杯になっており、ルクスの行方を見失ってしまっていた。


 そしてどうやらルクスはわざと風の魔力で辺りに砂埃を起こして私の視界を悪くしているようだ。

 砂埃を払ってやろうかとも考えたけど、その瞬間にナビによって位置が把握されている私をルクスが狙うのは分かりきっているので止めておいた。


 だとすると、ルクスは遠距離から魔法で私を狙ってくるはず。だったら……


 私は即座に魔法の感知を行うため、瞼を閉じて集中力を高めた。バーバラさんがやってたこと、私にも出来るはず!


 少し時間が経った後、様々な方向から四属性のランス系魔法が私に向かって飛んでくるようになった。

 だけど、私はその魔法に有利な属性の防御魔法を使い分けることで効率的に防ぐことを可能としていた。


 それからしばらく静かな攻防は続いた。


「流石にもう……魔力が……」


 いくら5階級の魔法といっても回数を重ねれば魔力の限界が近づいてくる。しかしそれは相手にも言えることだ。


「こんな所でルクスに負けたくなんてない!頑張れ私!!」


 イーサの魔力が切れたと同時にルクスからの攻撃も止んだ。


「はぁはぁ……よし!耐え切った!定期的に供給される風以外の魔力は底をついちゃったけど、それはルクスだって一緒だもの!絶対勝ってみせるわ!」


 イーサは自分を奮い立たせるように言葉を紡ぎながら、風の魔力で辺りの砂埃を払った。


「さぁ、決着をつけましょ!ルクス!あなたには負けないわ!」




━━━━━━━━━━━━━━




「はぁはぁ……くっそ!仕留めきれなかった!ナビ、相手の魔力の残りとか分かる?」


 俺は四属性の魔力を全て使い果たし、満身創痍の状態だった。


(勿論です。イーサの魔力は風魔法以外底を着きました。しかし、風魔法については精霊からの供給により半分程度回復しているようです。)


 半分かぁ、イーサ姉ちゃんまじ強すぎだろ。でも俺だって負けてらんねぇんだよ!クロナ、今俺が黒魔法を使って魔力の全部が無くなったらどうなるんだ?


(それについては心配するな、我はお前が扱い切れない魔力を沢山しまい込んでるからそれを出してやれば良い!だ、だから絶対勝つんだぞ!分かったか!?)


 クロナに重ねるようにナビも話し始める。


(今の状態ではこの勝負の行方は五分五分です。是非勝利を勝ち取って来てください。)


「心配すんな!俺が勝ってみせる!」


 その言葉を待っていたかのように、イーサ姉ちゃんが風の魔力で砂埃を吹き飛ばした。来るなら来い!


「さぁ、決着をつけましょ!ルクス!あなたには負けないわ!」


 あぁ、今あのイーサ姉ちゃんと互角に戦ってるんだよな、今まで頑張った甲斐があるわ。なんかすげぇ嬉しい……


 ルクスは不覚にも泣きそうになりながらもなんとか抑え、代わりに腹から思い切り声を絞り出した。


「あぁ!俺はイーサ姉ちゃんだって倒してみせるさ!」


俺の言葉にイーサ姉ちゃんは少し微笑んでから、ある魔法の詠唱を始めた。ま、まさか?


「じゃあルクス、とっておきのを見してあげるわ!我が願いに答えよ、疾風怒涛の神よ。嗚呼、その力を我に示したまえ、そして邪なるものたちをその力で清めたまえ!『風神招来』」


「グォォォォァァァァ!!!」


 イーサ姉ちゃんの頭上から光り輝く門が現れ、バーバラさんの召喚した龍とは異なるドラゴンが中から出てきた。


 う、嘘だろ!?あれはバーバラさんだけのユニーク魔法じゃなかったのか?


(恐らくイーサがバーバラのユニーク魔法を見様見真似の荒技で再現したものです。その理由としては、龍ではなくイーサの中に強く残っているカースドラゴンのような風貌が採用されている点などがあります。そして本来カモフラージュであるはずの詠唱が本物の詠唱になっています。)


 その間にもドラゴンが凄いスピードで俺の方に突っ込んで来ている。


 でもあれだって魔法なんだよな、だったら!


「負けてたまるかぁぁぁ!!『ダークハンド』」


 ルクスは自身がコントロールできる全ての黒い魔力をドラゴンに向かって放出した。そしてその魔力は巨大な手の様なものに変質する。

 そしてぶつかり合う大きな二つの魔力。


勝負の結果は……









「第二試合目はイーサの勝利だわさ!」


 バーバラさんの声が遠くに聞こえる。俺負けちまったのか、悔しいな……


「凄く強かったよ!ルクス、また戦いましょうね!」


 イーサ姉ちゃんの優しい声が聞こえた。


 勝負の分かれ道としては、イーサ姉ちゃんが土壇場で放った新たなユニーク魔法に俺の黒魔法が侵食し切れず、先にコントロールできる魔力の量を超えてしまったことにあっただろう。

 冷静に判断するとすげぇ悔しいなぁ!くっそぉ!


「2人とも凄すぎるぜ!デハハ!」


「何ですかアレは!レベルが高過ぎてついていけませんね……」


 俺たちの全力勝負にそれぞれ歓声をあげる孤児院のみんな。


「2人とも歳と技術がチグハグ過ぎるだわさ、ま、これで私が居なくなっても何とかなりそうさね……」


 そしてバーバラの嬉しそうな、そして少し寂しそうな小さい声は誰の耳にも届くことは無かった。


 その後も試合は続いていく。

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